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「母さん、まだ会わせられない・・」 『え?』 「今、色々さ・・複雑なんだ、落ち着いたら連れて行くから・・ほんとゴメン」 それが、いつになるか分からないけどと心の中で思う。 今、母親に会わせたら・・ いや、姉と准君の関係を母親が喋ってしまったら・・ 全てを失ってしまう 『そう・・分かったわ・・』 ゴメン母さん・・ 卑怯で嘘つきな俺を許してくれ 考えなきゃいけない事があり過ぎて、どうにかなりそうなんだ。 電話を切り、食べかけのおにぎりを食べる気にもなれず、袋に入れた。 ・ 「はあ・・疲れた・・」 なんか、余計に疲れたような気がする その日の仕事は営業スマイルも最後は引きつりそうだった。 怠い体を引きずりながらマンションに帰ってくると 「お・・お帰り」 出迎えてくれたのは 「あ!江角さん」 「久しぶりだな!」 柔らかな物腰の江角さんがリビングでテレビを見ていた。 「尊、お帰り!夕飯できてるよ」 准君が、キッチンから出てきた。 「うん・・」 ネクタイを外しながら江角さんの隣に座った。 「仕事、お疲れ」 「江角さんも仕事帰り?」 江角さんはスーツ姿だった。 「おう・・ほら、准君の仕事復帰の件で寄ったんだよ・・ついでにご飯も食ってく」 そう言って頬を緩める彼の笑みは、弁護士のギスギスしたような感じは一切ない。 細い瞳が笑みを浮かべると糸のようにさらに細くなる。 「そっちが目的なんじゃないの~」 思わず笑いながら言うと江角さんは小さく肩をすくませた。 「へへ・・准君の手料理美味しそうだもんね~」 「ゴメン・・今日は冷麦なんだ・・」 「うわ!良いね~」 大皿に盛り付けられた冷麦とそばつゆにお腹がグ~っと鳴った。 「さ、食べよう」 准君の掛け声で三人でテーブルを囲み、冷麦を啜る。 「ん・・うっまい!」 一気に啜り、汁が飛び散った。 「久しぶりに食べたな~あ、薬味入れていい?」 「うん、あ・・ネギとね、みょうがと、こっちは青シソ」 小皿に盛られたみじん切りの薬味 江角さんが、それを汁の中に入れる。 それを見て俺も青じそを入れようとした時 「あ!あと、これ!」 そう言って、袋を取り出した 「うん?」 「これ買って来たんだ!磨り胡麻!尊、好きだったでしょ?」 満面の笑みで摩り胡麻の入った袋を俺に見せた。 「うん!そうそう、胡麻入れると美味しいんだよ!ありがとう!」 准君から胡麻の入った袋を受け取ろうと手を伸ばした時・・ 「・・・え?」 伸ばした手が止まった。 「准君・・・」 手が止まった俺に准君が、何?と首を傾げた。 「あの、准君・・今さ・・」 「・・え?」 目を見開き俺を見る。 「言ったね・・尊が好きだったって・・藤堂さん教えた?」 江角さんが、俺を見る。 「ううん・・言ってない」 慌てて首を横に降る。 そこで、ようやく准君も気付いた。 「あっ!・・俺・・」 磨り胡麻の袋がポトッとテーブルに落ちた。 「・・思い出してるね・・」 江角さんが、眉を下げて言った。 「何でだろう・・これは、尊が好きだから買わないとって・・思ったんだ」 「・・・・・」 准君の記憶は・・確実に戻ってきているようだ。

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