539 / 542
番外編【夏祭り】21 *奏斗
空がだんだん暗くなって、花火が待ち遠しいなあ、なんて思っていたら、四ノ宮が、「あと三分だよ」と笑った。
「なんで笑うの?」
そう聞くと、ふ、と瞳を細める。
「すごい楽しそうだから。わくわくしてるでしょ」
「――待ち遠しいなーって思ってた」
「うん。だろうね」
クスクス笑う四ノ宮に、バレバレでちょっと恥ずかしいなと思うけど。
向けられる視線が優しくて、なんだか嬉しい。
「花火、好きだよね、奏斗」
「大好き」
「……オレも、花火は好きなんだけど」
「人混み嫌い?」
「あたり」
苦笑する四ノ宮に、ぽいなあ、と笑ってしまう。
「有料席とかあるけど、そこまでして見たいわけじゃなかったから」
「そっか。――今は?」
「今?」
「今の気持ちは? 人混みやだなあって思ってる?」
くすくす笑ってしまいながら、四ノ宮を見上げてそう聞くと。
「奏斗しか見てないから、あんま関係ない」
「――うわ。はず……」
そんな風に囁かれるとは思っていなくて、四ノ宮をまじまじと見つめてしまうと、四ノ宮はおかしそうに笑った。
「奏斗が楽しそうだから、オレも、すげー楽しい」
「――……」
なんでこう……こんなにキラキラな笑顔で言うかな。
なんて答えたらいいか、よく分かんないんだよね……。
「――照れるんですけど」
「っはは。慣れないねー奏斗」
そんな風に言って笑ってから、四ノ宮は、「ていうか、オレも別に言い慣れてないよ」とにっこり笑う。
「言い慣れてるでしょ。ぽんぽんぽんぽん、出てくるじゃん」
「奏斗にしか言ってないもん。思うこと、そのまま言ってるだけだし」
「――――……」
だから。それ、なんだけど。
隣でニコニコ笑いながら、オレを照れさせてる四ノ宮は「あ」と空を見上げた。
「奏斗、空」
「うん」
最初の花火が、夜空にオレンジ色の線を引きながらのぼっていく。暗い夜空をぱっと照らして、大きく弾けた。
わっと、歓声が上がる。自然と笑顔になる。
「綺麗だね」
四ノ宮の声に、うん、と頷く。次から次へと花火が続けて上がる。
「すっご。ここ、花火近いね」
綺麗だなあ、と見上げていた時。四ノ宮の手が、ふ、と、オレの手に触れた。あ、と思ったけど。前の人は振り返らないし、後ろからは見えない感じだし。――何よりも。
心臓が、とく、と弾む。
繋いだまま、隣の四ノ宮を見上げると、四ノ宮は、なんだかすごく嬉しそうに、微笑む。なんかもう。好きだなあ、と、胸がきゅう、と締め付けられる。
――離せる訳、無いし。
軽く触れる程度な四ノ宮の指を、そっと握り返すと。四ノ宮はちょっとびっくりした顔をしてオレを見つめた。
ふ、と笑い返して、そのまままた夜空を見上げる。
「あ、ハート」
「ほんとだ」
「すごいねー可愛いな。どうやって作られてるんだろ、ハートとか……」
「あの顔もねー」
にっこり笑顔の花火を見て、ねー、と顔を見合わせる。
花火の光で、四ノ宮の顔が照らされて、すごく綺麗に見える。
続けていくつもの花火が、夜空に散っていく。音がすごい。
――なんか。浴衣もだし。すごくドキドキ、するなぁ。繋いだ手を、きゅ、と握る。くい、と引くと、ん? と笑顔の四ノ宮が、耳を近づけてきた。
まだ、花火、音すごいから。聞こえるかな、と思いながら、近づいて。
「好き。四ノ宮」
こそ、と囁いたら。
顔を不意にこっちに向けて、びっくりした顔で、オレを見つめた。
「聞こえた?」
って、もう、その顔で、分かってるけど。
四ノ宮は嬉しそうに笑ったけど、その後、なんだか、むぅと口をとがらせて。
「聞こえたけど。――あとでまた言って?」
「……あとで??」
「うん。あとで」
ん、分かった。と頷いて、また花火を見つめる。
こんな風に――四ノ宮と、手、繋いで花火見てるとか。
不思議。……てか、幸せ。
ふ、と笑顔になってしまう。
花火が次々と散って、最後、一番大きな花火が咲き誇った。
白い煙だけが夜空に残って、少しだけ余韻に浸っていると、花火が終わったことを知らせる音だけの花火が鳴った。
皆が一斉に動き出したので、四ノ宮と繋いでいた手はほどいたけれど、人がすごいからか、四ノ宮の手がずっと背中に触れてる。人の流れに逆らわず、ゆっくり駅へと向かう。
――オレ、男だから、守ってほしいとかの気持ちはあまりない。
ただ、四ノ宮がよく、オレに触れて、危なくない方に、とか。ドアを入る時とかも、エスコートするみたいに、支えてくれるみたいに触れる優しい手は、好きって、思う。
あとで言ってって。
好きって。
……まだシラフだと結構、恥ずかしいんだけどな。
なんて思いながらも、ふ、と微笑んでしまう。
(2024/10/11)
花火デート、きゅんです…よね? (´∀`*)ウフ🎆
ともだちにシェアしよう!