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番外編【夏祭り】10 *奏斗

 少し屋台から離れたところに、テーブルとベンチの並んだ広い飲食スペースがあって、とりあえずそこで休憩中。 「お祭りで食べると、なんでもおいしい気がするよね」  しみじみ言ってたら、四ノ宮がオレを見て、「そだね」と言いながら、クスクス笑う。 「あ、奏斗、じゃがバター食べる?」 「食べるー」 「買ってきてあげる。奏斗は、ここで潤と姉貴待ってて」  クスクス笑って、四ノ宮が歩いていく。潤くんと瑠美さんは、ふりふりポテトを買いに行ってるので、急に一人になった。どこからか、太鼓の音が聞こえてくる。  夏祭り。  ――四ノ宮と浴衣着て来れるなんて、思ってなかったし。しかも瑠美さんや潤くんと一緒に来れるなんて。  楽しいなあ。  夜は花火。楽しみ。   「ただいまーユキくん!!」  とてとてと走ってきた潤くんが、オレの隣に、よいしょ、と座った。 「おかえり」 「あれっヒロくんは?」 「今じゃがバター買いに行ってくれてるよ」 「そっか」  頷いた潤くんは、持っていた紙袋をめちゃくちゃ一生懸命フリフリしている。その間に、瑠美さんも潤くんの前の席に腰かけた。  なんだか、瑠美さんも、周りの視線を引き付けながら、それを物ともしてない感じは、ほんと、四ノ宮に似てる。 「もういい?」  潤くんが瑠美さんに聞くと、瑠美さんは、ふふ、とキレイに笑って頷いた。 「はい、あーん」 「ん」  潤くんが食べてたポテトを、差し出してくれるので、ぱく、と食べる。 「コンソメのふりふり、おいし?」 「うん。おいしいね。色んな味があったの?」 「あったよー」  言いながら、潤くんも、ポテトを自分のお口に入れる。 「あっおいしいー」 「今初めて食べたの?」 「うん」  にこにこで頷く潤くんに、そうなんだ、と返していると、瑠美さんがクスクス笑った。 「一番最初はユキくんに食べさせてあげたいからって、言ってたよ」  そうなんだ~可愛い……と、キュンとしてしまう。 「一番おいしいから……」 「ん?」  可愛くしゃべる潤くんを笑顔で見つめ返すと、瑠美さんが横から補足してくれた。 「そう。なんか潤がいつも言うことなんだけど。お菓子とかアイスとかも、一口めが一番おいしいと思ってるみたいで」 「あ、なんだか分かりますね」  ふふ、と笑いながら頷くと、瑠美さんも頷いて、また微笑む。 「その一番おいしいと思ってる一口目を、ユキくんにあげるっていうからねぇ、ほんと……ユキくんが大好きなんだと思うけど」 「ほんと嬉しいです」  隣の潤くんをナデナデと撫でていると、潤くんが、じっとオレを見つめた。 「もっと食べる?」 「うん」  ぱく、とポテトを食べさせてもらって、おいしいねぇ、と微笑み合っていると。 「息子と弟が恋敵とか……」 「え?」 「……ちょっと面白すぎる」  呟いて、クスクス笑う瑠美さん。  ……面白いって言ってるし。ていうか恋敵って……苦笑しか浮かばない。 「ただいまー。お、潤、ポテトうまい?」 「うん!」 「良かったな」  四ノ宮が戻ってきて潤くんと話しながら、オレの目の前に腰かけると、テーブルにじゃがバターを置いてくれた。 「なんかものすっごいサービスしてくれたよ」 「ん? 何で?」 「今日一番、浴衣が似合うお兄さんだからって言ってた」 「売る人がお姉さんだったの?」 「いや、おばちゃん」  おばちゃんキラーでもあるのか。と苦笑。 「ていうかまだお祭り始まったとこなのに、今日一番なの?」 「そう言ってた。おもしろいおばちゃんだった」 「そうなんだ」  ふ、と笑ってしまいながら、もりもりのおイモとバターにちょっと驚きつつ。 「これ一人で食べたら、これだけでお腹いっぱいになりそう」 「じゃあちょうだい。食べさせてよ」  四ノ宮が、楽しそうに言ってくる。それ位いいかなあと思って、箸でとって、四ノ宮の口に運ぶ。 「ん、うまいよ」  笑った四ノ宮に、「ヒロくん、ずるいー ユキくん、潤もー」と潤くんが横で騒ぎ出す。 「お前、ポテト食ってんのにジャガイモって」  面白そうに四ノ宮が笑って、そうだね、とオレも笑うと。 「ユキくん、あーん!」  ちっちゃいお口をあーんしてる潤くんがかわゆくて、もう一本の割りばしで、潤くんに食べさせてあげる。 「おいしー」  ほくほくなってる潤くんが可愛い。 「……ほんと面白いわ~」  瑠美さんがクスクス笑いながら言うのが、聞こえる。

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