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第8夜 人魚の家系
うちの家系の祖先は、古えの時代砂浜に打ち上げられた人魚と交わり、それで出来た子孫の家系が自分の家なのだと語り継がられている。
だからか、うちの家は魚鱗病の人間が産まれやすい。
自分も生まれつき皮膚が鱗化する皮膚病持ちとしてこの世に誕生した。
現在この病気への明確な治療方法は未だ見つかっておらず、出来ることといえばひたすら保湿クリームなんかを塗布するだけのみとなっている。
蝉の無くこんな季節は皮膚のカサカサと多量の汗が同時に肌に負担をかけ、冷房の乾燥も加わり、結果的に肌の乾燥を繰り返して地味につらい。
厚く重なり過ぎた鱗はそのままだと害になるので、かかりつけの医師にピンセットで剥がして貰ったり、ヤスリなどでこそいで貰ったりしていた。
昔からかかっている医師は引退し、いつの間にか息子であるらしき年若い青年が代表となり変わっているクリニック。
ピンセットで自分の鱗を一枚一枚剥がしながら医師は語りかけた。
「知ってるかい。魚の鱗はね。栄養の貯蔵庫なんだ。
鱗の一枚一枚には、カルシウムなんかのミネラルがギッシリ固まって貯められてるんだよ。
魚は体の中の栄養が足りなくなると、鱗を分解して栄養を再補給しているんだよ」
ピンセットの先の剥がした鱗を眺めながら医師はそう独り言のように語りかける。
窓の外はなかなか日が落ちない夏の夕暮れだ。
いや、もうれっきとした夜の始まりだ。
幼い時分からかかりつけて通院しているために、時間外でも自分が駆け込めばこうして開けてくれるクリニックだった。
銀色の膿盆に剥がした鱗を一枚ずつ捨てながら尚も語る。
「魚の鱗はね、食べられるんだよ。コラーゲンとカルシウムで出来てるんだから。コラーゲンのサプリメントの原料にもなってるんだから」
じく、とする感覚が走るが痛くはない。
ピンセットでつままれ、引っ張られる感触がしながら、体の鱗は剥がされていく。
「プルプルしていて美味しいんだよ。料理にも使われるんだから。鱗を鍋に入れたら鱗のコラーゲンが溶け出して具材を絡め合うし、揚げてもカリカリして美味しい。甘く煮付けても、軽く焼いてパリパリと食べても美味しいんだ」
膿盆と呼ばれる医療用のバットには盛山が出来るほど剥がした干からびた皮膚が集まった。
医師は剥がし終わった皮膚を全部載せた盆をドアを開けどこかに持っていく。
「先生、ありがとうございました。そういえば、最近鱗が妙に柔らかくて、なんか異常が無いでしょうか」
「ん?そんなことないよ。変わらず美味しかったよ。…………ごめん、ごめん。間違えた。それは気温の変化が影響しているだけだ。大丈夫。気にしないで平気」
この先生もしかして、と思った。
人魚の家系 終
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