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初対面

雨の日だったと思う いや、雨が降っていたけど夜には止んだんだ。 その日は遅番だったから8時からバイトで、5時頃に目が覚めてボーっとテレビを見ていたんだ。 そしたらインターフォンが鳴った。 こんな時間に訪ねてくる友達はいない。 誰だろうと思いながら玄関のドアを開けるとずぶ濡れの准君が立っていた。 「ど・・どうしたの!?」 驚いたのは、准君がずぶ濡れで立っていたからだけじゃない。 「ゴメン・・急に来ちゃって・・」 「准・・」 ボタンが引きちぎられたYシャツとベルトが外されたズボン姿だったからだ。 何かが合ったのは一目瞭然で 「は・・入って!風邪引くよ」 急いでお風呂のお湯を溜め、浴室に押し込んだのを覚えている。 「・・・怖かった・・・」 暫くして戻ってきた准君は俺のロングTシャツを着て、体を小刻みに震わせながら何があったのか教えてくれた。 「准君・・」 俺は堪らず准君を抱きしめた。 守ってやりたかった・・ それよりも、その先輩ってやつに怒りを感じた。 俺の准君になにをしやがるんだ・・と その事務所は勿論直ぐに退社して充の友達がやっている事務所に入ることになった。 そこで知り合ったのが江角さんだ。 こんな形で、知り合った人だけど、でも江角さんの事務所で働くことになって良かったと思う。 ・ 「さてと、行くか・・」 准君のカウンセリングをしている先生と会うのは少し緊張する (どんな人だろう) 准君の話を聞く限りでは、良い人そうではあるが 何だか楽しそうに話す准君が少し面白くなかったりする。 (俺って・・結構心が狭いよな~・・) そんな事を思いながらタクシーで待ち合わせの店に向かった。 店は、焼き鳥の看板を掲げている居酒屋だった。 暖簾をくぐり店に入ると 「尊!こっちだよ!」 直ぐに准君に名前を呼ばれ店内を見渡した こじんまりした広くない店内の奥のテーブル席で准君が手を振っている。 「お待たせ!」 俺も手を上げながら近づくと、俺からは背中を向ける席に座っていた男の人が振り返った。 「・・どうも、初めまして」 「あ・・初めまして」 礼儀正しく斜め45度って感じで頭を下げた男性につられ俺も営業スマイルで頭を下げてしまった。 「尊、この人が三枝先生だよ」 准君が笑顔で言うと男性は頭を上げてポケットから名刺を取り出した。 「三枝です。よろしくお願いします」 「よろしくお願いします!俺はっと・・」 俺も慌てて財布から名刺を取り出し、差し出した。 「藤堂尊といいます。」 名刺交換をする間、准君は、へ~っと声をあげて見ていた。 「なに?」 「いや、尊が仕事をする時ってこんな感じなのかって思ってさ」 そう言って楽しそうに笑った。

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