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番外編【夏祭り】35 *奏斗
その後、食事を終えて、ホテルの人に片付けて貰った。
二人で、夜景が見えるソファに並んで座る。
四ノ宮がオレの手に触れてすりすりと撫でるのを、ちょっとくすぐったいけど、そのままにさせて、夜景を目に映していると。
「それにしてもさ……奏斗の中で葛城って、なんかすごく評価高いよね。まあオレも、争う気はしないんだけどさ」
「んん。そだよね。なんか分かる……あ、でもあれだよね、たこ焼き焼いてた時とか、ちょっと可愛かったよね」
ふふ、と思い出し笑いを浮かべたオレに、四ノ宮は首を傾げる。
「可愛い? ……オレは逆に怖いけどね。いつ、そんなことまでしてたの、って思うとさあ。謎すぎ――まあでも、そこら辺はオレは深くは聞かないことにしてるけど」
「怖いの?」
「んー……オレに関わる大人の中で、怒らせて怖いのは葛城かなぁと思うけど。まあほとんど、怒られたことはないけど……まあそれも、逆に結構怖いでしょ? いつも冷静な諭し、みたいなのはさ」
「あははー。四ノ宮、葛城さんのこと怖いの?」
なんだかちょっとおかしくて笑いながら見上げると、四ノ宮は、ちょっと嫌そうに眉を顰めてから、ふ、とため息をつきながら笑った。
「……まあ。頭は上がらないって感じ」
――否定はしないみたいだ。でも、本気なのか何なのか、クスクス笑いながら「怖い」とか言う四ノ宮の口調には、どう見たって、好意みたいなものしか無い気もする。
「葛城がさ、奏斗と居るオレのことが、人間っぽくて好き、て言うんだから、そうなんだろうとは思うし……まあ、オレも、自分でもそう思うけど。奏斗といると、オレは人間っぽくなってる気がする」
「……んー……ていうか、そう言っちゃうと、オレと居ない時の、四ノ宮は何なの?」
「んー……何だろね。奏斗と会う前は……作り物っぽかった、かなあ。とにかく、完璧目指してたような」
苦笑しながら言う四ノ宮に、一瞬返事が浮かばず、じっとその瞳を見つめた。
「――ん。じゃあ……四ノ宮、今は?」
「今は、楽、って感じ。奏斗と居るオレは素だし、楽しい」
「そっか――じゃあ、良かった」
「ね。良かった」
言い合って、頷いて、ふふ、と笑顔で見つめ合う。
「そういえばさぁ、葛城に会った時、執事って初めて見たって、騒いでたよね」
「だって、初めて見たんだもん。ほんとに居るんだって思ったし」
「――すげえ興奮してたの思い出した」
そうだったような気もするけど……と、あの時のことを思い出す。
くっくっと声を押さえて笑ってる四ノ宮に、ちょっと恥ずかしくなったところで、ふと、気付いた。
「――なんかそういえばさ……あの時、四ノ宮のこと、よろしくお願いしますって言われたよね?」
「――あー。うん。そうだね」
「あれ、ちょっと不思議だったんだよね。普通大学の先輩とかに、大翔さんをお願いします、なんて言わないよね?」
「……まぁ。そうだよね」
四ノ宮は、ちょっと懐かしそうに瞳を細めながら、オレを見て微笑む。
「――あの時、車で送ってもらいながら、葛城に、奏斗のことを話してたんだよ。オレが、本音で話すことになった人がいるって。まさか、葛城と奏斗が会うなんて思わずに、名前も話してたからさ。会って名乗った奏斗を、すげー観察してたし」
「……あ。妙にゆっくり話す人だなってあの時は思った! え、あれ、オレは観察されてたの?」
「そう。葛城が、奏斗のこと、認めたんだよね。だから、よろしくって言ったんだと思うけど……」
「……オレ、何かしたっけ? 大したこと話してなかったと思うんだけど」
「さあ。どこで認めたんだかは聞いてないけど……人を見る目とかはあると思うからさ」
よしよし、と四ノ宮がオレの頭をなでる。
「可愛いなって、思ったんじゃない?」
「……つか、あん時は、四ノ宮だってオレのこと可愛いなんて思ってなかったよね? 葛城さんが可愛いなんて思う訳ないじゃん」
「――ん、オレ? ……オレ、かぁ……」
ぷる、と首を振って、撫でてる手からちょっと離れると、四ノ宮は自分の顎に触れて、んーと考え始める。
「……可愛いとは思ってたよ。顔とか。いろいろ」
「え。絶対嘘でしょ」
「思ってたって。可愛い顔してんのに、何でオレのこと、うさんくさいとか言うわけ、って思ってたし」
「――――」
オレはちょっと首を傾げて、面白そうな顔でオレを見てる四ノ宮を見つめた。
「……そうなの?」
「うん。そう。――――あ、そういえば言ってなかった。オレがあの前日、実家に帰ったのってさ」
「うん?」
「真斗を連れ込んでたのを見て、隣でシてんのかと思ったら、ムカついて無理だったから、なんだよね」
「――――……」
「ほんとはさ、奏斗とご飯食べた日は実家に行く予定は無くて、翌日葛城が迎えに来てくれるって言ってたんだけど。嫌すぎて、あの日に迎えに来てもらったの」
「――――は……?」
「んでさ、駐車場で会った後、いったん別れてから、奏斗んちにアイス食べに行ったでしょ」
ついていけないまま、とりあえず聞かれたことに頷くと。
「あれも……体が痛いとか言ってたのって、夜の間ずっとヤってたのかなーとか……確かめに行ったっていうか……」
「……つか、バスケだったけど」
「そう、バスケってのと、弟っていうの聞いて、もうなんか、脱力したよね」
ははっと可笑しそうに笑う四ノ宮に、オレの眉が寄ってるのはもうしょうがないよね……。
「何、その顔?」
クスクス笑う四ノ宮の手が、オレの頬に触れる。
「だってなんか、四ノ宮、言ってること、変……」
「まあ……オレもあん時は、なんか、いろいろ考えてて大変だったから」
「……真斗がオレの相手だと思ってたの?」
「まあ、あの一日だけね?」
「――――」
うーん……。
……なんといったらいいか、よく分かんないけど。
「――――なんか……いろいろ、ごめんね?」
四ノ宮の手を引き寄せて、さっき四ノ宮がしてたみたいに、そっと握ってみる。そのまま、じっと四ノ宮の瞳を見つめると、四ノ宮は、不意に顎を引いて、何も言わずに、ふい、と視線を少し逸らした。
――あれ。今って四ノ宮。ちょっと、ドキっとしたり、した?
わー……なんか。可愛いかも。
こっちまで、心臓が、くすぐったくなって、ドキドキ、鼓動が速くなる。
(2024/5/16)
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