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《side シュウの友人②》
「.....優斗?」
やっと私に気づいたのか、愁と目が合う。
しかし彼の驚きの表情もだんだんと目が据わっていき威嚇するように歪められ、そして「見んじゃねぇ!!」と吠えた彼は弥斗君を抱きしめた。それも私から弥斗君が見えない角度で。
「出ていけっ!!なんでテメェがここにいんだよ!?」
「それより弥斗君を離してあげなよ。彼、具合が悪そうだ」
「うるせぇ。見んなっつっただろ。テメェには関係ない事だ」
「愁...落ち着いて。君は今鼻血出すくらい興奮してるんだ。ほら、落ち着いて?」
「.......」
私がそう言っても愁は耳を貸そうとしない。
さて、どうするか.....?
私としては弥斗君を連れて今すぐにでもこの部屋を出たい。この部屋に充満するフェロモンはぶっちゃけ私ですら変な気持ちになってきそうだ。愁に膝を折って床に頭を擦りつけたくなる。.....冗談だが。
そう、私は考えるためにほんの少し彼らから目を離した。ほんの少しだけ。なのに.....
「弥斗っ、やと....んん、ふっ、はぁ」
「愁っ!?もう弥斗君から離れろ!!」
なんでもう盛っているのかな!?
私は弥斗君を助けるためにピアスの飾り部分をちぎり放り投げ異能を解放した。
「始動 ウィスプ」
この部屋に水があるのは確認している。私が解放したことにより、ベッド横にある小さなテーブルに置いてあるペットボトルからひとりでに水だけが宙に浮く。
その水は宙を移動しピアスの飾りに集まり、流動する。
「ウィスプ、あの盛った友人を子供から引き離してくれ。あぁ、手荒にしても構わないよ」
【OK】
球体状になっていたウィスプは一部から放射するように水を愁の腕目掛けて飛ばす。するとその水は途中で動きを変え鞭のようにしなり愁の腕に巻きついた。そして私の命令通り投げ飛ばす。
「は?....っうぉぉ!?」
弥斗君に夢中になっていた愁は呆気なく投げ飛ばされ壁に激突する。その際一緒に吹っ飛ばされそうになっていた弥斗君だが....どさくさに紛れて愁の腕の中からウィスプで奪ったため、彼は無事だ。
ウィスプによって浮かされている弥斗君は見るからに具合が悪そうだ。それなのにアイツは無我夢中で盛って......。
(あ、もしかして.....)
「テメェ~っ!!」
「君もしかして発情期 になってない?」
「弥斗を寄越せ!!触んな見んな抱くな感じるな!!」
「あぁ、完全に話が通じてないね。え、君ほんとになんでラットになってるの?弥斗君はβだよ?ていうか鼻血拭きなよ」
壁が凹んでヒビが入るくらいの衝突だったのに無傷って.....私のウィスプが攻撃型では無いにしろ、愁はやっぱり規格外だ。その鼻血もきっと興奮でのものだろうし。
やっぱりラットなのだろうか?
「なに弥斗の名前読んでんだよ.....殺す」
「はぃ!?ちょっと愁っ、落ち着こう!?」
ダメだ。あの目はマジで殺す気だ。
こうなったらっ。
私は迫る愁を目の前にブレザーのポケットへと手を突っ込む。
「死ねよ」
「目を覚ませ!!」
私と愁の手からそれぞれの攻撃が繰り出された。
その時響いたのは、プシューという音。しかしその後すぐに、ボトッ....カンッ!という音が鳴った。
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