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第4話

運転手さんが出てきて扉を開けてくれた。 「ひな、乗って」 「あ、ありがとう・・・ございます」 会釈をして、言われるがまま後部座席に座る。 中の内装はシンプルにおしゃれで、シートも座り心地が良かった。この車絶対高い・・・ 「若、今からどちらへ?」 「一旦、家に向かう」 車が動き始めた。 流れていく景色を見ていると、こんなことになっているのが不思議に感じてくる。 昨日までは想像もつかなかったことだ。 「じゃぁ、ちょっと自己紹介しようか。改めて俺は右龍刃、表向きはロータスエイジェンシーの社長とか色々やっている。裏では右龍組若頭。歳は25歳、身長は189だ。何か聞きたいことあるか?」 うおぉ、ちょっとびっくりしてしまった。 ロータスエイジェンシーってあれだよな?最近よく聞く不動産屋の名前、あれの社長さんかぁ、しかもなんだって?右龍組って聞こえた... ヤクザさんなんだぁ・・・まぁ、そうだよね。でも・・・聞きたいことありすぎて何から聞けばいいのか・・・ 「え・・・えっと・・・あの・・・」 「ってまぁ、急に言ってもわかんないよな、とりあえず携帯渡してもらってもいいか?」 「携帯?」 「あぁ、ほら、もしかしたらGPSついてるかもだし、ちょっと確認させて」 大人しくズボンのポケットに入っている携帯を差し出す。 すると助手席に1人男性が座っていて、携帯をその人に渡した。その人は僕に向かって少し微笑み、話しかけた。 「初めまして、旭(あさひ)と申します。携帯の中身、拝見させて戴きます」 「あ・・・はい・・・えっと・・・どうぞ」 「失礼致します」 すると僕の携帯をノートパソコンに繋げて、何やらすごいスピードでカタカタとキーボードを叩いている。 暫くすると、その人が振り返った。 「若、これは・・・」 「なんだ?」 画面を見た彼は眉間に皺を寄せて、一瞬黙り込んだ。 そんなに携帯にやばいものが入ってた??そんなことないと思うんだけど・・・すると神妙な顔で彼は口を開いた。 「ひな...お前の親凄いな・・・色々入ってるぞ、これ常に何処にいるのか、携帯で何をしてるのか監視されてるぞ」 「・・・え?」 え・・・まさか自分の携帯がいじられてたなんて・・・っていうか、常に見られてたってことは、公園に行ってたりするのも全部知ってたってこと? 知っているのにも関わらず、帰宅が少しでも遅れるとあんなに怒るものなのか・・・わからない・・・ 「連絡しておきたいやつとかいるか?」 「あっ・・・一言だけ・・・弟に・・・」 「一言だけな」 返してもらった携帯のラインで弟を探し、文を打ち込む。 [ごめんな] ポチッと送信。 「・・・終わりました・・・」 「申し訳ないけど、この携帯はこっちで破棄させて貰う。いいか?」 「はい」 携帯は旭さんに渡した。 「それでだ。ひなのこと教えてくれるかい?」 僕のこと・・・ 「栗栖陽太です。17歳・・・祥明高校3年・・・甘いものが・・・好きです」 「甘いもん好きなのか、後で美味しいやつ買ってきてやるな。」 「はい・・・ありがとうござい・・・」 「ストップ、敬語は無しだ。俺は素のひながいい、今からそんな緊張してたら疲れるぞ」 「いや・・・でも・・・」 一応保護?して貰ってるのに、敬語抜きは申し訳ない気がする。素だと結構素っ気なく聞こえちゃうし・・・ 「敬語抜きは絶対だよ、じゃないとお仕置きしちゃうからね」 「お・・・お仕置きとは・・・」 「んーそうだなぁ・・・ひなが恥ずかしくて恥ずかしくてしょうがなくなるようなお仕置きかな」 なんだろう・・・でも嫌な予感がする。