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第10夜 百物語の夜には
現在、百物語の最中だ。
小学校の体育館を借り切って、私達は今、百物語イベントを行っている。
ちゃんと百人勢揃いしている。
夜の18時から始まり、時刻はもう0時をとうにまわり、それからもう何時になったかは既に数えていない。
携帯の電源は落としてから久しい。
体育館に時計は無い。
百人の、見る限り、全員男が正座して、次から次へと自分が持ち込んだ怖い話を、おどろおどろしく、淡々と、時にはコミカルに、思いおもいの話ぶりを用いてロウソクを持ちながら語っている。
話した人間はロウソクの火をフッと消す。
ロウソクの火が全部消える時──
百物語が全部語られ終わる瞬間には──
恐ろしい何かが現実に起こると伝えられている──
それからどれだけ時間が経ったろうか。
残す最後のあと一人の番がついに訪れた。
最後の一人の話す怪談は拍子抜けするほど怖くなかった。
日常小話のような、なんだかふにゃふにゃした話をもぞもぞと喋っていた。
既に眠いのかもしれない。
ふっとロウソクの火が消えた。
真っ暗闇だ。
体育館の中は完全に光が潰えた。
目が慣れてくると、薄暗闇の中を人の輪郭が百人分並んでいるのがわかる。
私はギョッとする。
百人が正座しながらこちらに首を向けて視線を集中させて見ているのだ。
顔は暗いせいかのっぺらぼうのように黒くて全員どんな表情をしているかわからない。
形容しがたい緊張感が私の体をこれ以上無いくらいに硬らせた時、何者かの手が私の肩を掴んだ。
驚くがすぐに腰のあたりも掴まれ、何本の人の手が私の体の手足、胴頭、そして足の裏さえもを掴む。
いつの間にか私の周りに人が波の渦のように集まり、叫ぼうとも、硬質の壁を滑る反響音として体育館の中を、球のようにポーンポーンと跳ね回るだけで、振り絞った声がこの広い空間の向こう側へと辿り着けることはなかった。
しばらく呆然と自失している間に、私は気付けば私を含んだ百人の百物語のために集まった人間達と次々乱交していた。
気がつくと裸であり衣服は散乱してボクサーパンツが遠くに投げられていたが、目の前は日の光の入り込んだ明るい小学校の体育館であった。
用務員や教師達に見つからないよう、慌てて、帰ろう、と走り去った。
家に帰り携帯の電源を入れてみると
メール欄に私の気付かない未読のメールが、一通、存在していることに気付いた。
『参加者が相次いで体調不良のため、急遽予定変更!!今日ではなく五日後にズラしてイベントが開催されます。誤って目的地に向かわないようご注意ください』
一体私と一緒に百物語を行った面々は誰だったのだろうか?
百物語の夜には 終
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