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番外編【夏祭り】21 *奏斗

 空がだんだん暗くなって、花火が待ち遠しいなあ、なんて思っていたら、四ノ宮が、「あと三分だよ」と笑った。 「なんで笑うの?」  そう聞くと、ふ、と瞳を細める。 「すごい楽しそうだから。わくわくしてるでしょ」 「――待ち遠しいなーって思ってた」 「うん。だろうね」  クスクス笑う四ノ宮に、バレバレでちょっと恥ずかしいなと思うけど。  向けられる視線が優しくて、なんだか嬉しい。 「花火、好きだよね、奏斗」 「大好き」 「……オレも、花火は好きなんだけど」 「人混み嫌い?」 「あたり」  苦笑する四ノ宮に、ぽいなあ、と笑ってしまう。 「有料席とかあるけど、そこまでして見たいわけじゃなかったから」 「そっか。――今は?」 「今?」 「今の気持ちは? 人混みやだなあって思ってる?」  くすくす笑ってしまいながら、四ノ宮を見上げてそう聞くと。 「奏斗しか見てないから、あんま関係ない」 「――うわ。はず……」  そんな風に囁かれるとは思っていなくて、四ノ宮をまじまじと見つめてしまうと、四ノ宮はおかしそうに笑った。 「奏斗が楽しそうだから、オレも、すげー楽しい」 「――……」  なんでこう……こんなにキラキラな笑顔で言うかな。  なんて答えたらいいか、よく分かんないんだよね……。 「――照れるんですけど」 「っはは。慣れないねー奏斗」  そんな風に言って笑ってから、四ノ宮は、「ていうか、オレも別に言い慣れてないよ」とにっこり笑う。 「言い慣れてるでしょ。ぽんぽんぽんぽん、出てくるじゃん」 「奏斗にしか言ってないもん。思うこと、そのまま言ってるだけだし」 「――――……」  だから。それ、なんだけど。  隣でニコニコ笑いながら、オレを照れさせてる四ノ宮は「あ」と空を見上げた。 「奏斗、空」 「うん」  最初の花火が、夜空にオレンジ色の線を引きながらのぼっていく。暗い夜空をぱっと照らして、大きく弾けた。  わっと、歓声が上がる。自然と笑顔になる。   「綺麗だね」  四ノ宮の声に、うん、と頷く。次から次へと花火が続けて上がる。   「すっご。ここ、花火近いね」  綺麗だなあ、と見上げていた時。四ノ宮の手が、ふ、と、オレの手に触れた。あ、と思ったけど。前の人は振り返らないし、後ろからは見えない感じだし。――何よりも。  心臓が、とく、と弾む。  繋いだまま、隣の四ノ宮を見上げると、四ノ宮は、なんだかすごく嬉しそうに、微笑む。なんかもう。好きだなあ、と、胸がきゅう、と締め付けられる。  ――離せる訳、無いし。  軽く触れる程度な四ノ宮の指を、そっと握り返すと。四ノ宮はちょっとびっくりした顔をしてオレを見つめた。  ふ、と笑い返して、そのまままた夜空を見上げる。 「あ、ハート」 「ほんとだ」 「すごいねー可愛いな。どうやって作られてるんだろ、ハートとか……」 「あの顔もねー」  にっこり笑顔の花火を見て、ねー、と顔を見合わせる。  花火の光で、四ノ宮の顔が照らされて、すごく綺麗に見える。  続けていくつもの花火が、夜空に散っていく。音がすごい。  ――なんか。浴衣もだし。すごくドキドキ、するなぁ。繋いだ手を、きゅ、と握る。くい、と引くと、ん? と笑顔の四ノ宮が、耳を近づけてきた。  まだ、花火、音すごいから。聞こえるかな、と思いながら、近づいて。 「好き。四ノ宮」  こそ、と囁いたら。  顔を不意にこっちに向けて、びっくりした顔で、オレを見つめた。 「聞こえた?」  って、もう、その顔で、分かってるけど。  四ノ宮は嬉しそうに笑ったけど、その後、なんだか、むぅと口をとがらせて。 「聞こえたけど。――あとでまた言って?」 「……あとで??」 「うん。あとで」  ん、分かった。と頷いて、また花火を見つめる。  こんな風に――四ノ宮と、手、繋いで花火見てるとか。  不思議。……てか、幸せ。  ふ、と笑顔になってしまう。    花火が次々と散って、最後、一番大きな花火が咲き誇った。  白い煙だけが夜空に残って、少しだけ余韻に浸っていると、花火が終わったことを知らせる音だけの花火が鳴った。  皆が一斉に動き出したので、四ノ宮と繋いでいた手はほどいたけれど、人がすごいからか、四ノ宮の手がずっと背中に触れてる。人の流れに逆らわず、ゆっくり駅へと向かう。  ――オレ、男だから、守ってほしいとかの気持ちはあまりない。  ただ、四ノ宮がよく、オレに触れて、危なくない方に、とか。ドアを入る時とかも、エスコートするみたいに、支えてくれるみたいに触れる優しい手は、好きって、思う。  あとで言ってって。  好きって。  ……まだシラフだと結構、恥ずかしいんだけどな。  なんて思いながらも、ふ、と微笑んでしまう。 (2024/10/11) 花火デート、きゅんです…よね? (´∀`*)ウフ🎆

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