それはちょっと勘弁・・・ 「わかった・・・敬語はやめる・・・」 「よしよし、いい子」 やっぱり頭を撫でられる時、少しびくついちゃったけど、大きく節ばった男らしい手に優しく撫でられるのは案外気持ちのいいものだった。 「ひな、手觸ってもいいか?」 ちゃんと觸る前に一回聞いてくれたから、心の準備ができる。それはすごくありがたい。 「・・・うん・・・」 僕は左手を差し出した、すると大きな手で撫で始めた。 「あー手が綺麗・・・爪の先まで綺麗って淒いなぁ・・・指長いし、細い、すべすべ・・・この肌に引っ付く感じ・・・いいな」 スリスリスリスリ ずっと撫でている。 そんなに僕の手面白いのかな?男の手なのに・・・ 僕の手を彼はずっとムニムニと揉んだり、手の甲を撫でたり、なんだか色々していたが、僕は気にするのをやめて窓の外を楽しむことにした。 さっき彼が言ってたけど、今家に向かっているんだよね。 どんな家に住んでるんだろう・・・ヤクザさんだから昔ながらの巨大なお屋敷とか?心なしか少しワクワクしている自分がいた。 「ひな・・・ひなは身長何センチ?」 「えっと・・・確か174cmだった気がする」 「意外とあるな。旭、家にひなが著れるような服ってあったか?」 「私が存じ上げる限り、恐らくないかと思われます」 「だよな。やっぱ先に服買っとくか」 「それが宜しいかと」 「行き先変更だ、先に服買うぞ。アイツに連絡しとけ」 「かしこまりました」 急に家じゃなくて僕の服を買うことになったみたい。申し訳ないなぁ・・・ 暫くすると、景色が止まり、彼に促されて車から降りた。 目の前にはなんだか高級そうな服屋さん。 「え・・・こ・・・ここ?」 「あぁ、そうだよ、ほら、おいで」 自然に腰に手を回されながらエスコートされ、店內に入っていった。 「んもうっ!いつも急に來るんだからぁ!もうちょっと早めに連絡しなさいっていつも言ってるのに・・・こっちだって忙しいの知ってるでしょっ!」 急に奧からかなりな音量で怒鳴りながら、身長の高い女性?男・・・性?えっとオカマさんらしき人物が出てきた。 黒い緩やかなカールがかかった髪に、貴族が著そうな少しフリルのついた白シャツ、ピタッとした黒いズボンに赤いピンヒールを履いていて、パッと見もの淒い美人だ。 聲を聞かなかったら確実に女性だと錯覚しそうな人だった。 「大きい聲出すんじゃねぇ、うるせぇぞ」 「まぁ、なんて言い方かしら。アタシは怒ってるんだからね。この前だってアタシとの約束すっぽかして、待ちぼうけ食らったんだからね!ってかまたオーダーメイド?アタシ忙しいんだけど」 淒い怒濤の弾丸トーク。 「いや、今日はこの子の服全部見繕ってくれると嬉しいんだが」 「へぇ?」 今まで怒ってて気づかれなかったのか、パッとこちらに振り向いて射抜かれそうなほどの目力に曬される。 「・・・・・・・・・・・・」 「おい、聞いてんのか。今何も持ってないから、普段著から部屋著、外著、下著まで全部だ。そうそう、あと靴も必要だ」 話を聞きつつも開いた口が塞がらないのか、不思議な表情で固まっている。 「ねぇ・・・ちょっと・・・アンタ何処でこんな美人引っ掛けてきたのよ」 「言うわけねぇだろ、詮索するな」 「ねぇ、あなた何処のお店の人?」 「おい」 「・・・えっと・・・」 「・・・お店よ、グランディーヌ?の新人?」 お店?なんのことだろう。この場合なんて答えたら・・・ 答えに困っていると、彼が助け舟を出してくれた。 「いい加減にしろ、詮索するなって言ったよな?