21 / 22

揺らぎ

「愛されてるね・・羨ましいよ」 江角さんがそう言って目を細めて俺を見た 「そんな事・・」 今の准君は俺を好きなわけじゃない・・ 俺を頼っているだけだよ 家族のいない彼にとって・・俺は、家族のような存在なんだ でも、そこに付け込んだのは俺だ 俺の気持ちに少しでも気づいてくれたら、もしかしたら前とは違う関係になれるかもしれないと思ったが 「はあ・・出発地点間違えたかな~」 「へ?」 俺の呟きに江角さんが首を傾げる 「ううん・・こっちの話し・・」 (どうせ嘘つくならさ) 恋人だよって言えばよかった そうすればさ・・ 「キスもできたのに」 ボソッと本音が零れた時 「え?キスが食べたかった?」 准君が目を見開いて言った 「え!?!?」 それにさらに驚いた俺は体が硬直する 顔を上げるとエプロンを外しながら潤君が俺を見ていた 「キスってさ、天ぷらにすると美味しいよね!」 「ふぇ?」 キス・・ああ、天ぷら? 「うん、キスってさ、釣り初心者でもやれるんだよ~砂浜釣りとかね」 江角さんが大きく頷きながら言う。 「江角さんは釣りするんだよね?」 「おう」 「あ・・ああ・・あああ!!釣り・・釣りね!!」 硬直していた俺も、慌てて話を合わせ大げさに頷いた。 「うん?」 准君が、また怪訝な顔で俺を見た。 「アハハ・・いや、魚のキスね!うん・・美味いよね天ぷら!」 一瞬、何言ってるか分からなかったよ! 「尊・・どうしたの?顔真っ赤だよ?」 「あ・・いや、そう?アハハ」 笑ってごまかすしかなかった。 「ククク」 江角さんが、下を向いて肩を揺らしている。 「何でもない・・はあ・・キスの天ぷらね~」 「・・・・?」 ・ ・ それから、一時間ほどして江角さんは帰った 帰りがけ、玄関で見送る俺に言った。 「来週から仕事するけど、安心して・・無理はさせないから」 「うん・・何か合ったら」 もし、もしも記憶が戻ったら直ぐに教えてほしい。 「すぐ知らせるよ」 言葉にしなかった俺の気持ちが分かったのか、大丈夫と肩を叩きながら言って玄関を出て行った。 リビングに戻ると准君はテレビを見ながら笑っていた 「・・・・」 楽しそうに笑う彼を見ているだけで、胸がいっぱいになる。 「あ!尊・・これ面白いよ!ほら」 「うん・・」 手招きされて准君の隣に座った 肩が触れるだけで胸の奥が疼いていく もし、俺の気持ちを話したら・・知ってしまっても、こんな風に隣で笑ってくれるだろうか 俺の事を尊と呼んでくれるだろうか 「ね・・あれ、ウケるよね!面白くない?」 「あ・・うん・・面白いね!」 テレビの中では芸人がコントをしていた 「記憶が無くてもさ~、こういうの見て笑えるもんなんだね」 「・・そうだね・・」 ああ・・どんどん決心が揺らいでしまう この時間がずっと続いてほしい でも、それは叶わない夢だろう だったら、俺が覚悟を決めて前に進むしかない 「准君!!」 「!?ビックリした・・なに?急に大きい声出して・・」 「あのね・・あ・・明日!」 「え?」 「明日・・話したいことがあるんだ!」 どこまで伝えられるか分からないけど、でも・・このままじゃダメなんだ

ともだちにシェアしよう!