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番外編【夏祭り】11 *奏斗
山盛りのジャガイモを食べ終わってから、潤くんのお目当ての射的に行くことになった。
「ヒロくん、ほんとにじょうず?」
潤くんが、四ノ宮を可愛くじーっと見つめながら聞く。
「任せろ」
「ほんとにー?」
「疑ってんの?」
「だって、むずかしいんだもん―」
みゅー、としょんぼりしてるのを見て、「こないだやった時当たらなくて」と瑠美さんが付け加える。
「じゃあオレと一緒に打とう」
「うんっ! いこー!」
そんな感じで盛り上がって、四ノ宮と潤くんが楽しそうに前を歩いてる。その後ろを、瑠美さんと並んで、なんとなく話しながら一緒に進む。
瑠美さん、すっごく綺麗だし、ほんの少しだけ酔ってる感じは色気があるし。通り過ぎる男が瑠美さんに気づいて、視線を止める感じ。
うーん、すごく分かる。
綺麗だよね……。
「奏斗、ついてきてね」
振り返って四ノ宮が言う。屋台のある道に出たら、めっちゃ混んでたからだとは思うのだけど。子供じゃないし、ついていくってば、と思っていると。
「ついてきてね!」
潤くんも、同じように言ってくる。聞いた瞬間、可愛さに、ぷ、と吹き出してしまいながら、分かったよ、と返すと、振り向いてた二人はにっこり笑って前を向いた。すぐに、四ノ宮が潤くんを抱き上げた。
「潤、潰されそうだから、抱っこで行く」
視界が高くなって嬉しいのか、わーい、と喜んでる潤くんに笑いながら、瑠美さんが四ノ宮に「よろしくー」と返事をする。
前を行く二人の姿に、微笑んでると、瑠美さんがクスクス笑った。
「大翔には聞いたけど……大翔と付き合ってくれて、ありがとうね、ユキくん」
「え……あ。はい」
ありがとうって言われちゃった。と、頷いて、瑠美さんを見つめ返すと、瑠美さんは、ふんわりと笑顔になった。
「家族旅行中の大翔、見せたかった」
「……?」
「振られた後だったんでしょ? 空港で会った時からもう、一目で何かあったなーって分かる感じだったのよ。最初の頃はずっとホテルに引きこもっててね。潤にも心配されるくらいでね。しばらくほっといたんだけど、復活しないから話し始めて……」
「――――……」
そうなんだ、とちょっと困って頷く。
「振られたって言ってる大翔にね。うちの家族、私もだけど、一回ふられたくらいで諦めるのって、皆がそんな感じで」
クスクス笑う瑠美さん。
「なんか、その気になって、大翔が先に旅行から離脱してったんだけど……帰って行ってから、皆で、あれでうまくいかなかったら、どうしようかって、また心配しだしてね」
「……そう、なんですね」
四ノ宮の家族が、皆でそんな話をしていたというのが、すごく不思議だけど。
「おかしいでしょ、送り出した後で心配するなんて」
「……むしろ、送り出してくれたのが、すごい、です」
「そう?」
「だって、普通は……」
言いかけた言葉に、瑠美さんは、し、と人差し指を立てた。
「普通とか、無いでしょ。……だって、大翔があれだけ好きで、ユキくんを大事だって思ってたの、皆、分かってたから」
「――――……」
「ユキくんの気持ちが分からなかったから、もしかしたら、二度目、振られるかもねって、心配してたんだけど。すぐ、付き合うことになったって連絡が入って来たから、向こうで皆で乾杯してたのよ。まあ潤には、まだはっきりは言ってないんだけどね。もうちょっと、大きくなってからかな」
ふふ、と笑って、瑠美さんがオレを見つめる。四ノ宮に似てる。まっすぐな、綺麗な瞳。
「今日、大翔と一緒にいるの見てて、良かったーって、実感してる」
「そう、ですか?」
「うん。二人、すっごく良い感じで、楽しそうに笑ってるから」
「――――……」
そんな言葉に、なんだかじんわり。目頭が熱くなるのをこらえる。
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