早く服持ってこい」 美人さんは不服という顔をしながらも、奧に入っていって暫くすると大量の服を片手に出てきた。 「はい、とりあえずあなたの好みに合わせてみたわ、もう少し服は見繕うから、これはとりあえずの分。殘りは後で送るわ」 「わかった」 「あと靴のサイズ測りたいから、あっちにきて貰ってもいい?」 奧の部屋を指さされて、僕はうなづいた。 「俺もついてく」 「はぁ?マジで言ってる?足のサイズ測るだけだからすぐ終わるわよ」 「はぁ・・・ひな、変なことされたらすぐに叫べ」 「・・・大丈夫・・・だよ」 僕は大人しく奧の部屋についていった。 「ここに座って、裸足になってちょうだい」 「はい」 フカフカのソファーに腰掛けて、履いていたスニーカーと靴下を脫いで待機する。 部屋には色んな服からマネキン、ミシンや針、服のデザイン畫や色々なものが置かれていて少し亂雑していた。多分ここが仕事部屋なんだろうか? 「自己紹介遅れたわ。アタシこのブティックのオーナーの天音(あまね)よ、よろしくね」 「初めまして・・・栗棲陽太です。よろしくお願いします」 天音さんは僕の前に屈んでメジャーで足の甲や色々測り始めた。 「さっきはごめんね、突っかかったみたいになってしまって。あまりに美人さんだったからびっくりしちゃった。お店・・・って訳じゃなさそうね。何処で右龍と知り合ったのかしら?」 しゅんとした顔を見せされるとなんだか答えなきゃいけない雰囲気になる。 「えっと・・・公園で・・・」 「公演?誰かの舞台でお會いしたのかしら、あ・・・そうか!貴方もしかして俳優さんかモデルさん?ロータスがスポンサーになった子でしょ、ほんと美人よねぇ」 「あっ・・・いや・・・その・・・俳優でも・・・モデルでもないです」 ガチャッ 「おせぇぞ、終わったか」 「もうすぐ終わるわよ、それにしても本當に何処で知り合ったのよ」 「しつこい」 「何よ!こんな美人な逸材滅多にいないわよ、うちの広告塔にしたいぐらいだわ」 「させねーよ。おれのもんだ、渡すかよ」 「やーね、モデルになって欲しいってだけで、誰もあんたから奪うなんて言ってないわよ」 「うるせぇ、終わったか?」 「はいはい、今ちょうど測り終わったわ。丁度いい靴があるから、今持ってくる。服も着替えちゃう?」 「あぁ、そうしてくれ」 「はいはい、ひなたちゃんはこっちね」 部屋にあるパーテーションの裏に連れて行かれて服一式と靴を渡された。 「着替えたら出てきてね」 僕は急いで服を脱いで、渡された黒のハイネックの長袖と同じく黒のスキニーを履いた。灰色のロングコートを羽織って、黒いブーツを履く。 脱いだ服はどうしたらいいのか分からなかったので、とりあえず畳んで手に持って彼がいるところに戻った。 「あらぁ・・・めちゃくちゃ似合ってる・・・さすがアタシ、ねぇ、いい仕事したでしょ」 「あぁ、似合ってるな」 「あ・・・ありがとう」 「服は預かります」 そういって旭さんが僕の服と靴を受け取ってくれた。 「じゃぁ、他の服は送ってくれ、世話になった」 「あら、もう行くの?ひなたちゃん、今度いっぱい話しましょうね♡」 「話さねぇーよ、行くぞ、ひな」 「あ・・・ありがとうございました」 返事をしようとしたらすぐに手を引かれて頭は下げられなかったけど、ニヤニヤしながら手を振っているのだけ見えた。 「あ・・・あの・・・」 「ん?」 「服と靴・・・ありがとう」 「似合ってて綺麗だよ、ひな」 僕の目を覗き込んで真っ直ぐ伝えてくれる彼の言葉は、何故か不思議とスッと心に入ってきた。

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