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最終夜 開かずの扉

開けてはいけない扉がある。 開かずの扉と俗に呼ばれるものだろうか。 俺の家には昔から、開かずの扉が存在する。 古い日本家屋作りの家の一番奥には、四方を目張りされ、誰も入れなくなっている開かずの扉があるのだ。 祖母は声をひそめて 「あの扉の向こうには行ってはいけないよ」 「開けてはいけないよ」 と幼い俺に、寝る前必ず布団の傍らで言い聞かせていたものだ。 祖父母が逝去してから、この家には母と俺の一世帯と、母の兄弟の叔父とその息子二人の世帯の、二世帯暮らしで住んでいた。 俺の父親である夫を早くに交通事故で無くし、母子家庭になりこの家に出戻った母は、現在病に伏し入院している。 叔父は離婚後シングルファーザーとなり、息子二人の世話に祖母の手を借りるため出戻った。 そんなわけで、広い家に二世帯が暮らしている。 夜、目覚めて廊下をギッギと軋ませ歩く。 板張りの廊下は最新式の温熱設備なんか備えてる筈もなく、とても寒々しい。 床暖房が恋しくなる。 トイレに立ちあがり、ついでに台所で一口水を飲み、自分の部屋に戻ろうとした所、何故か急に思い立って、自分の部屋を優に通り過ぎ、一番奥の物置の隣にある、開かずの扉の前まで来てしまった。 相変わらずテープが貼られ目張りがしてある。 ふいに 「…………っ、………っ……」 人の声が、開かない扉の奥から、隙間から流れる空気に乗せられ聞こえてきた気がした。 ネズミの鳴き声か?全然違う。 聞こえるわけがない人の声。 「…………っ………」 何人かの声が、ヒソヒソと喋っているような。 「………… ァあアっ!!」 急に大きな声が向こう側から漏れた。 びっくりした。 「…………ゥうう、 ああぁ、 あくぅ、 だめ」 何の……声だ。 「アあ!!いっちゃうっ!! ィくっ!!  ひぐーーーッ」 「またイッてしまったか、締まりの無い肛門をして」 「パパ、そんなにアナルを突いてあげたらかわいそうだよ」 「そうだよ親父、こんなに三人に順番に突かれてイかされ続けたら」 扉越しに聞こえるのは、聞き覚えのある、声だ。 「大丈夫。#邦明__くにあき__#は小ちゃい頃からパパが中を拡げてお尻を育ててきたんだから」 「叔父さん……っ……叔父さん……っ…… くゥー……っ!」 俺の名前だし、……叔父達一家の声だ。 「う……っ……ふっ……はあ……っ!うあっふっ……ウグゥ…………!!」 「姉の見ていない隙を、狙ってな。邦明があんまり良すぎて、あいつと離婚してわざわざもっと一緒にいれるように引っ越して来たんだから」 連続して物と物がぶつかる音がする。 俺は扉に耳を近付けて、ぴったりとくっつけて見た。 急にシンとした。辺り一面の空気の寒さを感じた。突然無音になったおかげで、肌寒さが体に迫ってきた。 いくら扉の前で待っていても、もう声は聞こえてこなかった。 翌日、家に住む家族全員が並ぶ四つ足テーブルの椅子に座る。 朝食を食べる叔父一家は平然とテレビを眺め、叔父は新聞を捲り、息子達は大学と高校に行く準備をしている。 俺は会社に行く姿のまま、ぼんやりと三人のいつも通りの様子を眺めていた。 「邦明、姉さんの見舞いには最近行ってるか?」 新聞を捲る紙の音と一緒に、叔父が尋ねてきた。 「……最近は、会社が忙しくて暇がないから……」 「そうか……。たまには顔を見せないと寂しがっているだろうな」 会社から帰宅して深夜。昨日と同じ時間に、また喉が乾いて起きた。 トイレに行き、台所に行き、水を飲み、また誘われるように開かずの扉の前へと。 扉に近寄るとまた人の声がした。 「うグう!!あっう!!」 「邦明、情けない声を出すんじゃない!慣れっこだろうっ、これくらいは」 昨日より凄く強烈なぶつかる音がする。 「………苦しいんだ……!……苦しいんだ…………!…………うっ……あっアっ…アっ………」 「こんなに先っぽからはダラダラさせて?パパのチンチン丸呑みしながら?」 「おまえ達もっと両腕押さえつけてろ」 「邦明はひ弱だなっ」 「ぐぅっいっっ!」 「……姉が仕事中に、いつもこの部屋で邦明を可愛がっていたら、死んだ母が心配げに扉の前にずっと立ち続けていたもんだ。俺が怒るから何も言わなかったが…………」 「おばあちゃん、死んじゃったな」 「親父、次は俺だよ、早く済ませて」 「俺も邦明に早く種付けたい。パパは長いんだよ!」 「よし、よし。皆で種付けてやろうな、仲良く」 音は急に静かになる。 俺は気が狂った様に、両手で目張りされたテープを引き剥がし、扉を開けた。 中に入る。 背後に死んだ祖母が沈んだ表情をし立っているのがわかった。 扉は一人でに閉まり、暗闇の筈の扉の中にはパッと光が灯され、畳の上には肉色の四体の男の体が絡み合い、どす黒い性を捧げていた。 眠れぬ夜にこんな話を  ~完~

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