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《side シュウの友人①》
私が愁に恋人としての接し方についてアドバイスをしてから三週間が経とうとしていた。
アイツは健気にも毎日のように弥斗君を誘いどこかしらへ連れ回しているようで、その様は見ていて笑えるものだった。あの天下の愁様が小学生に恋して腑抜けるなんて誰が予想できようか?
愁を幼い頃から世話している岩さんも目を白黒させていた。
「あぁ....旦那様になんてお伝えすればいいんだ」
そう言って悩ましそうに顔を歪める岩さんだが、私としてはそのまま伝えてもいいと思う。愁の親父さんは驚く程、自分の息子に興味がない。例え貴方の息子さんがβの小学生に恋しましたと伝えても、そうかと一言だけ言ってお終いだ。しかしだからといって愁が弥斗君と結ばれることはない。
親父さんの中で愁が誰に恋しようとどうでもいいのは、彼の中で愁は必ず彼が決めたΩと番ことが決まっているからだ。
だから愁がどこぞのΩやβ、はたまたαに恋しようとも結果は決められている。
「岩さん、親父さんはなんとも言わないですよ。それは岩さんが一番わかってることじゃないですか」
「.....まぁ、な。だけど俺は嬉しいぞ。あの若様が恋をするなんて」
「よりによってβですけどね」
「そりゃぁそうだが、若様にも人の心があったんだなぁって....」
「仮にも岩さんの主ですよ?アイツは。その言いようは.....面白いですね!」
「お前も大概だぞ」
「はははっ......ということは岩さんは静観するってことでいいですか?」
「静観っていってもな....俺がどうこうできる問題でもねぇしよ。若様がどれくらい本気なのかもイマイチ計りかねている。いつもの若様ならもう手篭めにしていてもおかしくないんだが、今のところ食事だけだからな....」
「手篭めって.....愁は小学生に手を出すほど落ちちゃいませんよ。あぁ、でも三週間経とうとしてますよね、食事だけで」
「三週間っ!あぁ~......未だに旦那様にお伝えできてない俺はどうすれば!!」
「いや、もう報告してくださいよ。どーせあの人は無関心ですよ」
「......そうだといいんだが。まぁ、もうちょい様子見するか」
「そーですか。じゃあ私は愁の様子見てきますね」
私は愁の監視役だが、毎日ベッタリくっけるほど暇ではない。大体二日に一回様子見に行くくらいだ。違う学校に通っている私からしたらそれでも結構面倒くさ、いや大変なのだが.....。しかしここのところ弥斗君のお陰でアイツが大人しいため、前より会いに行く日数を減らしている。
前までは同じ高校に行くべきか....と悩んでいたが、このままいけば大丈夫そうだ。
「おい、優斗。コレ持っとけ」
その言葉と同時に何かが岩さんから投げられた。
スプレーっぽい見た目だが.....うん?抑制剤??
「これは?」
「念の為だ。最近嫌な予感がしてしょうがねぇ」
「それはそれは.....岩さんの嫌な予感は結構当たりますからね。ありがたく貰っときます」
岩さんと別れた私は愁が住むマンションへと向かった。アイツが住むのはここら辺で有名な高級マンション『ユーベラス』という。何回かテレビで放送されたことがあるマンションで、なんでも著名な人間や権力者が住んでいるという噂がある。
私は興味ないが。
そんなユーベラスの最上階に一人住む愁は私と同じ高校生とは思えない贅沢すぎる生活を送っている。羨ましいかと言われればそんなことは無いけど。
この高級そうなドアもホテルのようなカードキーも綺麗な通路も.....私にとって全くもって居心地が悪い。
カードキーを通し、錠を解く。
「?」
しかし靴を脱ごうとして見知らぬ子供靴が置いてあることに思考が停止した。
「子供の靴?.....なんでここに」
嫌な予感がして足早に部屋に踏み込む。リビングを見ても誰も居ない。風呂でも入っているのかと浴室に向かうが、その時私の足に冷たい感触がした。
「濡れてる.....身体を拭かずに出たのかな?」
よく見たら寝室までびちょびちょに濡れている。急いでいたのだろうか。.....それとも我慢できなかった?
「我慢....子供........弥斗君?」
......あぁ、嘘だろう?気づきたくなかった。考えたくなかった。
見慣れぬ子供靴に、静かなリビング....そして寝室に繋がるびちょびちょの道
「アイツっ、手を出したのか!!!」
そうだった。アイツに常識はない。倫理観もない。道徳観だってない。
私はあの時ちょっかいをかけずに止めるべきだった!!
相手が小学生だからアイツも下手なことはしないだろうと思っていた自分を殴ってやりたい!
(私は何年アイツの友人をやってきたんだっ!!わかっていただろう!アイツが普通じゃないことはっ)
寝室を蹴破る勢いで中に入った。
そしてそこはーー
目も覆いたくなるほどの淫靡さがそこにはあった。
意思のない人形のようにブラブラと揺れる足。
グチュグチュと耳を犯すような水音。
悲鳴のような嬌声。
獣のような荒い息。
「ーーー」
制止の声も、怒鳴る声も、なんなら息をするのさえ私は一瞬忘れた。
それほど倒錯的で美しかったのだ。
私は彼らにフラフラと近づいていく。
もっと間近で見たかった。
「.....綺麗で美しい」
どちらも私がいることに気づいていない。片や獣のように貪ることに夢中になっていて、片や意識朦朧といった様子だ。
でも血に濡れた弥斗君は私が見てきたどんなものよりも神秘的で侵しがたく見える。
「た、たすげてぇっ....!」
しかし弥斗君の悲痛な声で見惚れていた私は正気に戻り慌てて愁の肩を掴む。
「何やってんだよっ!!愁!!」
そして弥斗君から離れるよう強く引っ張った。
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