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第5話
ブティックを出てすぐ車に乗り込んで当初の予定の家に着いた。
車を出るとそこは思わず口を開けて見上げてしまうほどの高層マンションだった。
入り口には警備員が配置されていて、いかにも高級タワーマンション。
エントランスを入るとそこはソファーや噴水などがあって、おしゃれな空間が広がっていた。
「おいで、ひなも登録しよう」
隣のコンシェルジュに連れて行かれて僕の指紋と目の映像を撮った。どうやら部屋に入るのに指紋認証と虹彩認証が必要みたい。
登録はすぐに終わって、そのまま奥のエレベーターに乗り込み、僕の指紋を専用の機器にかざすと、すぐにエレベーターが動き始めた。
登録された階以外には入れないようになっているのかな?
僕の疑問がわかったのか彼が口を開いた。
「そう、登録された階以外は入れないようなセキュリティーになってるよ。ちなみにこのマンションはロータスのもの。俺たちが向かってるのは最上階。そこがこれからひなが暮らしていく家だよ」
「家・・・」
そうだよね・・・これから僕の家はもうあそこじゃないんだよね・・・
チーンと音が鳴り、扉が開くとだだっ広い玄関のような空間が広がっていた。
エレベーターを降りて、家の入り口であろう大きな扉の前に立つと隣に虹彩認証の機械があって、その機械の前に立ってと言われた。
ピーっと言う音と同時に緑の光が僕の目をスキャンする様に上下に動いた。
するとガチャっという音と同時に扉が開いた。
「うん、しっかり登録されてるな。おいで、ひな、ようこそ我が家へ」
部屋に入るとそこはびっくりする光景が広がっていた。
白い大理石の床が広がっていて、おしゃれな黒革のソファーに巨大なテレビ、アイランドキッチンに大きなダイニングテーブル、無駄なものがない、まるでモデルルームの様な生活感を感じない部屋だった。
「今日からここに住むんだよ。ひなの部屋はこっち」
長い廊下には沢山の扉がついていた。奥から2番目の部屋を僕の部屋にしていいと彼は言ってくれた。一番奥は彼の寝室らしい。
トイレと洗面台もついていて、大きなウォークインクローゼットと大きなベット、本棚、机と椅子が置いてある広い部屋だった。
「あの・・・」
「ん?気に入らなかったか?家具とかはひなの好みのものに買い替えてもいいよ。漫画とかも欲しいものあればどんどん買っていいし」
「いや・・・こんな部屋・・・もったいないよ」
「使ってない部屋だから、有効活用して。ひなにもったいないとか、そういうの無いから」
住まわせてもらう身からしたら、これ以上文句のつけようの無い部屋だったので、ありがたく使わせて貰うことにした。
「あぁ・・・あとね、基本的には俺の部屋で寝て欲しいな」
「?」
「ひなに毎日癒されたいからさ、俺のベットで寝てね」
ん???
