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番外編【夏祭り】38 *奏斗
「……信じさせてくれて、ありがとうって思ってる」
オレがそう言うと、四ノ宮は笑いを収めてから。
オレの背にその大きな手を置くと、ぎゅっと抱き締めてきた。オレはもう完全に、少し倒れてる四ノ宮に乗っかってしまってる。
「ん。奏斗がオレを信じてくれてるなら、ほんとよかった」
「うん。ほんと、よかった」
四ノ宮がまた、クスッと笑って、オレの後頭部を撫でてくる。
「ずっと信じててもらえるように、努力するね」
「……努力、なの?」
「うん。やっぱそこらへんて、日々の積み重ねでしょ。努力って言ったらちょっとニュアンスが違うかもだけど……言葉にして、大事にして、ちゃんと、毎日積み重ねてくから。安心してて」
「――――……」
きゅう、と胸が締め付けられる。なんだかそんな風に言ってくれる四ノ宮のことが大好きすぎて、嬉しいのになぜか、喉の奥が痛くなって、視界が滲む。
「オレも……頑張る」
「ふふ。奏斗は照れ屋だからなぁ……無理しなくていいよ?」
「……でも頑張る」
「――――つか、なんか泣いてる?」
「……っ……な、いてないし」
そう言うと、数秒黙ってた四ノ宮が、体を起こして―――だからつまり、四ノ宮に乗ってたオレを、むしろ上からすっぽり、抱き締めなおした。
「……マジで、かわい」
顔は見ないでくれて。
ただ、ぎゅーと包み込むみたいに抱き締められる。
しばらく抱き締めてから、四ノ宮がクスッと笑った。
「――奏斗、ちょっとぽかぽかしてるね」
「……そう?」
「眠いでしょ」
笑いながら言う四ノ宮に、少し、と答える。
「このまま、めちゃくちゃに抱きたい、とも思うんだけど」
「――――」
「可愛いから、眠らせてあげたいなとも思う……困ったなぁ」
「困るの?」
「どっちも本気で思うから。困ってる」
抱き締められたまま四ノ宮の言葉を聞いて、オレも、どっちでもいいなぁ、と思う。
四ノ宮とするのも。一緒に穏やかに寝るのも。
……どっちも、好きだし。
「奏斗はどっちがいい?」
「どっちでも。任せる」
「んじゃあ――めちゃくちゃ抱く……と思ったけど」
「けど……?」
「今日はずーっと暑い中にいて、さっきまでめちゃくちゃ抱いてたからさぁ。無理させるのはやなんだよね」
じゃあ寝るのかな? なんか可愛い言い方で迷ってる四ノ宮が愛しくてふ、と顔が綻んでいると。
「じゃあ、キスしながら、寝よっか。キスしながら寝落ちてく奏斗、可愛いし」
「……その選択肢、無かったじゃん」
過去に何度かしてる寝落ちを思い起こしてちょっと恥ずかしくなりながら言うと、四ノ宮は、ダメ? と聞いてくる。さっきオレが泣いてた時から、ずっと抱き締められたままでの会話が続いてる。オレはもぞもぞ動いて、四ノ宮を見上げた。
「いいよ。キス、しながら、寝よ?」
「――――……っ」
む、と口を閉ざして固まったと思ったら。
はー、とため息をつきながら、額をオレの額に、擦りつけてくる。
「なになに……?」
ゴシゴシされて、ん、と目をつむりながら聞いていると。
「……可愛すぎるからやっぱり抱きたい」
「――どっちでもいいって」
「いやでも……明日も遊びたいから。やっぱり今日は寝かせたい」
「決定?」
「……ん。決定」
後ろ髪引かれてるみたいな声で言う四ノ宮に、ふ、と笑ってしまう。
「……ん。分かった。じゃあ明日、帰ったらシようね?」
ふふ、と笑って見上げると。
また、む、と口を閉ざす四ノ宮。
数秒オレの顔をじっと見てから、やれやれ、といった体で息をつきながら、ブツブツ言い始めた。
「ほんとにさあ。最近、奏斗の顔、かわいすぎて、やばい」
「なんだそれ……オレの顔、最近変わった?」
「表情がね。全然違うから。もう、可愛すぎて死にそうなんだけど、どうしてくれンの?」
「どうしてくれるって……てか、もしほんとにそうなら、お前のせいだと思うけどな」
「オレの?」
「……いや、よく分かんないけど……四ノ宮が居るから、だと思うんだけど」
そう言うと、四ノ宮は眉を寄せて、オレをじっと見つめてから。
「――――……っあーもう。可愛い」
ひょい、と抱きあげられて、そのまますたすたと、歩き始める四ノ宮。
「だから、ひょいひょい運ぶなって……」
「今更」
クスクス笑う四ノ宮にベッドに連れていかれて。
ゆっくり、降ろされた。
(2025/6/14)
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