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思い出したい(雨宮)

尊が磨り胡麻を入れるのが好きだったと言う記憶は、本当に何気なく思い出したことだ。 買い物をしていて視界にそれが入り、そういえば・・といった感じで買ったのだ。 そんな自分に驚いている。 こうやって記憶が少しずつ戻っていくのだろうか 「・・それは良い傾向ですね」 次の日、すぐに病院に行き先生に話すと嬉しそうに顔を綻ばせた。 「他にも何か思い出した事は無いですか?」 「よく・・夢を見るんです」 それが、記憶なのかは分からない。 「・・それは、どういう夢だか覚えていますか?」 「全てでは無いですけど・・断片的には・・」 夢を見た感覚はあるけど、朝起きると大半は忘れてしまっていた。 「そうですか・・雨宮さん、夢と言うのは記憶の商品整理みたいなものなんですよ」 「商品整理?」 「潜在意識の記憶だったり・・自分で気にも留めてない事だったり・・もしかして、雨宮さんの記憶が徐々に蘇っているのかもしれませんね」 「・・はい・・」 この頃、俺はほぼ毎日先生の所に通っていた。 それは、思い出せない日常が辛いからだけではない 早く・・早く思い出したいんだ 先生の所に来れば思い出すって事ではないが 第三者に話を聞いてもらえると、頭の中がスッキリする。 それが、思い出すきっかけになるのではないかと思った。 それに、尊に話せないことも先生なら話せる。 「ちなみに、藤堂さんの夢ですか?」 「・・のような気もするし・・ほんと大半は忘れちゃうんです」 いや、嘘だ 尊の夢しか見ない。 断片的に覚えているのは尊の笑顔や・・ 見たことないはずなのにカクテルバーでシェイカーを振る姿・・ そして・・ 「准君!」 俺を見て、満面の・・あの太陽のような笑みを浮かべる尊に俺の胸が大きく脈打つ感じ それと同時に・・ 『准・・・』 尊によく似た女性の少し悲しそうな顔も覚えている。 彼女は、尊のお姉さんだろう。 「・・雨宮さん・・大丈夫ですか?」 不意に先生の表情が曇る。 「え?」 「いえ・・彼と一緒に住んでいて・・辛くはないですか?」 「・・先生・・俺、辛くないです」 「・・・」 俺の言葉に先生は眉をしかめた。 確かに色んな感情が湧き上がる。 喜びや悲しみ・・何で悲しくなるのか自分でもまだ分からないけど・・ でも忘れた記憶の俺が言っているんだ。 離れちゃダメだ・・ もう離れたくないって 「だから・・早く記憶を取り戻したい・・」 自分にとって、彼がどれだけ大切な人なのか分かる。 何故大切なのか・・ 知りたい・・ 自分のこの感情の答えが知りたい 嬉しいのに・・悲しくなる理由が知りたいんだ。 「雨宮さん・・・焦りは禁物ですよ?」 「・・はい・・」 頷いた俺に三枝先生が、手を握りながら 「お昼、一緒に行きませんか?」 と誘われた。

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