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番外編【夏祭り】24 *奏斗
荷物をロッカーから出して、電車に乗った。
マンションがある方向とは、逆方向。どこ行くんだろう。今日明日一緒に居られる? とか言ってたし。
でも四ノ宮、楽しそうなので、敢えて聞かずに、その顔を見てるのだけど。
電車で、男二人、浴衣。しかも、一人、モデルみたいだし。なんか、色んなとこからチラチラ視線が飛んでくる。別に若い女の子だけじゃなくて。目立つのかなあ、やっぱり。
しかも、なんか、めちゃくちゃ楽しそうに、ニコニコしてるし。
今の四ノ宮はなんか可愛い。
「――奏斗、お腹空いてる?」
「んー……なんか微妙だね。色々食べてたような気もするし。四ノ宮は?」
「オレもちょっと食べたいような。じゃあ、後で何か軽く食べよ」
「うん」
頷くと、四ノ宮は微笑む。
少し電車が揺れると、四ノ宮がつり革の上の棒に捕まって、オレの背中に触れた。
「――――」
帯の上だし、ただ支えてるだけだし。
まあまあ、電車は混んでるし――変に離せって言うのも変かなと思って、そのままにしてるんだけど。
――なんか。
四ノ宮、腕を上げて捕まっていると、浴衣の袖がする、とすべって、手首から肘までがむき出しになる。
Tシャツを着てたら、元々出る部分だし。別に、いつも見えてるし。
――――って思うんだけど。でも。
浴衣の袖から、見えると、なんか。腕、男っぽくて、カッコイイなぁ。とか。オレいっつも、あの腕に抱き締められてるんだよなあ、とか思ってしまって。なんか、少し、顔が熱い。
駅名が表示される、ドアの上の電光掲示板を見る振りをして、四ノ宮の腕から視線を逸らす。――なんか、変に逸らすと、余計、ドキドキする。背中に触れてる手も。帯の上なんだから、感触が伝わってきてる訳じゃないのに、なんか、触れられてるって思うだけで、くすぐったい。
ううーーーーーー。
バカみたい、オレ、何考えてんのー。
んーーーー。
ヤバい。頭がちょっとおかしくなっちゃってるかもしれない。
あれだな、花火で、浮かれてるのかな。なんか今日一日、すごく楽しかったし。今も浴衣着てて、なんか、いつもとちょっと違う感が続いてるし。
ほんとバカみたいだ。
四ノ宮とは付き合えないって、決めたのは、夏休みの少し前のことなのに。
今、こんなにこんなに、好き、とか。
はー。もう。恥ずかしい。心の中、読まれたら死ぬかもしれない、赤面で。
ずーっと、電光掲示板を睨むようにひたすら見つめていたのだけれど。
隣の四ノ宮の視線に気が付いて、ふっと、顔を見上げると。
目が合った瞬間。
なんか四ノ宮が、一瞬顔を退いて。
なぜか、口元隠して、あらぬ方向を見上げ始めた。
…………?? 何?
そんなあからさまに、視線を逸らされると、気になるんですけど。
むむ、と、じっと見つめてると。
四ノ宮は、口元を隠したまま、なんか照れたように、目元をくしゃ、とゆるめて笑う。
ドキ。
ああもう、ドキドキするしもう。
オレもちょっと視線を逸らして、今度は窓の外を見たりして。なんか変な感じでいると、電車がホームに入って、ドアが開いた。四ノ宮が「降りるよ」と肩を抱いてきた。混んだ人の間を抜けて、ホームに降りる。電車のドアが閉まって走り去っていき、ゆっくり歩いてたオレ達の周りには、誰も居なくなった。
「――なんかさ、奏斗」
「うん?」
「浴衣ってさ――ただ、上を見てるだけなのにさ」
「……?」
「首筋とか、顎とか? ――鎖骨とか。めっちゃ綺麗に見えて、やばかった」
「――――」
あ、そういう視線だったの、さっき。
分かった瞬間、真っ赤になる。
だって。なんか。オレも、四ノ宮の腕が、カッコいいとか。
恥ずかしいこと考えてたし。
わーー、オレ達、恥ずかしいな……。
熱くなって、パタパタ顔を仰いでると、四ノ宮が照れたように笑う。
「変だよね、いつも、半袖着てても見えてるのにね」
……変だと思うけど。
オレも変だからなぁ、と、思いながら、隣で照れてる、素直な四ノ宮が、可愛いなと思ってしまう。
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