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いい人
「玩具の販売ですか!」
俺の職業を聞き、目を見開いて三枝さんが俺を見る。
「と言っても幼児向けなのでね、木の玩具だったり、知能を育てる的な感じだったりなんですけど・・」
「でも、尊は優しいから向いてるよ!」
准君が笑顔で俺を見て言った。
「うん、分かります・・っぽいですもん」
カウンセリングの先生だから、冗談も言わず人を観察するような人なのかと思ったが
三枝さんは、焼き鳥を頬張りながら、楽しそうに笑い話す。
「俺もね~・・この仕事選ばなきゃ営業とか、IT?そんな感じの仕事がしたかったな~」
「へえ・・でも三枝さんは、白衣が似合いそうですよ」
俺が言うと准君が、そうなんだよ!と声をあげた
「先生、カッコいいからね~看護婦にも患者にもモテてるよね!若い女性の患者さん多いし」
「いやあ・・患者さんは、俺が目的で来てるわけじゃないですよ」
そう言って眉を下げながら言った
二人のやりとりを見て胸の奥がチリッと痛む。
(良い人なんだろうな・・)
三枝さんが准君に向ける表情は優しい笑顔だ。
「でも、雨宮さんとはね・・話すのが楽しくて、時間があっという間に過ぎちゃうんですよね」
「ですね・・なんか先生だと、何でも話せちゃう感じで」
言いながら肩をすくめる准君にまた胸の奥がズキっと痛んだ
(・・彼には何でも話せるのか・・)
でも、俺とだって楽しく会話してるし!
「あの、その先生って言うの止めにしません?」
眉を下げて困ったような笑みを浮かべながら言った。
「え?」
「ここは病院じゃないし、今は患者と主治医じゃないし、何というか、友人として付き合ってもらえませんか?」
「あ・・そう・・ですよね」
(・・准君ばかり見てる・・)
准君の隣に座った俺にはあまり視線を向けることは無かった。
「じゃ・・三枝さん・・って呼びます」
俺をチラッと見ると、照れた様に笑いながら言った。
「・・・まあ・・今日は、それで良しとしますか」
(今日は?)
なんだろう・・
この人、苦手だ
話しは面白いし、優しそうだけど・・
なんだか心に引っ掛かるものがある
「尊、コップ空じゃん!飲み物頼む?」
「そうだね・・ビール頼むよ准君は?」
「うん、俺も同じの頼もうかな」
三枝さんのコップを見るとまだビールが残っていたので、とりあえず俺と准君の分を頼んだ。
「お二人は・・本当に仲が良いんですね」
店員に注文したあと、三枝さんが、俺の方を見ながら言った。
「え?」
准君は、少し驚いたような顔をする。三枝さんは、唇に笑みを浮かべていた。
「・・そうですね・・俺にとって准君は大事な人ですから」
俺も笑みを浮かべて言ってやった。
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