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第6話

「んー」 なんだかホカホカする。 「起きたか?」 ん?え? すぐに目を開いて見上げるとそこには顔があった。え?抱っこされたまま僕寝ちゃった? 「ごっ・・・ごめんなさい・・・今すぐ降りる」 俺は退こうと膝に力を入れたら腰を押さえつけられてまた彼の膝に座ってしまった。 「大丈夫、そんな焦って退かないでよ。ひなは重くない、羽のように軽いよ。寧ろもっと肉つけた方がいいよ、折れちゃいそう」 「それは・・・大袈裟だよ」 「まぁ、とりあえず、お腹空いたでしょ。何か食べたいものある?」 「食べたいもの・・・辛くないものだったらなんでも」 「辛いの苦手なんだね、わかった」 「うわぁっ!」 急に彼が僕のお尻の下に手を添えてベットから降りて、僕を抱えた。 バランスが取れなくなって思わず首元に思いっきり抱きついてしまった。 「ふふっ、ごめんね。そのまま落ちないように抱きついてて」 抱き上げられたことなんかないのでビックリしちゃったけど、言われた通り彼の負担にならない様に首にしがみつく。 リビングに向かうとダイニングテーブルの上には大量の料理がのっていた。 「・・・いい匂い・・・」 「ひなが何好きかわからなかったからとりあえず色々持ってきてもらった。好きなものを好きだなだけ食べな、残ったのは他の奴らが食べるから気にするな」 中華から和食、洋食まで、テーブルを埋め尽くすほどの料理が並んでいる。 僕は降りて椅子に座ろうとしたけど、彼はさも当然の様に僕を膝に乗せたまま座った。 「あの・・・自分で座りたい」 「うーん、僕はひなを膝に乗せて一緒にご飯食べたいな。食べたいもの全部取ってあげるから、遠慮なく言って」 ニコッと僕に向けた笑顔に僕はこれは何を言っても無理だと悟って大人しく座った。 僕も男だし、身長も174cmもあるのにあんな軽々と僕を持ち上げた挙句、膝に乗せて大変じゃないのかな?僕より大きいし、鍛えてるだろうから、この服の上からもわかる分厚い筋肉は伊達じゃないんだなって思った。 僕は少しお腹が空いていたのでお寿司と天ぷらを頂いた。僕が咀嚼し終わって飲み込むと、すぐに口元に次の一口を持ってきてくれる。 最初は少し抵抗したけど、彼に「俺にやらせて、楽しみなんだ」なんて言われたら、僕は断れない。 終始ニコニコ顔で僕に餌付けをしていた。そんなに楽しいのかなぁ・・・? 「ご馳走様でした。もうお腹いっぱい」 「いっぱい食べて偉いな」 ご飯食べただけなのになんで僕は頭を撫でられながら褒められてるんだろう? とにかく食事は物凄くおいしかった。高級レストランに出てきそうな感じがした。 「そういえば・・・この料理って・・・出前?」 「いや、専属の料理人が作ったやつだよ、ひなも何か食べたかったらリクエストしな。なんでも作ってくれるよ」 「そうなんだ・・・シェフは・・・どこに居るの?」 「この下の階に警備にあたってる部下とか、シェフ、片付け要員とか待機してるんだよ。なんか買ってきて欲しい物とかあったら頼んでもいいよ」 「うん」 「よし、いい子。なんか見たいテレビとかある?俺少しだけ仕事しないといけないんだ。すぐ隣にいるけど暇になるでしょ、見たい映画とかある?」 映画か・・・正直見たことがないんだ。家のテレビは存在する意味がないのではないかと思うほどついた状態を見たことがなかった。テレビを見ようとするといつも母に怒られるからだ。 「・・・見たことない・・・」 「え?」 「テレビは・・・ほとんど・・・見たことがない」 「なんてこった。面白いのいっぱいあるぞ。よし、俺オススメのアクション映画がある、それにしよう。見終わったら感想教えてな」 「うん・・・ありがとう」 彼は僕をソファーまで抱えて座らせて背中にフカフカのクッションと膝にはブランケットをかけてくれた。なんて至り尽くせりなんだ・・・申し訳なさすぎる。 目の前にある巨大なテレビを弄って、映画をつけると、僕の頬を撫でて隣にあるテーブルに座り、彼はパソコンをカタカタと鳴らし始めた。 仕事をしている姿はさっきのニコニコとは打って変わって真剣そのものだった。若干眉間に皺が寄っているのがみえて、そんな姿もかっこいいなと思った。 ん?カッコいい? たしかに彼は整った見た目をしている。昔は他人の美醜については疎かった僕も彼は世間一般ではあまり見かけない端正な顔立ちだというのはわかった。 でも僕は他人をかっこいいと思ったことがなかったはず。何がかっこいいんだ? あぁ・・・僕にはない節ばった指に、逞しい筋肉と高身長。彼が僕に見せていた笑顔とは違った真剣な仕事顔のギャップ・・・それらがかっこいいと思ったのかな・・・なんだか心がソワソワする。 この気持ちは一体なんだろう? なんだか映画を見ているけど集中しきれない自分がいて、あまり没頭できなかった。でもアクションシーンの迫力はもの凄かった。 気づけばエンドロールが流れていた。 「どうだった?」 いつの間にかソファーの後ろに彼が立っていた。 「なんか・・・凄かった」 「ふふっ、凄かったか、今はCGでなんでも出来ちゃうもんな。いつでも好きな映画見ていいよ。