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番外編【夏祭り】36 *奏斗
ちら、とオレを見て、四ノ宮は苦笑すると、オレの手を握り返した。
「――可愛くごめんねとか言うの、やめて。可愛すぎるから」
引き寄せられて、すぽ、と腕の中。
抱き締められて、自然と目を閉じてしまう。
気持ちいい。四ノ宮の腕の中。
「……全部、謝んなくていいってば」
「――ん」
「全部があって、今があるんだし」
「―――……うん。そ、だね」
……たまに、四ノ宮って、なんか。
――ちょっと変わったことや、とってもすごいなと思うこと、
平気で言うんだよな。……年下なのに。
「ていうかさ、オレだって、いろいろ謝んなきゃいけないことあるし」
「……そう? ある?」
「そう。自分ではいろいろあるよ」
「……まあ、圧倒的にオレの方が多いと思うけどね」
苦笑しながら言うと、オレを抱く四ノ宮の腕の力が強くなる。
「謝ってほしいことなんか、いっこも無い」
耳元で囁く四ノ宮の言葉は、はっきり言いきってくれる。なんだか、心の中がじんわりと、優しい気持ちになる。
「……あったかいなー、四ノ宮」
ほっとして、吐息が漏れる。昼間はめちゃくちゃ暑かったけど、今は空調がきいていてすごく涼しい。サラサラした素肌に触れる四ノ宮の体の熱が、すごくすごく、心地いい。
四ノ宮に埋まったまま、目を閉じていると、くす、と笑う気配。
「――奏斗、眠い?」
「……ん……ちょっと眠いかも……」
「そうだよね、今日暑かったし、ずっと外だったもんね……寝る?」
「でも、寝ちゃうのはもったいない……」
腕の中で目を開けて、目に映る夜景をぼんやり眺めると、四ノ宮も、そうだね、と返してくれる。
「んじゃあさ、歯磨きして、いつでも寝れる準備しよ?」
そんなセリフとともにそっと起こされて、四ノ宮の腕の中から抜け出た。離れるのがちょっと寂しいなんて思って、我ながらなんか、恥ずかしいような、変な気分になりながら、豪華すぎる洗面台の前に、一緒に並んで歯を磨く。
「セレブになった気分……て、四ノ宮はもとからそうか」
「ていっても、オレの力じゃないからなぁ……」
苦笑しながら四ノ宮が言う。
「出来たらオレの力で何かできるようになりたい」
「うん。出来ると思う」
「……奏斗と一緒に会社起こすのでもいいよ?」
「あ、それまだ言ってるの?」
「本気だし」
ふ、と笑ってから、口をすすぐ。タオルで拭きながら、「ここのタオルもすげーもこもこしてる」と埋まっていると、四ノ宮も口をすすいでタオルで口を拭く。
「バスタオルもふわふわだったよね……奏斗が、もこもことか言ってるの可愛いんだけど」
ふ、と微笑んだ四ノ宮がオレの肩に手を回した。
「いこ、奏斗」
「うん……ベッド?」
「さっきのとこの方が、夜景綺麗だから、今はそっち」
言いながら、オレの髪の毛に、ちゅ、とキスしてくる。
「……キザすぎませんか?」
「そんなマジな顔で言わないでよ。自然としちゃってるんだよ、可愛くて。キザとか言われるとやりづらい」
四ノ宮が苦笑しながらそんな風に言うから、笑ってしまう。
そういうのを自然としちゃうのが、キザなんじゃないのかな、と思ったけど、言うのはやめた。ソファに座ると、四ノ宮の足の間に座らされて、すぽっと後ろから抱き締められる。
「……なんか、包まれてる感、すごい」
「ん。包んでる――眠くなったら、寝ていいよ。ベッドに運ぶから」
「……うん」
なんだか心の中がほっこり、暖かい。
「なー、四ノ宮……瑠美さんにお礼言いたいし……寝ちゃってた潤くんにも、会いたいからさ」
四ノ宮の方を振り返って、少し見上げる。
優しい瞳を見つめ返しながら、すり、と頬を寄せた。
「また近い内、会いに行こうね」
「あ、それなら、四ノ宮家に行こっか。家族全員、奏斗に会いたがってる」
「……結婚報告とかみたいな緊張感があるんだけど」
「まあ似たようなもんかな……」
……んん、とちょっと考えていると、四ノ宮が苦笑しながら、言うことに。
「オレも、奏斗の家、行くからさ。来てね?」
「……あ、オレんちの方が、ハードル高いね」
「んー、まあ、そうだね、初対面だし」
「父さんがたぶん、強敵だからなぁ……」
オレがそう言うと、四ノ宮が苦笑してる。
「一回で分かってもらおうとか思わないから。大丈夫だよ。百回でも二百回でも、会いに行けば、いいんじゃない?」
「……四ノ宮のそういう、メンタル強いとこ、ほんと尊敬する……」
「だって奏斗と居られたうえでの障害なら、全然平気だし」
なんでもないことみたいに、そんなことを言う四ノ宮のことが。
オレは、本当に、好きなんだと、思う。
(2025/5/24)
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