頭で理解するより早く、僕の顔はみるみる赤くなっていった。
「そんな真っ赤になっちゃって、可愛いな。大丈夫、まだ手出したりしないから」
「・・・うん・・・」
まぁ・・・そうだよね。彼は僕に身体の関係を求めてるんだから。ちゃんと心の準備しておかないと。
「少しこの部屋で呼びにくるまで待ってて」
ポンポンと頭を撫でて彼は部屋を出て行った。
頭を撫でられたのは母以外では初めてかもしれない。撫でられて嬉しく思っている自分がいることにビックリした。
急にシーンとした空間に放り出されて、なんだか空気が重くなっていく様な錯覚に陥る。
考えない様にしていた事が次々と頭の中を占領していく。
あんな感じで急に家を出てしまってよかったんだろうか・・・初対面の人を信用してこんなところに来てしまったけど・・・大丈夫かな・・・
思わず気になって扉の方に近づいて耳を傾ける。
「・・・いいんでしょうか?危ないかもしれないんですよ!」
「うるせぇぞ、これに関しては俺の勝手だろ」
「ですが、相手は未成年です、分かっていらっしゃいますか?」
「わかってる」
「いいえ、わかっておりませんよ、若。犬猫を拾ってきたのとは訳が違います。ちゃんと責任を持って面倒を見なきゃいけないんですよ」
「・・・ちゃんと責任持って面倒みるよ、わかってるから」
「そうでしょうか、若の飽き性には散々苦労させられてきました。今回は飽きたからポイと捨てて終わりなんて出来ませんからね、心に刻んでおいてください。身辺調査はこれからすぐに行って、結果が分かり次第、すぐにご報告いたします。ですが・・・これははっきり言って異常ですよ・・・あの数の発信機・・・常に監視されていたわけですよ。普通の家庭ではありませんね。手段も素人ではないです。何かしら本人も知らない事が起こっていたと思います。」
これは僕が聞いてはいけない話だったよな・・・発信機って・・・どういう事?ヤクザがやばいって言うのって相当やばいんじゃ・・・
僕結構面倒な事になってる?それもそうか・・・でも家にはもう帰りたくない・・・どうしよう・・・
嫌われたら捨てられる・・・?やばい・・・今家に帰ったら生涯出してもらえないかもしれない・・・あぁ・・・その場合は死ぬしかないのか。
どうしよう・・・どうしよう・・・僕は何をしたら・・・
「今すぐ警察の方に捜索願が出されていないかも確認いたしますので、また後ほどお伺いいたします」
「あぁ、よろしく」
落ち着けない・・・考えても考えても答えが出なくて・・・僕どうしたらいいんだろ・・・
ガチャ
「ひな?ごめん、待たせた・・・って大丈夫か?」
「ひーな、聞こえてる?」
彼はゆっくり僕の方に手を伸ばして、優しく僕の手を包んでくれた。
「ごめん・・・会話聞こえてたかな」
「・・・ううん・・・ごめん・・・なさい・・・聞いてて・・・」
「ううん、とりあえずおいで」
彼はベットに座って僕に向かって両手を広げた。
両手を広げてるってことはそこに来いってことだよね・・・いいのかなぁ
「変なことしないからおいで」
少し考えて、僕は彼の隣に腰掛けた。
「ひな違うよ、ここ」
彼は自分の太ももをポンポンと叩いて、そこに座れとアピールしてきた。
「でも・・・僕・・・重いよ」
「俺がここに座って欲しいの、大丈夫」
僕は恐る恐る彼の太ももに向かい合わせで跨った。
「手見せて」
大人しく手を差し出すとさっきの考え事で手を握りしめたままだった様で、一本一本手のひらに食い込んでいた僕の指を解してくれた。
「あぁーあ、ダメだよ、爪が食い込んで少し血滲んじゃってる。痛いでしょ」
今手は特に痛みは感じていないので、頭を横に振った。
「ひなはもう俺のものだから、こうやって自分の体に傷をつけることは許さないよ。もっと自分を大事にしてね」
「・・・うん・・・」
「ハグしていい?」
「・・・うん・・・」
彼は僕の腰を手で引き寄せて僕の耳に囁いた。
「このまま座って」
ゆっくり腰を下ろして太ももに体重をかける。
彼は僕の肩に頭を乗せて腰に抱きついてきた。
あまりの密着度に身体がかちんこちんに固まってしまい、手の置き場がわからずに自分と彼の間に収めた。
「ふふっ、緊張してる?」
「・・・うん・・・」
まだ名前しか知らない男の胸に抱かれているという事実になんとも言えない気持ちになる。
