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嘘
「なぜ・・嘘をついたんですか?」
唇を噛みしめたのも一瞬で、ため息交じりに言った。
「・・あなたには・・話したくないですね」
理由なんて言えるはずがない。
「雨宮さんの為?彼女が運転していた車で事故がおきて、彼が記憶を無くし彼女も亡くなったから?」
目を細目、何かを探るように俺を見た。
「・・それ、准君に話したんですか?」
俺も彼を睨みながら言う。
「まさか・・言いませんよ」
フフっと失笑しながら言うと、コップに残った酒を一気に飲み干した。
「一応、医者ですから・・私が彼の心を乱すわけにはいきません・・話さない理由もあるのでしょ?」
コップをテーブルに置くとまた上目づかいに俺を見る。
(嫌な感じだな・・)
職業柄なのか、俺の本音を見透かそうとしている感じがした。
「・・三枝さんって・・いえ、カウンセリングの先生って、性格悪そうですね」皮肉たっぷりに言ってやった。
その瞬間、目を見開き頬を膨らませると、プハっと吹き出して笑った。
「ああ、そうかもしれないですね~アハハ・・ハッキリ言われたの初めてですよ~」
何が可笑しいのか、急に笑い出した三枝さんに俺の苛立ちは募るばかりだった。
(嫌だな・・)
病院変えられないのかなと本気で思った。
だって・・絶対この人准君の事・・
「でも、私の提案、考えててくださいよ・・」
笑いすぎて涙が出たのか目尻を押さえながら言った。
「は?」
「これは、私情で言っているわけではありません。あなたは、彼の元を去るべきです。彼に新しい人生を歩ませるべきです」
「何で・・・・」
沸々と胸の奥に怒りが込み上げてくる。
何で、お前にそんな事言われなきゃいけないんだよ!
お前は関係ない奴なのに・・
俺の気持ちも准君の気持ちも知らないくせに
(俺が、今までどんな気持ちで・・)
「あなたねー!」
反論しようとした時
「お待たせ~!いやあ、トイレ一つしかなくて混んでた~」
准君が戻ってきてしまい、慌てて言葉を飲んだ。
「そうでしたか~遅いからどうしたのかと思いましたよ~」
三枝さんが、眉を下げて笑う。
(こ・・こいつ・・・)
二重人格だ!
最低だな!マジでカウンセリング大丈夫なのかよ!?
「はあ・・クソ・・」
吐き出せなかった言葉に舌打ちをした。
「うん?どうした?」
准君が俺の顔を覗き込んだ。
「え!?あ・・いや、何でもないよ!アハハ」
笑ってごまかしたが、それも変に思ったのか首をかしげていた。
准君、この人は止めといたほうがいい・・こいつは、ヤブ医者だよ!
(なんて、言えるわけないよな・・)
こっそり溜息をつきながら、その後は三枝さんを見ない様にした。
准君は楽しそうにしていたが俺は、不安しかなかった。
この人が、いつか准君に本当の事を言うんじゃないかと思うと、酒を飲んでも酔えなかった。
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