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第3話
今日は土曜日。
四六時中母が張り付いてる環境で勉強したくないし、また公園で少し息抜きしたい。
携帯と財布だけ持って母に話しかける。
「ちょっと参考書買ってくる・・・」
野菜を切っていた包丁を持った母が手を止めた。
「なんで公園?ママもついて行くわ」
「ううん・・・30分ぐらいで帰ってくるから・・・大丈夫・・・ママはお昼作ってて」
「・・・・・・・・・本当にすぐ帰ってくるんでしょうね?」
「うん・・・30分以内には」
「じゃぁ、今からタイマーかけるから、すぐに行って帰ってらっしゃい」
「はい」
包丁を持った母に声をかけるのは少し心臓に悪い。怒らせたら包丁が飛んでくるかもしれない。
僕は急いで本屋に向かって参考書を買って、またいつもの公園のベンチに座った。
ここでしか心安らかな時間を過ごせないのは辛い。僕は持っていた携帯で、思わず<迷惑のかからない死に方>などを検索。
最初に出てくるのが樹海だ。
んー・・・樹海かぁ・・・やっぱ人目がつかない場所の方がいいってことだよなぁ・・・難しいなぁ・・・どうしよう・・・
一人で携帯片手にぼーっと考えていると、急に耳元で低い男性の声が囁かれた。
「なぁ...なに?お前死にたいの?」
「っ!!」
びっくりして思わず振り返った。
するとそこに居たのはスーツを着た背の高いガタイのいい男だった。
サラリーマン?にしては髪が銀髪だし、なんか黒シャツだし・・・結構強面な人だ・・・誰だろう?
「・・・おーい・・・聞いてるか?陽太は死にたいのか?」
えっ...今名前もしかして呼ばれた?
「えっ・・・なっ・・・名前・・・」
「あーうん、それは気にすんな。んで?答えは?」
えっと・・・死にたいのか?だっけ。今の僕に思いつく方法がそれしかないんだなぁ・・・
「・・・はい・・・」
「お、まじか。じゃぁさ、お前俺のもんにならない?」
「・・・へっ?・・・」
びっくりして思わず目を見開いた。
今この人なんて言った??
「あーやっぱ思ってた通り綺麗な目してんなぁ・・・俺のもんになったら不自由はさせないよ?美味しいもんもいっぱい食わせるし、生活の保証は勿論、いっぱい贅沢してもいいよ。どうだ、魅力的な提案だろ?」
目の前の男はサラッと笑顔で言った。
美味しいものいっぱい食べれて、欲しいものも買ってくれる。それは確かに魅力的なのかもしれないけど、あまりそこは惹かれないかなぁ。
「えっと・・・美味しいものは・・・嬉しいですけど・・・普通に食べれるものであれば・・・いいです。贅沢も必要ないです・・・」
「えぇ・・・うーん・・・そうか。じゃぁ、陽太は何が欲しい?」
何が欲しいか・・・母から逃げたい。
「僕を・・・母から見つからない処に・・・連れて行ってくれますか?」
「それはお安い御用だな。寧ろ俺に着いてきたら昔の知り合いにはもう会えないと思った方がいいぞ」
「あと・・・あなたのものになるって・・・何をすれば・・・」
「ん?そりゃ俺のそばに居て俺に愛でられるのが仕事かな?」
「っ!!・・・それって・・・体の関係も・・・ですか?」
「んー、そりゃ体の関係は欲しいよ、でも追々かな?俺無理矢理は嫌いだし、慣れてくれてからでいいよ、無理強いはしない」
どうしよう、これは願ってもないチャンスなんじゃないかな?
今この人の提案を断ったらもうなかなか抜け出すことはできないかも。
生活の保証はしてくれるみたいだし・・・一か八か・・・
「あの・・・」
「なんだ?」
「殴ったり・・・痛いことは・・・嫌です・・・」
「いや・・・そんな俺好みの顔殴るとか無理だろ・・・愛でることはしても、痛いことはしない。そこは信用・・・って会ったばっかだから無理か」
うーんと唸りながら、男は髪をかき上げ、悩んでいる様子だった。
真剣に悩んでいる様子を見て何だか可愛く思えてしまった。ここは腹を括るか。
「やっぱり・・・僕でよければ・・・よろしく・・・お願いします」
僕は手を差し伸べた、すると男はそっぽ向いて片手で顔隠してた。
心なしか耳が赤いような・・・
大きい手が僕の手を包み込んだ。
「おう、任せとけ、俺の名前は右龍刃、じんって呼んでくれ。」
「僕は・・・あっ・・・名前は・・・知ってますよね」
「ひなただろ?ひなって呼ばせて貰うわ」
「はい」
「急なんだけど今からでもいいか?俺のものになるには今まで関係持ってた人とは縁を切ることになるけど、連絡入れたり、何か今のうちに家に取りに行きたいものとかあるか?」
取りに行きたいもの・・・いや・・・携帯と財布は持ってるし、あっ、服とか下着かな?
「えっと・・・服とか」
「あぁ、それは心配ない、全部俺が買う、他には?最後に親に会っておきたいとかあるか?」
いや、今家帰ってすぐまた出てくることは無理そうだ。
「今帰ったら・・・出れなくなるので・・・」
「そうか、じゃぁ、おいで、ひな」
そう言いながら僕の腰を引き寄せた。
一瞬触られたことで身体がびくついたけど、そこにはいやらしく触るような意図は感じなかったので、大人しく公園の外に止めてある黒塗りの車へエスコートされて行った。
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