「あったかいね、そんな緊張しないで。さっきはごめん、聞かせるつもりはなかったんだけどさ。さっき着替えたでしょ。念の為チェックしてたら靴の中から発信機が出てきたんだよ。流石に俺も旭もびっくりしちゃってさ、同じ業界だったり、どこぞの業界の重鎮とかに使われる様なかなり精度の高い発信機だったんだよ。お母さん結構そういうのに詳しい人だった?」
いや・・・考えてみても僕の中で母は特にそういった機械に詳しいという印象はなかった。携帯も僕の前ではあまり弄らなかったし、少し機械音痴気味なのかなとさえ思っていた。
靴の中まで発信機というのはなんだか気持ちが悪い。今まで携帯と靴で僕の外での行動全てが監視されていたんだと思うと、背筋が冷える。
「・・・母は・・・寧ろ機械音痴と・・・思ってた・・・」
「そうか・・・誰が付けたんだろうな。一応こっちでも調べてみるよ」
「・・・あっ・・・ってことは・・・僕の居場所・・・もしかしてバレてる?」
「あぁ・・・すぐに旭が見つけて壊したけど、多分お店に行ったことはバレてると思った方がいいな。でも大丈夫、落ち着け、俺が隠してやるから、心配すんな」
「・・・うん・・・迷惑かけて・・・ごめんなさい・・・」
「いや、そもそも俺のわがままで連れてきたんだ。迷惑だなんて思わないよ。ここで俺に可愛がられて居てくれれば、俺は嬉しい」
「・・・うん・・・」
彼はなにをするわけでもなく、ただただ優しくあ僕を包み込むように抱きしめていた。
なんだろう・・・抱き心地の確認されてるのかな?それとも可愛がりの一環?
髪を撫でたり、背中をポンポンされてるうちに他人の温もりが心地よくなっていって、徐々に瞼が重くなり、気づけば彼の腕の中で眠りについていた。
ーーーーー刃side
まじか・・・
この子寝ちゃったよ。
さっきまであんなに俺の腕の中で固まってたのに、暫く頭や背中を撫でてたら規則正しい寝息が聞こえてきた。
いや・・・正直無防備すぎるな。
ついさっき会ったばっかの男の腕の中で寝るなんて、まぁ、意識されてないんだなというのは伝わってくるが、普通は警戒するだろ、こんな怪しい男。
それにしても、柄にもないことしてしまった。
この子を自分のものに出来たらいいなと、初めて会った時に思ったのは本当だ。死にたい願望があると知った時にはもう考える前に口に出していた。
絶対拒否されると思っていたのに、この子は受け入れた。身体の関係も後々なんて話もしたのに、少し考えて承諾した。
そこまでこの子が追い詰められていたっていうことだとは思ったけど、それでも俺にとってはチャンスだった。
俺はすぐこの子を車に乗せて連れてきた。
普通の子でも非常識な行為かもしれないのに、まさかGPSから発信機までついている訳ありだとは俺も思わなかった。
こんだけの美人だ。親御さんが過保護になるのも非常にわかる。
白い陶器のような肌に、艶々とした長めの黒髪、口元の黒子が色気を醸し出している。身長はそこそこあるのに、その細い身体や腰は男の劣情を駆り立てる。
危ない色気がある子だ。今までもその容姿の所為で色々あっただろうと推測できる。
でもこの子を欲しいと俺は思ってしまったんだ。
俺は誰かと真剣にお付き合いをしたことがない。
後腐れのない関係が一番楽だと思っていて、長続きすると言っても、自分の持っている風俗店のお気に入りぐらいだった。
周りにはうるさいハエが飛び回ったりしていても、そんな奴を気にする必要もないし、俺の時間の無駄だと思っていた。
でもひなはなんだか違う。俺のプライベートな家に連れて帰ってきても、嫌悪感は一切湧かないし、寧ろ自分の家にひながいるのをみて、嬉しいとさえ思った。
なんでだ?
俺の理想を詰め込んだかのような身体と顔に一目惚れでもしたのか?
うーん。わからない。ただ側に置いておきたいだけなのか、それとも好きだからなのか・・・
旭にも怒られた。今まで家にもあげたこともないし、恋人も居なかった俺が、まさかの未成年を拉致同然に連れてきたからだ。
でも俺は手放す気はない。
ちゃんとこの子を俺のものにしたい。
この子が起きるまで、抱きしめさせてもらおう。そう思いつつ、俺はひなの髪に頬擦りをした。
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