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「おはよう弥斗君」 「....おはようございます」 もう何日経ったのか分からない。というのも優しいお兄さんが持ってきてくれたご飯を食べた後は必ず眠くなって寝てしまうからだ。だから時間の感覚がおかしい。 でも、お兄さんを疑うことはしない。寝て起きる度に身体がスッキリ、いや調子が良くなっているように感じるからだ。 それにお兄さんはあの時言ったように僕にシュウさんを一度も近づけさせなかった。 「熱はもう大丈夫だね。身体の調子はどう?」 「ん、大丈夫です。元気」 「それは良かった」 「......」 「......」 僕達の間に沈黙が落ちる。お兄さんは悲しそうに、悔しそうに顔を歪めていた。そんな顔を見て僕は悟る。 お兄さんは悪い人にならなきゃいけないんだと。 「お兄さん....ありがとうございます。僕を守ろうとしてくれて」 「私はっ」 「大丈夫です。僕は普通じゃないので」 そう、僕は普通の小学生じゃない。余分な記憶があるため不幸にも普通の小学生よりメンタルが強いのだ。こんな目に遭っても壊れずに済んでいるのは知らない世界の記憶のお陰なのだ。 ''だからもう大丈夫です'' そう気持ちを込めて笑みを見せる。 するとお兄さんは更に顔を歪め、僕の手を握った。 「.....君は死んだと家族に知らされる。そういう手配がもう、済んでいる。だからーー」 「ここから出すつもりないってことですよね」 「っああ」 「そっか.....ここから出れないんだ」 「ごめんね....」 「なんでお兄さんが謝るんですか?これはただ、僕の運が悪かっただけです。あの日、シュウさんとぶつからなければこんなことに......こんなことにならなかったんです。だからお兄さんは悪くない」 僕の言葉にお兄さんは何かを言おうとしたが、僕は遮るようにまた口を開く。 「ーーとでも言うと思いましたか?貴方がもっと早くシュウさんを止めていればこんなことにはならなかったんですよ!?それに地獄から救っておいてまた堕とすなんて酷い人ですね。....僕は貴方を恨みます」 「弥斗君....」 「僕に優しくして希望を持たせたこと。僕に安らぎを与えたこと。.....僕はお兄さんを恨みます。絶対に許しません」 「.....」 「もう出てって下さい。二度とここに来ないでください」 僕はお兄さんの手から自分の手を引っこ抜き、顔を背ける。しかしいきなり引っ張られ、抱きしめられた。お兄さんの鼓動が聞こえるくらい強く抱きしめられ、僕の身体が暖かくなる。 「.....また、必ず来るよ」 「......」 「ありがとうね」 その言葉と共にするりと熱が離れた。 「オイ、もういいだろ?」 突然響いた不機嫌な低い声にビクリと肩が揺れた。声の聞こえた方へギギギと顔を向けるとドアにもたれ掛かるようにシュウさんが立っていた。 その顔は離れていても怒っているのが分かるくらい威圧的だ。 多分、いやきっと、絶対に お兄さんがこの部屋を出たら僕は喰われる。 ボリボリとバキバキと、骨も残さず。 一人で頑張るって決めていた心がシュウさんを見た瞬間崩れ去る。決意は恐怖に染まりドアに向かうお兄さんに手を伸ばしたくなった。 それをぐっと堪える。 ここで助けを求めても変わらない。僕とお兄さんが辛くなるだけだ。 そう自分に言い聞かせてじっとする。 ガチャンッ..... そして寝室のドアはしまった。僕とシュウさんを残して。 「なぁ、優斗と何話してたんだァ?随分仲が良さそうに見えたんだが」 「....」 そう言いながらふらりと僕に近づいてくるシュウさんの目は据わっていた。 明らかに怒っているのがわかる。お兄さん...優斗さんと話していた内容はシュウさんを怒らせかねないものだ。だから僕は言えない。話せない。 「だんまりかよ。....それにしても」 「ひぃ!?」 「ん~.....久々の弥斗だ」 ブランと持ち上げられ、抱っこされる。そしてそのまま匂いを嗅ぐように鼻を首筋に押し付けてきた。 辛い。怖い。 なんでこの人の一挙一動は怖いんだろうか? シュウさんは腕に僕を抱きながらベッドに寝転がる。暫く無言の時間が過ぎた。その間もシュウさんの目は僕を捉えており、ガリガリと僕の精神を削る。 「....ムカつくなぁ」 「ぇ?」 「こんな優斗の匂いをまとわりつかせやがって....なんで抱き締めたりしたんだ?俺がキレるのわかってやったのかよ」 「....僕はそんなつもりないです」 「違ぇ。優斗の行動に俺は言ってんだよ。アイツとは数年の付き合いだ。俺がキレる行動をわざわざとるわけがねぇ。何度も何度もアイツの身体を斬り飛ばしてやったからなぁ....それがどうだ?アイツは俺の弥斗に匂いをつけやがった!」 待って....その言い方じゃまるで.... 「あんな演技までしてよォ....」 シュウさんは「あ''ぁ~イライラする」とボヤキながら僕が着ている薄いパジャマを脱がしていく。 だけど僕の頭の中は優斗さんのことでいっぱいで、抵抗するどころじゃなかった。 演技? 僕を心配そうに見ていたあの顔が?あの言葉が? きっとシュウさんがデタラメ言ったんだよ。 でも、シュウさんは優斗さんと数年来の付き合いだと言っている。優斗さんのことはシュウさんが一番知ってるんじゃ......だったらシュウさんの言っていることは本当なのかな? なら、優斗さんの目的は? ......この状況でシュウさんの怒りはどこにぶつけられるんだろうか?怒ったシュウさんは何をするだろうか? 「優斗はテメェを壊して何を企んでいるんだろうなァ?」 壊す....僕を? 「まぁいい。さて、お前に会えなくて溜まった鬱憤......受け止めろよ?」 優斗さん.....僕は貴方を信じたい。 ....だけど、 【信じて何になるんだろうか?】

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