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第12夜 覗き穴から見えた光景

俺はビルの一室を借りきって、住居兼オフィスとしている。 このビルのテナントはしょっちゅう貸し出され、中々借主や店舗が定着することがないらしい。 がら空きビル。 それでも10階建てのエレベーター付きの、外観はちゃんと立派なビルです。 テナント借主が現れないので、ビルオーナーは、俺のように居住として貸し出したりを他にもしているみたい。 エレベーターはありますが、階段を使うのが好き。 軽い運動のつもりで頻繁に階段移動している。 仕事が終わり、ちょうど夕方の終業時間、近場のコンビニに行こうとビルを出た。 それから8階の自分のオフィスに戻ろうとし階段を登っていた。 何気なく6階の廊下に立ち寄って見ました。 人はいない、寂しげな廊下で、照明もあまり無く暗かった。まるで夜更けの病院の廊下や夜更けの学校の廊下を思わせるような、人のいなさと暗さでした。 とあるテナントの窓から明かりが漏れていた。 そこのテナントの壁にはポスターが貼ってあり、今にも剥がれかけそうだった。 そのポスターを取って完全に剥がしてやりました。 ポスターの下には裂け目があった。 顔を近づくと、裂け目からは部屋の中の様子が見えた。 目をもっと近づけて見ると、部屋の中に人がいるのがわかった。 二人………一人は完全に若者で、もう一人は二十代から三十代くらいの男に見える。 二人は何かを語らってるようで、しばし眺めていると、男二人が着衣を脱ぎ出し、覗いている穴の向こうで、淫らに絡まりあった。 (おおう……) 俺も同性の裸や同性の性行為には関心があったので、食い入るように覗き穴の向こうの情景を見つめて目が離せなくなった。 ちょうど俺の位置からだと、二人の男が繋ぎあっている箇所がドアップでよく見れた。 顔はよく見れなかったが、絶えず動かされひくつく結合部と生け花のようにそこに挿さる肉塊がそれはもう目に迫るようにモロ見えた。 唾を飲み込みながら行為が終わり二人が離れて互いにどこか別の部屋に行くまで全部見た。 しばらく夢見心地のように、覗き穴のあの光景が、日中仕事をしていても頭からいっときも離れず、微熱に浮かされたように、俺は、毎日仕事が終わると同じような時間帯に6階に足を運んで、あの裂け目に自分の目をあて、息を呑んで見入っていた。 二人は毎日、同じように交わりあっていた。 ほぼ正常位でした。 そんな日が続き、今日もこうして覗き穴の向こう側に意識を捕われていると、ふと気付いたことがある。 男二人の身体が日増しに痩せていくように見えるのだ。 二人揃ってダイエットか? とくに被さるほうの男が、ゲッソリしてきている。 そういえば、部屋の中の内装や家具といったものが、かなり古めかしいような……。 色調もカラフルとはほど遠く、茶色と汚れくすんだ白や焦茶、ばかりで、天井に点けられたランプやテーブルの上に置かれた銅の#薬缶__やかん__#、タンスやちゃぶだい、座布団などのデザインが 一様に、妙に古めかしい。全て木製なのも妙だ。 まるで昔の日本映画で見たような………。 ボソボソと中の語り合う声が、初めて耳に入ってきた。 『…………さん…………ソウは……つ終わるのでしょうね………』 『………アシが悪いから……ョウシュウ……れずに済んだけど』 『ここももう……ぶない』 『…………ワルソノ……ひまで……こうして抱き合って……いたい………』 二人が互いを硬く抱き合った瞬間だった。 ウーとしたけたたましいサイレンの唸る音が、耳をつんざくように鳴り渡り、強烈な異音は裂け目を超え、この階と俺の周りをも取り囲んだ。 爆音が遠くから何発も何発も聞こえ、段々衝撃と音の大きさが近付いていき、やがて部屋の中がメラメラと真っ赤に燃え染まった。 朝、ビル管理人はある筈のないものをビルの6階で発見して、驚愕し、どうしようかと大慌てになった。 誰も入っていない6階の、並んだ空きテナントの前はいつもと同じ変わらぬ風景だったのに、黒くススけた謎の焼死体が一体、そこに転がっていたからだった。 時空と空間をねじ曲げた覗き穴と件の彼はたまたま繋がってしまったようだ。 覗き穴から見える光景    終

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