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番外編【夏祭り】5 *奏斗
「もー離せよー?」
「んー。あと少しだけ」
むぎゅう、と抱き締められる。
いや。うん。……まあ、可愛いんだけどさ。じゃあ、これで言ってみるか。
「……四ノ宮?」
「ん」
「浴衣着てるとこ、早く見たいから、一回離して?」
「……」
少しの沈黙の後。
そうっと離される。
「見たい?」
「うん。見たい」
そっかぁ、としょうがなさそうに離れる。
四ノ宮って。
……ひねくれて見えてたけど。なんか、どんどん素直になる気がする。
なんか可愛いぞ。
クスクス笑ってしまいながら、黒の浴衣を手に取った。
目の前で、服を脱いで、上半身裸の四ノ宮に。今更ながら、どきっとしながらも、平静を装って、はい、と浴衣を広げて袖を通せるようにしてあげる。
羽織った状態で、こっちを向いて、そのまま、ジーンズのベルトを外して下を脱いだ四ノ宮。
……なんか。
ベルト外す動作だけで、なんかエッチいなぁ……。
なんかいつも。脱ぐと、すぐ迫られるから。
……条件反射にドキドキするし。ぞく、と。想像しかける自分に、呆れる。
「畳むから貸して」
気を逸らそうと、四ノ宮の脱いだ服を貰って、ちょっと後ろを向いて、畳んで片付けていると。不意に気配がして、背後から、ぎゅう、と抱き締められてしまった。
「わ……何??」
「……なんか、後ろ姿、マジで、そそる」
ちゅ、と首筋にキスされて、ぞくっとして、ぎゅ、と目を閉じる。
わーもう、無理無理! 感じちゃううから、マジでやめて。
と、心の中は、そんな感じ。
「は。かわい、びく、ってした」
ふ、と首筋に息をかけられるだけで、また震えたのが分かる。
やだやだ、無理無理。反応しちゃう。声、やらしくすんの、ほんとやめろよ!!! もう!
「早く着ないと。変に思われちゃうだろっ」
「むー……絶対浴衣、家で着ようね」
「……なんか着てもすぐ脱がされそうな気がするのはオレだけ?」
やっと離れながらも、そんな風に言う四ノ宮に、オレがそう聞くと。
「何で分かるの?」
悪戯っぽく笑って、そんな風に言ってくる。もうその言葉はスルーして。
「今度オレが着せるから。まっすぐしてて」
「……はーい」
クスクス笑いながらまっすぐに立つ四ノ宮。
……似合う、なあ。黒。
背、高いし、もう羽織ってるだけで、なんかカッコイイし。
……うーん。
目立ちすぎて、嫌かも。むー……。
「何で、ふくらんでんの」
くす、と笑う四ノ宮の右手が、オレの顔を、ぶに、と潰して、唇を前に飛び出させる。「ひょっほ、やめへ」(ちょっとやめて)と、文句を言うけど。
「どしたの?」
もう一度聞かれる。
「だって、なんか四ノ宮が浴衣着てると、すっごい目立ちそうだから」
「あ。なるほど。……ヤキモチ?」
くす、と笑う四ノ宮。
「んー違うし。一緒に目立つからやなだけだし」
「ていうか奏斗だけだって絶対目立つけど。しかも、変な奴らの視線がやばそうで、オレも嫌」
「……ヤキモチ??」
「いや、これは、危険だから……?」
「ていうか何言ってんの……」
「……さあ……」
何話してるんだろうと、ぷぷ、と二人で笑ってしまう。
「……四ノ宮って、特別なカッコすると、ほんと、カッコいいと思う」
「特別って?」
「スーツとかさ、浴衣もだし。背高いってだけでも、目立つよね。脚長いし。ほんと。モデルやっても普通に売れちゃいそうだよね」
「興味ない」
バッサリ一言。
あ、そう、と苦笑しながら、四ノ宮の浴衣のひもを縛っていると。
するすると手が伸びてきて、むぎゅ、とまた抱き締められる。
「ていうか、奏斗がカッコいいとか言ってくれんの、すげー嬉しいんだけど」
……本当に、進まない。
オレが悪いのかな、余計なこと言ったから??
これ、腕を回したらさらに抱き締められてしまいそうなので、だらんと、腕を伸ばしていたら。
「なんで、くっついてくんないの」
と、不満げに見下ろしてくる。
……ちょっと可愛い。きゅんとするオレは、バカなのか。と思った時。
「お客様ー、いかがですか? 着られましたか?」
「あ、はい!」
外から掛かった声に、オレは四ノ宮を押しのけ、帯を手に取る。
「あと、帯だけなので。すみません」
「いえいえ、大丈夫ですよ。何かあったら呼んでください」
「すみません」
……なんかほんとにすみません。ほんとならもうとっくに終わってた感じなのに。心の中で言いながら、四ノ宮の帯をくるくる巻いていく。
「あーれー、とか言って、奏斗をくるくるしたい」
「……意味分かんない」
と言いながらも、なんか変な絵が想像できて、クッと笑ってしまう。
「なんか、楽しいね」
ふ、と四ノ宮が笑いながら、そんな風に言うので。
そだね、と頷く。
「よし、完成」
店員さんを呼んで、「これでいいか見てもらっていいですか?」とお願いすると、中に入ってきてくれて、手直してくれる。オレが直してもらっている間に、四ノ宮が「写真撮ろう」と言って、自分のスマホを手に取った。ふと、画面に目をやってから、なんかちょっと固まってる。
「――――どうかした??」
「……あのさ。奏斗」
「うん?」
どうしようかなあ、という、四ノ宮の考え深げな顔。
「何かあった?」
お祭りいけないとか?
そんな風に思ってしまう顔をしている。返事を待っていると、嫌そうに言うことに。
「姉貴からで」
「うん?」
「……オレ達が行こうとしてる祭りに来るんだって。暇してたら、一緒にどう? って。潤が、奏斗に会いたがってるし、て」
「え、そうなの? いいよいいよ。潤くん、会いたいし」
聞いてすぐ、そう答えたら。
……絶対そう言うと思った……と、ぐったりしてる四ノ宮。
(2024/7/7)
🌟二人がずっと仲良しでありますように🎋
(祈らなくても仲良しな気がします笑)
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