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《side チビ》
俺は悪くない。
あの不審者が弥斗に抱きしめられた時、すっげぇ嫌な気持ちになって突き飛ばした。
そのせいで弥斗に近づくことを禁止されこんな苦しい思いをする羽目になったが、後悔はしていない。
後悔はしていないが、ムカつきはある。
あの不審者は俺がいないのをいいことに弥斗にベタベタとくっついてんだ。
あのクソ虫が。
ああっ、弥斗弥斗!早く話したい。早く触りたい。もう耐えられない!1ヶ月なんて酷すぎる!
俺が居ない間に色んなゴミが弥斗にまとわりついて居るしよォっ....!俺だけの弥斗だったのに。
弥斗に触るな見るな嗅ぐな感じるな話しかけんな声を聞くな!
遠くから見る弥斗は凄く楽しそうで、それを見ると俺は胸が締め付けられるように痛んだ。
俺だけにその顔を向けて欲しく思うのはおかしいのだろうか?
「坊っちゃま、今日はどうでしたか?」
「....ダメだ。また撒かれた」
「ふふふ....あの弥斗様に気づかれずに後を着けている時点で成長しましたよ、坊っちゃまは」
「気づかれてねぇならなんで撒かれるんだよ」
「それだけ弥斗様が優秀な方ということです」
「.....さすが弥斗だな」
俺がそう言うと藤間は苦笑いした。
.....俺が弥斗を褒めると藤間は苦笑いばかりしている気がする。なにか思うところがあるのだろうか?
だって、藤間は俺が弥斗褒めた後、必ずーー
「坊っちゃまは弥斗様と御自身の差はどれくらいだとお思いですか?」
こう聞いてくる。つまり比べているのだ藤間は。俺と弥斗を。でも残念だったな、その問は何度聞いても同じ答えしか返せない。
「差とかは関係ねぇ。俺は俺、弥斗は弥斗だ。ただ.....俺は弥斗を認めている」
「そうですか」
藤間のその笑みはどういう感情なんだ?まぁ、それを聞いても話を逸らされるのは今までのことから分かっているから聞かないが。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
今日、学校に弥斗が来なかった。
それを知った時、どうして弥斗が来ていないのか教師に聞くと何の連絡も貰ってないと言われる。
それを聞いて嫌な予感がした。
「なぁ、藤間。今日弥斗が来てなかったんだが、何か知ってるか?」
「.....弥斗様は昨夜家に帰っていないそうです」
「はぁ?あの弥斗が?」
「はい。弥斗様の養子先の家は警察に行方不明届けを出したようで....」
「昨日帰ってないだけで警察に届出だぁ?.....賢明な判断だな、じゃなくて!!弥斗は行方不明なのかっ!?」
「行方不明というのは少々言い過ぎかと」
「何言ってんだ!弥斗が無断で学校休むなんて有り得ねぇことだろうがっ。絶対何かあったんだ」
「.....実は旦那様の命で弥斗様の行方を追っているのですがなんの痕跡もないんです」
「探してくる」
「坊っちゃま!?」
お前らが無理なら俺がやる。
俺の方が弥斗を知ってるから、俺なら弥斗を見つけれる。
俺は屋敷を飛び出して辺りを走り回った。
弥斗と行った森
弥斗と遊んだ秘密のたまり場
弥斗と初めて猫を触った場所
弥斗がよく居眠りする木
俺なら弥斗を見つけられるはず。弥斗の痕跡を俺なら見つけられる。俺なら.....!
だけど......弥斗を見つけることは出来なかった。
毎日駆け回る。だけど弥斗を見つけることは出来ず、なんなら目撃者も見つけられなかった。
おかしい。目撃者が居ないのはおかしすぎる。
弥斗は優秀だ。むざむざ誘拐されるような弥斗じゃない。
なにかあるはずだ。
あるはずなのに.....見つけられない。
その日も弥斗を探すために走り回っていた。弥斗が行きそうな所へ走り、その近くを探す。最早日課になりつつあった。しかしその日はいつもと違った。
聖域外に出て探している時のことだ。俺の持つスマホが鳴り響いた。取り出し画面を見ると藤間からのようで、スマホの音に寄ってきたカタラを躱しながら俺は電話に出る。
「何の用だよ」
『坊っちゃま、今どこにいらっしゃいますか?』
「聖域外」
『....すぐに聖域内に戻ってください』
「なんでだよ」
『早く』
いつもと違う藤間の様子にそれ以上は言わず俺は聖域内へと戻った。あの日から....弥斗が学校に来なかった日からずっと胸がざわついている。そのざわつきが藤間からの電話で警報音に変わった。話を聞くのはやめた方がいいと脳内で鳴り響くのだ。
だけど、俺は電話を切らなかった。
「.....で、なんだよ」
『落ち着いて聞いてください。弥斗様がお亡くなりになられました』
は?
「.....はぁ?????」
『どうやら聖域外にてカタラに襲われたようで』
「ちょっと待てよ。....弥斗が死んだ?それもカタラに襲われて??ふっ、藤間.....もっと面白い冗談言えよ。つまんねぇぞ」
『坊っちゃま....』
「弥斗が死ぬ??そんなん有り得ねぇよ!だってあの弥斗だぞ!?カタラ如きに殺されるわけねぇだろうが!!」
『どうやら対影の異能者が弥斗様の遺体を見つけたそうで.....。遺体は損傷激しく辛うじて衣服と持ち物で弥斗様だと判明できました。弥斗様のご家族に確認した所、弥斗様の服とランドセルだと言っていたので間違いはないかと』
「っ、~~!!」
『坊っちゃ――』
俺は藤間の声を無視してスマホを切った。そしてその場に蹲る。立っていられなかったのだ。
足に力が入らない。胸が痛い。
「弥斗....死んだなんて嘘だよな?弥斗は死なねぇよな?俺を置いて逝くわけねぇよな?」
自分にそう言い聞かせるも心にポッカリと穴が空いたような虚無感に襲われる。なのに胸はキューっとして痛い。
信じない。俺は信じない。
弥斗が死んだなんて.....
「弥斗ぉ....会いたいよ」
俺はその場から動けなかった。
《side end》
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