3 / 22

帰宅

「たっだいま~!」 仕事が終わり、駅からマンションまでどこにも寄らず直ぐに帰る。 早く会いたい、准君に会いたい 心の中はその気持ちでいっぱいだ。 俺は決めたんだ 記憶を無くした准君と、全部やり直すんだ これは、きっと神様がくれたチャンスに違いない。 もう偽るのはやめだ。自分の気持ちに正直になる でも、もし記憶が戻ったら・・ 記憶が戻り、俺を避けるかもしれない それでも、あの時の想いを全部言う。 そして、もし戻らなかったら 今の准君に俺を好きになってもらうために俺は頑張ると決めた。 「あれ?」 いつもは玄関を開けると准君が「お帰り尊」って来てくれるのに 玄関は暗いし、准君は来てくれない 出掛けたってことは無いよね? 玄関に靴はある。 首を傾げながらリビングに行くと 「あ・・・」 ソファに人影が見えてドキッとした。 近づくと、准君が眠っていた。 (もう・・風邪引いちゃうじゃん) 何も掛けず、寝息をたてている。 薄暗い部屋に、准君の白い肌が浮かび上がる 「准君・・」 その寝顔を見るだけで涙が出そうになる。 今の俺は本当に幸せだ。 ソファの横に座り准君の顔を覗き込んだ。 呼吸をする度に赤い唇が微かに震えた。 准君が俺を見る 尊と呼んでくれる 俺が触れても・・君は逃げない 「もし・・記憶が戻ったら、もう尊って呼んでくれないのかな」 そっと頬を恐る恐る撫でたけど、准君は起きる気配が無かった。 ふと、瞼が赤くなっていることに気づいた。 「あれ?」 もしかして、泣いた? 何か合った? 長いまつ毛も微かに濡れているように見える。 睫毛を指でなぞった瞬間 「ん・・・」 小さく体を捩り瞼が動いた。 起きるかと思ったが、まだ寝息をたてている。 「・・准君・・」 夢の中で、泣いてるの? 姉ちゃんのこと思い出して? 「ダメだよ・・思い出さないでくれ」 好きなんだ 俺は姉ちゃんになんか渡したくなかったんだ でも・・・一瞬考えた 姉ちゃんと結婚すれば・・ずっと一緒にいられると だけど・・やっぱり誰かのモノになる准君を見ているのは辛かった 「・・准君・・好きだよ・・・」 頬を撫でながら顔を近づけ、柔らかな唇にそっと触れた。 (これも・・止めないとな~) 病院のベッドで目覚めない准君に俺は何度もキスをした。 触れるだけのキスだ。 目を覚まさない准君にこんなことするなんて、人としてどうなんだとも思ったが止められなかった。 (これで、目が覚めたらな~) なんて、どこかのおとぎ話みたいな事考えていた。 チュッとリップ音を鳴らしながら唇を離し立ち上がった 「さてと・・夕飯作ろうかな~」 准君が寝ている間に作って驚かせてやろうか (冷蔵庫に何があったかな・・) キッチンに行き、冷蔵庫を開けると、食材が沢山入っていた。

ともだちにシェアしよう!