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第4夜 人面のシミ
大学に通うため、大学近くの立地にアパートを借りて、一人暮らしをしている。
通学に相応の距離の、1DKの風呂トイレ別アパートだ。
そのアパートは学生向けに貸し出されている物件というよりは、入居希望条件の間口を広く貸し出しをしている極普通の平凡なアパートなのだが、地方の親元から遠距離で不動産会社と様々な契約を行っていたため、物件を直接見る機会なく入居を決めた。
そのため入ってみてから色々と気付かされてしまった。
排水がいまいち良くない、カラスが良くゴミを食い荒らしに来る、それと………部屋の壁に妙なシミがある。
丁度寝床にしている場所あたりの壁に、人間の顔のように見えるシミがある。
灰青の壁紙の中、そこだけまるで人の顔の輪郭のように白く変色をしていて、黒の丸い目と、鼻と口らしき線が浮かんでいる。
なんだろうこれは。
気味は悪くないといえば嘘にはなるが、ポスターで隠したり、本棚で隠すほどまでのことをして神経質になっているわけでもない。
そのままにして、日々新生活に追われていた。
ある日の晩、俺は自分の家の部屋の中で、そばにティッシュケースを寄せながら自慰をしていた。
何を思ったか、自慰をしている最中に、その人面シミの口元を舐めてしまった。
一回舐めると止めようがなくなり、キスをするように自分の唇を人面シミの口部分に何回も押し付けながら、自分の体を弄りそそり立つ局部を擦っていた。
そうするとそれが習慣的な行為となって染み付いてしまい、俺は毎回その人面の顔ジミにキスをしながら、自慰行為に没頭する様になった。
そうこうしている内に壁のシミの変化に気付いた。
シミの模様が、段々細かく、詳細がはっきりとしだし、ただの白と黒の集まりがそれらしく見せていただけのシミが、本物の人間の顔そのものに近付いて来たような気がするのだ。
それでも、俺は自慰中にその顔型にキスをする行為を止められはしなかった。
シミはどんどん日増しに濃くなっていった。
とうとう、壁の顔が写真のように、鮮明になっていきつつある。
キャンパスを歩いていると、後ろから教員に声をかけられ、大学のゼミ全員で撮影した集合写真を渡された。
教員が青白い顔をしていたので、何だろうと中身を取り出したら、うわと声が出そうになった。
俺の顔の部分だけ、何枚も他の人と違う。
どの写真も白くなって目や鼻は黒く象られ、まるであの壁のシミのような顔が全部俺の顔に変わっていたのだ。
これはマズイ、と思ってすぐさま自慰中にあのシミに口付けするのは一切止めるようにした。
引っ越しもしようと決心した。
引っ越しを伝える時に不動産会社に問い正して見た。
「実はあの部屋、前の入居者の男性が亡くなっています」
やっと白状した。
「病死でしたが、発見が随分遅れて。部屋の中で座りながら壁に体を寄せて亡くなっていたんです。こう……丁度顔が壁に当たる感じで」
それがあのシミの場所だった。
地元の親に頼んで引っ越した先は快適だった。
ちゃんと内見して、事前に調べたし、建物周辺の環境も調べて越した。
大学との距離も問題はない。何をしようにもどこにいこうにも便利だ。
ただ一つだけ気になることがある。
最近、寝ているすぐ真上の天井の壁がなんだか変色してきて、人の顔に見えるシミがぼんやりと浮かんで来たのだ。
引っ越した当初には無かったのに。
人面のシミ 終
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