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タイムリミット

「藤堂さん、もう時間無いと思うよ」 充はそう言って、眉を顰めながらビールを一口飲んだ 「・・・・」 俺は答えられずに、目の前にある皿に乗った焼き鳥を見つめていた ここは駅前の居酒屋。 店は、あまり広くなくカウンター席とテーブル席が4つあるくらいだ。 店内はほぼ満席で、賑やかなBGMが人の声で消されるくらいにはうるさかった。 だが俺と充のところだけは、沈黙が走る 「俺の事も思い出してきてる」 そう言って、今度は大きく息を吐いた。 今日は仕事が遅くなってしまい、夕飯は外で食べていくと准君に連絡した次の瞬間、充から話があるとメールが来た。 「准君のカレー美味しかったよ」 「いいな~・・江角さんも来たんだって?」 二人が来て夕飯は一緒に食べることになったと、准君からメールは来ていた。 「まだ、いるんじゃない?」 そう言って、またビールを飲む。 充は腹がいっぱいだからとビールだけを頼み、俺は焼き飯と焼き鳥を頼んでいた。 「もう・・思い出しちゃうのかな」 「江角さんの所で働き始めたら・・余計に思い出すきっかけは多くなるだろうね」 「そうだろうね・・」 それに、准君は早く思い出したいと言っている。 「お姉さんの事すっげー気にしてるよ?」 その言葉にドクっと心臓が鳴った 「・・・・」 返す言葉が無くて黙ってしまった俺に充は、ハアっと深く息を吐いた 「今更だけどね・・今更、お姉さんは恋人でした・・なんて話せないと思うけどさ、せめて、あなたの気持ちを言ったら?」 「言うって?・・何を言うんだよ」 息苦しさを感じながら、俺は水を飲んだ 「だから・・准君の事が好きだったってさ」 「!!」 顔を上げると、眉を下げながら微笑を浮かべた充が俺の皿から焼き鳥を一本取った。 「あ!」 「見てると食べたくなるよね」 ニヤッと笑うと焼き鳥を頬張った。 「食べたかったら頼めよ!」 もう・・と充から皿を遠ざけるように自分のほうに引き寄せた。 「言っちゃえよ・・ぶっちゃけさ、准君だってあなたの事好きよ?記憶失ってもあなたに惚れこんでんじゃん?」 「そんなの・・分かんないじゃん・・」 うな垂れながら、おにぎりを一口食べた 「分かるだろって!・・普通、好きでもない奴と毎日手を繋ぎながら一緒に寝れないよ?」 「うっ」 そんなことまで言ったのか・・ できれば二人だけの秘密にしたかったのに・・ 「もう誤魔化すのは止めろよ」 「もし・・もしだよ?」 コップに残った水を一気に飲み欲しドンとテーブルに置きながら俺は口を開いた 「俺の気持ちを話したとしてだよ?」 「うん・・」 「奇跡が起きて、それで准君が受け入れてくれたとしてだよ?」 「なんだよ・・何が言いたいんだよ」 意味が分からないと眉を顰める充に言ってやった。 「・・もし、記憶が戻ったら・・やっぱり准君は俺を受け入れてはくれないと思う」 実際・・記憶を無くす前の潤君だって・・俺の気持ちに気づいていたはずだ。 准君も俺に少しは気持ちがあったかもしれない・・でも・・ でも、彼は俺を選んではくれなかったんだ・・ 「あのね、彼は、すっげ~~鈍感だよ?」 「・・え?」 「それでいて、あなた以上に臆病で・・藤堂さんが准君を思う以上に・・」 そこで言葉を止めると、眉を顰め俺をまっすぐに見た 「准君はあなたの事が大好きで・・大事な人だったと思う」 「・・・・・」 その瞬間、周りの雑音が一切聞こえなくなった。 充の言葉が鼓膜の奥に響く 「藤堂さんがちゃんと好きだと言わない限り・・准君はあなたの気持ちを信じられないんだよ」

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