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第3夜 人形供養に来たモノ

私の家は、神社をやっている。 昔から累々と続く、歴史の古い神社だ。 神社の中には、盛り沢山の人形が積まれている。 ありとあらゆる……。 キューピーちゃん、少女の最初のお友達になる日本人には親しみある人形、モンチッチ、マネキン、フランス人形、こけし……。 今日運ばれて来たものは、そんな中で、滅多に見ないような代物だった。 祓うのは専ら私の両親の仕事で、私はただの会社員になりたての一般企業に勤める人間であった。 そんな私が父親に呼ばれ 「おい、運ぶのが大変だから、一緒に手伝ってくれるか」 と、休日のある日に頼まれた。 家の前に出ると、門に車が停められ、車の中から運び出されている真っ最中だったのは なんと裸の人型等身大の人形だった。 これは、一般的には擬似性交目的として使用される用途の、ダッチワイフと名付けられている代物だ。 下着だけが履かされている状態の人形を見て、驚きが禁じ得なかった。 運転手と父親の二人がかりで運んでいる。 結構重いものらしい。 私が交代すると、運転手は父親に頭を下げて、車のエンジンをかけ走り去っていった。 これは確かに老齢の父には負担がある重さではある。 運びながら私はずっと驚いていた。 だって、このダッチワイフは女性の形をしていない。 男性型の人形だったからだ。 人形ばかりが集められている本堂に、このダッチワイフは同じく座らされ並べられた。 世の女性もこういうものを使って自分を慰めているのだなぁ、と私は妙に感心した。 父親は腰を叩きながら息をつくと 「明日本格的に魂抜き供養をするから、悪いけどおまえはこれに三時間、祝詞を唱えてくれ」 とまたもや面倒事を頼まれてしまった。 父親は寝るのが早い。仕方なかった。 父親は母屋に帰っていった。私は本堂に残って祝詞を唱えた。 清酒が皿に置かれ、塩が盛られている。 なぜか私は唱えている途中で、うつらうつらと眠くなってしまった。 普段なら眠る時間なんかじゃない。 目を開けると目の前にはあの男のダッチワイフ人形がいた。 ダッチワイフ人形は移動をしていた。 欧米男性のマネキンのような形をした下着だけはいた人形は、すぐさま私に襲い掛かってきた。 「たすけ……」 人形に襲われ成すがままにされてしばらく時間が経つと、本堂の白い障子の奥にぼんやりと父親の影が浮かぶ。 父親は声をかけてきた。 「オーイ、人形を供養するためにしっかり腰を振りなさいよ」 「助けてくれぇ」 父親の影は尚も向こう側から言葉をかける。 「オーイ、人形を供養するためにしっかり腰を振っておあげなさいよ」 襖に浮かぶ影は微動だに動かない。 暫くするとまた声をかけられる。 「オーイ、人形を供養するためにしっかり腰を振っておあげなさいよ」 「オーイ、人形を供養するためにしっかりと腰を振っておあげなさいよ」 「オーイ、人形を供養するためにしっかりと腰を振っておあげなさいよ」 私はそばに盛塩が盛った皿があるのに気付いて、掴んで、人形にブチまけた。 塩をかけられた人形は一切動かなくなった。 立ち上がり、影が映る襖に駆け寄ってガラッと開けてみると そこには、 誰も何もいなかった。 その時、人形の口が開いた。 「オーイ、人形を供養するためにしっかりと腰を振っておあげなさいよ……」 私は言われなくても気付いてしまった。 この人形を使っていた元の使用者は、私と同じ男だったのだ。 人形供養に来たモノ    終

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