529 / 542

番外編【夏祭り】11 *奏斗

 山盛りのジャガイモを食べ終わってから、潤くんのお目当ての射的に行くことになった。 「ヒロくん、ほんとにじょうず?」  潤くんが、四ノ宮を可愛くじーっと見つめながら聞く。 「任せろ」 「ほんとにー?」 「疑ってんの?」 「だって、むずかしいんだもん―」  みゅー、としょんぼりしてるのを見て、「こないだやった時当たらなくて」と瑠美さんが付け加える。 「じゃあオレと一緒に打とう」 「うんっ! いこー!」  そんな感じで盛り上がって、四ノ宮と潤くんが楽しそうに前を歩いてる。その後ろを、瑠美さんと並んで、なんとなく話しながら一緒に進む。  瑠美さん、すっごく綺麗だし、ほんの少しだけ酔ってる感じは色気があるし。通り過ぎる男が瑠美さんに気づいて、視線を止める感じ。  うーん、すごく分かる。  綺麗だよね……。 「奏斗、ついてきてね」  振り返って四ノ宮が言う。屋台のある道に出たら、めっちゃ混んでたからだとは思うのだけど。子供じゃないし、ついていくってば、と思っていると。 「ついてきてね!」  潤くんも、同じように言ってくる。聞いた瞬間、可愛さに、ぷ、と吹き出してしまいながら、分かったよ、と返すと、振り向いてた二人はにっこり笑って前を向いた。すぐに、四ノ宮が潤くんを抱き上げた。 「潤、潰されそうだから、抱っこで行く」  視界が高くなって嬉しいのか、わーい、と喜んでる潤くんに笑いながら、瑠美さんが四ノ宮に「よろしくー」と返事をする。  前を行く二人の姿に、微笑んでると、瑠美さんがクスクス笑った。 「大翔には聞いたけど……大翔と付き合ってくれて、ありがとうね、ユキくん」 「え……あ。はい」  ありがとうって言われちゃった。と、頷いて、瑠美さんを見つめ返すと、瑠美さんは、ふんわりと笑顔になった。 「家族旅行中の大翔、見せたかった」 「……?」 「振られた後だったんでしょ? 空港で会った時からもう、一目で何かあったなーって分かる感じだったのよ。最初の頃はずっとホテルに引きこもっててね。潤にも心配されるくらいでね。しばらくほっといたんだけど、復活しないから話し始めて……」 「――――……」  そうなんだ、とちょっと困って頷く。 「振られたって言ってる大翔にね。うちの家族、私もだけど、一回ふられたくらいで諦めるのって、皆がそんな感じで」  クスクス笑う瑠美さん。 「なんか、その気になって、大翔が先に旅行から離脱してったんだけど……帰って行ってから、皆で、あれでうまくいかなかったら、どうしようかって、また心配しだしてね」 「……そう、なんですね」  四ノ宮の家族が、皆でそんな話をしていたというのが、すごく不思議だけど。 「おかしいでしょ、送り出した後で心配するなんて」 「……むしろ、送り出してくれたのが、すごい、です」 「そう?」 「だって、普通は……」  言いかけた言葉に、瑠美さんは、し、と人差し指を立てた。 「普通とか、無いでしょ。……だって、大翔があれだけ好きで、ユキくんを大事だって思ってたの、皆、分かってたから」 「――――……」 「ユキくんの気持ちが分からなかったから、もしかしたら、二度目、振られるかもねって、心配してたんだけど。すぐ、付き合うことになったって連絡が入って来たから、向こうで皆で乾杯してたのよ。まあ潤には、まだはっきりは言ってないんだけどね。もうちょっと、大きくなってからかな」  ふふ、と笑って、瑠美さんがオレを見つめる。四ノ宮に似てる。まっすぐな、綺麗な瞳。 「今日、大翔と一緒にいるの見てて、良かったーって、実感してる」 「そう、ですか?」 「うん。二人、すっごく良い感じで、楽しそうに笑ってるから」 「――――……」  そんな言葉に、なんだかじんわり。目頭が熱くなるのをこらえる。

ともだちにシェアしよう!