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番外編【夏祭り】22 *奏斗
河原から少し離れた道を歩き出すと、ぎゅうぎゅう詰めでは無くなった。ほ、と息をつく。
「奏斗、ちょっと待って」
「ん?」
立ち止まると、四ノ宮が浴衣の合わせ目に手を置いて、きゅ、と整え始めた。
「ちょっと乱れてる」
「……ありがと」
なんとなく俯くと、目の前にある四ノ宮の首筋とか、少し上に、唇とか。
……なんかちょっと、やらしく見えてしまうのは、浴衣の効果だろうか。
なんか、ドキドキするし、顔、熱くなりそう。
下までなんとなく伸ばすみたいにして、オレの浴衣を整えた四ノ宮は、自分の浴衣も手早く整えた。
「浴衣なんてそう着ることなかったけど、奏斗と着れて良かった」
「……うん。そうだね。オレも。良かった」
背中に触れた手に、また並んで歩き始める。
「似合うよね、奏斗。ていうか、何でも似合うし可愛すぎるけど」
そう言って、四ノ宮はクスクス笑った。
「ん? 何で笑うの?」
楽しそうな四ノ宮に、首を傾げると。
「なんか、おじいちゃんになっても、奏斗は可愛いだろうなーって思ってさ。そんなこと思った自分がおかしくて」
「――だね。おかしいね」
ふ、と微笑んで。
――それ言うなら、四ノ宮もきっと、かっこいいおじいちゃんになるんだろうなぁ。だって、四ノ宮のお父さん、カッコいいし。あんな感じのおじさんになって、そのまま、カッコいいおじいさんに。
って考えてたら、オレも、ふふ、と笑ってしまう。
「――でも、今オレも、四ノ宮がおじいちゃんになっても、カッコいいんじゃないかなーって思った」
言いながら見上げると、四ノ宮は、ふ、と笑う。
「カッコよく年取れるように、頑張る」
「うん。頑張って。オレもがんばろ」
あは、と笑ってしまうと、四ノ宮はじっとオレを見つめる。
「奏斗って、オレのことカッコいいって思う?」
「――」
なんで真顔でそんなこと聞くかな。つか、浴衣もだし。……なんか。
花火の、高揚した余韻も残ってるし、なんかすっごい、ぽわぽわしてるんだよなぁ、今。
四ノ宮の瞳って、熱っぽくて、なんかもう。今は正直、見つめ返すだけで大変なんだけど。
「オレは、奏斗が世界一可愛いと思ってるよ。マジで」
……うわー。
ほんとはずかしい、びっくり、四ノ宮。
オレが、ふ、と笑ってしまうのは照れ隠しかも。
「世界一カッコいいって、言ってほしい?」
何て答えるのか聞いてみたくて。
すると、四ノ宮は、ふ、と瞳を緩めて、そうだなー、と考えてる。
何て言うんだろ。
ワクワク待っていると、四ノ宮は、そうかも、と頷いた。
「別にほんとに、世界一カッコよくなんてなくていいんだけど、奏斗がオレよりカッコいい人って言って、いっぱい挙げたら嫌かも。って思った」
――なるほど。そういう返事か。
「それなら、居ないから、大丈夫」
「ん?」
「四ノ宮よりカッコいいって思う人、居ないから」
「え、ほんとに?」
「うん。ほんとに。居ないよ」
「そう、なの?」
そんな何回も聞かれると笑っちゃうけど。
「うん。居ない」
「……芸能人とか入れても?」
「うん。考えても、居ないけど」
んーと、色々考えながらそう答えると。
ちょっと不思議そうな顔でオレを見ていた四ノ宮が、ふ、と瞳を細めた。
「ていうか、奏斗って」
「ん?」
「――オレに、べたぼれだったりする?」
「え」
なんだが真っ白に。
な。何言ってんの。恥ずかしいなあ、もう。
「――え、あの……」
かぁぁぁ。赤くなるのが分かる。
「――今さら……じゃねぇの?」
恋したくないって思ってても、離れられずに過ごして。
恋したって思ってから離れたけど、もっと好きになって。
……正直に好きって思ったらもう、毎日、好きばかりなのに。
ハズイなぁ、これ。
ちょっと俯く。
絶対からかわれると思ったけど、なぜかなにも言わない四ノ宮を不思議に思って、見上げると。
口元を隠して。なんかどう見ても、めちゃくちゃ照れている。
――それが分かったら、オレもますます照れる。
わーん、なにこれ。
四ノ宮が変な質問ばっかりするから……!
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