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帰宅
俺の気持ちには気づかなかったのか?
本当に?
「でも・・記憶を無くす前もさ、俺達、手つないだりしたよ?」
「手を繋いで寝てはいないだろ?」
「そりゃ、無いけどさ・・」
准君が司法試験受かった時も一緒にお祝いしたし、俺の部屋で過ごすことは多かった
そりゃ、自分の気持ちを言葉にすることはなかったが、でも・・
「気づかない・・かな・・」
確かに、気づかないから姉さんと婚約したのかもしれない
俺の気持ちを知っていれば、そんなことをしなかったか・・
はあ・・と思わず深いため息をついた
「だから~鈍感なんだって!な?今でもそうだろ?」
「・・・まあ・・そうかな・・」
確かに今も俺の言う事に疑うことなく素直に聞いてくれるし・・
「同じ過ちは繰り返すなよ・・な?」
「・・・うん・・」
同じ過ち・・か・・
今の准君に俺の気持ちを伝えたら・・どうなるだろうか
准君も俺の事を好きだと言ってくれるかな?
いや・・
(でも・・このまま黙っていても・・前には進めないよな・・)
充の言うとおりだ
もう時間は無いんだ
ずっと・・このままずっと二人で暮らせればと思うけど
だが准君の記憶は戻りつつある
一生記憶が戻らなければいいと願っていたが、准君はそれを望んでいないんだ
「まったく‥本当にあんたらは面倒くさいよね・・」
そう言って、充は心底呆れたような顔をしていた。
・
仕事が終わり、急いでマンションに帰ると
「尊!お帰り!」
「・・・准君・・」
満面の笑みで玄関まで迎えてくれる准君に胸がいっぱいになる。
しかも・・
「エプロン、似合うね・・」
今日は紫色のエプロンをしている。
「これ?この前、買い物に行ったときに見つけてさ・・色が気に入って買ってしまったんだ」
「へえ・・そうか・・」
紫色のエプロン姿が・・妙に艶めかしく見える
思わず手を伸ばしたくなるのを堪え、奥歯を噛み締めた。
(恋人になれれば・・その肌に触れてキスだってできるんだよな・・)
「・・尊?なんで唇尖らせてんの?」
「え?あ・・いや何でもない・・」
唇を指で摘まみながらリビングに行くと
「お帰り~」
江角さんがテレビの前に座り、入ってきた俺に柔らかな笑みを浮かべた。
「江角さん、ただいま~」
「お邪魔してます」
「うん・・充から来てるって聞いた」
ネクタイを外しながら言うと
「え?会ったの?」
准君が驚いた顔で俺を見た。
「あ・・ああ・・偶然、駅ですれ違ったんだよ」
「へえ・・?」
首を傾げると冷蔵庫から缶ビールを持ってきてくれた。
「尊、飲むだろ?」
俺にビールを渡しながら笑みを浮かべる。
「・・うん・・」
それを受け取りながら、もし・・俺の気持ちを話せば・・俺に微笑みかけてくることも無くなるかもしれないと思い、胸が痛んだ。
「俺、食器洗ってくるから・・」
「おう」
江角さんが短く返事をするのを見ながら缶ビールを手にソファに座る。
「はあ・・」
「・・充に会ってたのか?」
俺のほうに顔を向け小さな声で言った。
「・・うん・・」
「・・そっか」
それだけ言うと、テレビに視線を戻した。
「准君・・藤堂さんの事ばかり話してたよ?」
「え?」
「早く帰ってこないかな~ってね・・」
テレビを見ながら言った。
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