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番外編【夏祭り】6 *奏斗
何だかとっても納得いってなさそうだったけど、とりあえず四ノ宮が瑠美さんにOKの連絡を入れてから、四ノ宮は、店員さんに浴衣を綺麗に仕上げてもらった。
「お二人ともお似合いですね。仕事を忘れて、惚れ惚れしちゃいそうです」
店員さんは、そんな風に言って、なんだか手を合わせて拍手をしている。
何で拍手……と苦笑が浮かんでしまうけれど。
……隣に立ってる、四ノ宮を見上げてしまうと。
なんかその拍手気分が分かってしまうから、困る。
なんか、ヤバい。
……普段から、すげーカッコいいのは知ってるけど。
浴衣って、イケメン率が、十割増しくらいになってる気がする。
これは、絶対目立つ、目立ちすぎだよな、絶対。もー。
……正直、潤くんと瑠美さんが居てくれたら、逆ナンみたいなのもされない気がするし、いいかもしれない。と、今思ってしまった。
……それにしても、ヤバい。
四ノ宮を見て、ドキドキしちゃう日がくるなんて、出会った頃は、思いもしてなかったよ。ほんと。うさんくさいって思ってたもんな。
人生何が起きるか、分かんないよな。
そんなことを考えながら、セットについてきた下駄屋や小物たちを身につけながら、私服を紙袋に入れて貰う。四ノ宮が「ちょっとここで待っててね」と言ってさっさと会計に行ってしまったので、オレは店内の壁にかかってる、浴衣姿のモデルさんたちの写真を眺めていた。色んな浴衣があるなあ。四ノ宮、黒もカッコいいけど、紺も良かったな。あーでも、柄物も似合いそう……。なんて、色々眺めていると、ふと、隣に人の気配。視線を向けると、さっきまでの店員さんとは違う、綺麗な浴衣を着た、お姉さん。
「あの、お客様」
「はい?」
「私、こちらの店舗の店長をさせていただいてるんですが」
「あ、はい」
店長さん。何だろう? と首を傾げる。
「もしよろしかったら、お写真を撮らせて頂けませんか? 店内に飾らせて頂けたらと思うのですが。もちろん、モデルとしての規定の料金を払わせて頂きます」
「え。モデル……あ、この人達もそうなんですか?」
写真を見上げて聞くと。
「お客さまもいらっしゃいますし、普通にモデルさんもいらっしゃいます」
にっこり笑って、店長さん。
「お二人とも、とてもお似合いで素敵だと、接客させて頂いた者が、私のところに来まして」
ああ、さっきの店員さんか、とちょっと笑ってしまう。
えーどうしようかな……。
……うーん、出来たら、断りたい、かな。ここに四ノ宮の写真がずっと飾られて、女の子たちに見られるとか。……もうここに来ないから関係ないとしても。でもなんか、ちょっと嫌かも……って、これって、良く分かんないけど、嫉妬かな? ……えー、どうしよう。四ノ宮、どう思うだろ、と一瞬で色々考えていた所で、四ノ宮が戻ってきた。
「奏斗、ただいま。どうかしたの?」
四ノ宮は、オレを見てから、ふ、と店長さんに視線を移した。
四ノ宮と店長さんの視線が合うと。……近くで見たら、余計いいと思ったのかな。なんだか、よりやる気になったっぽい店長さんが、オレにしたのと同じ説明を、なんだか、余計に熱を持って、話し出した。聞き終えた四ノ宮は、少し首を傾げる。
「そう、ですね、モデル……」
四ノ宮は、んー、と考えながら、ふ、とオレを見つめた。何か言った方がいいかな、と思いながら、四ノ宮を見つめ返した瞬間。ふ、と四ノ宮が微笑んだ。
「すみません。あんまり写真好きじゃないので。あと、あんまり見られるのも」
少し言いにくそうにして謝りながらも、とってもはっきり、追加の誘いが出来ないくらいの感じで、断りを入れる。店長さんは、脈が無いなと悟ったらしく、それ以上は言ってこず、荷物などを持って、出口まで見送りに来てくれた。
「ありがとうございました」
丁寧なお辞儀で送り出されて、二人で歩き出す。
「奏斗、写真撮りたかった……とかないよね?」
クスクス笑いながら、そう言ってくる。
「うん。……ありがと。ごめんな、断らせちゃって」
「いいよ。だって、オレが絶対に嫌だったんだし」
「あ、写真撮るのが?」
黒い浴衣を着てる四ノ宮は。
……なんか、ちよっと。
……いや。大分?
なんか、色気がすごくて。
ふ、と微笑まれて、斜めに見つめられるだけで。
どきん、と。胸が弾む。
「違うよ。……奏斗の写真、あんなとこに、ずっと飾るなんて嫌だし」
「――――……」
聞いた瞬間。
……考えること、おんなじだ、なんて思って。なんだか、心が弾む。
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