動画配信サービスには全部入ってるから、好きな奴有料でも全然見ていいからね」 「うん・・・ありがとう」 「遅いし、風呂入るか?」 「ん?お風呂?」 「おいで」 彼は僕の手を引いて、奥の寝室の近くにある部屋に入っていった。 ドアを開けるとそこは広いお風呂場だった。大人が3人以上余裕で入れる様な大きな湯船、その隣にはガラス張りの広いシャワールーム 。洗面台もあって、大きな鏡が二つ並んでいて、まるで高級ホテルのような作りだった。 「すごっ・・・」 思わずつぶやいた言葉に彼は微笑んでいた。 「服持ってくるからちょっと待ってて」 そう言い残して彼はお風呂場を出た。 僕は少し周りを見て回ることにした。 洗面台にはなんだか色んなボトルが並んでいて一つ手に取ってみると、なんだか高そうな化粧水の様なものだった。なるほど、ここに並んでるのはお肌整えるものなのか。彼意外と美容に気をつけてる人なんだなぁ・・・ 湯船に近づくと隣にボタンがついていた。なんだろう?このボタン。追い焚きのボタンなのかなぁ? 悩んでるうちに彼が戻ってきた。 「あの・・・」 「ん?」 「このボタンって・・・なに?」 「あぁ、それか、後でのお楽しみな」 ん?お楽しみ?なんだろう? 「とりあえず服脱ぎな、おいで」 「・・・・・・・・・ここで?」 「うん、ここで。あぁ、気になるならタオル渡すから、腰に巻いて。俺後ろ向いてるわ」 彼は僕に小さめの白いタオルを渡してそのまま後ろを向いた。 うん。これはやっぱ恥ずかしい・・・うーん・・・男は度胸だよね・・・なる様になるか。 僕は急いで服を脱いで腰にタオルを巻いて、脱いだ服を集めて抱えた。 「脱いだよ・・・服どうしたらいい?」 彼はゆっくり振り向いて目があった瞬間時が止まったかの様に固まった。でもすぐ僕の脱いだ服を手に取って返事をしてくれた。 「えっと・・・服は脱いだらここのカゴに入れといて、クリーニングに出すから」 「うん」 「まず身体洗おうか」 「・・・え?いや・・・その・・・自分で出来る」 「ん?気にしないで、うちのシャワーちょっと特殊だし、どこに何があるかわからないでしょ、おいで、変なこと何もしないから」 確かにあのシャワー室の使い方はちょっとわからなさそう。 僕は大人しくシャワー室に入った。 彼が端っこに置いてあった椅子を持ってきて、僕を座らせた。 「ここを捻って温度の調節ができるよ、ここのレバーを引くと普通のシャワーからレインシャワーに変えられるよ。今日はレインだと俺も濡れちゃうから普通のシャワーにするね。ボトルは左から順にシャンプー、リンス、ボディソープ。下の方にあるのが洗顔料ね」 レインシャワーなんて初めてみた。文字通り雨みたいになるのかな? 「じゃぁ、頭洗うね」 彼はそういうと自分のシャツの袖を捲り上げてシャワーのお湯を出し始めた。 「服・・・脱がないの?」 「んー?今日はね、ひなを洗うことに専念したいな、ダメかな?」 うぅ・・・そんなしおらしい顔で見ないでよ・・・なんかずるい気がする。 「ダメじゃないけど・・・」 「ダメじゃないならいいんだ。この温度で大丈夫?熱くない?」 彼は僕の足元にお湯をかけて温度を確認してくる。マメだなぁ・・・そんな丁寧にしなくて良いのに。 「うん・・・大丈夫」 僕はお風呂を1人で入ることが少なかったから、特に違和感なく頭を洗われることを受け入れられた。母とは違った大きな手で丁寧に洗われるのが気持ちよくて、上を向きながら目を閉じた。 「気持ちいい?」 「んッ・・・気持ちいい・・・すごい・・・上手」 「・・・・・・・・・うん、そうか。よかった。痒いところないか?」 「ちょっとうなじの上が痒い」 「ここ?」 「んッ!そこ・・・」 「・・・これは・・・思った以上に苦行だな・・・」 「ん?・・・なんか言った?」 頭をワシャワシャと洗われている音で彼が何て言ったのか聞き取れなかった。 「ううん、なんでもないよ、もう痒くない?痒くないなら流すよ」 あぁ・・・すっごく気持ちいい・・・プロの美容師さんに頭洗ってもらってるみたい。強すぎず弱すぎない刺激で頭皮を優しく洗ってくれる・・・なんだかクセになりそう。 しっかりとリンスをして、流して次は身体って時になって僕は初めて緊張した。どうしようかと悩んでいると、 「背中洗うね、他は自分で洗える?」 「うん」 よかった。全身洗われたら流石に恥ずかしい。 彼が僕にモコモコの泡と柔らかいタオルを渡してくれて、僕は素早く身体を洗った。 「んんダメッ・・・そこ!・・・くすぐったい」 彼は素手で僕の背中を洗ってくれているみたいだけど、腰のあたりをツーっとなぞられてゾワゾワとした感覚がくすぐったくて思わず抗議した。 「ふふっ、ごめんね。ひなは敏感なんだね」 うーん・・・そうなのかな? 「わかんない・・・人と比べたことない」 「そっか、洗い終わったかな。流すよ」 「ん」 全身流し終わって、僕は再度腰回りのタオルを巻き直した。濡れたタオルがペタッと肌に張り付いて気持ち悪いけど、恥ずかしいから我慢だ。 「冷えちゃう前にこっちおいで」 僕はシャワー室を出て言われるがまま慎重に湯船に浸かった。ちゃんと中に段差があって座れる様になっていた。確かに座る場所ないとこんな深い湯船だと溺れちゃうよね。 どうやら入浴剤が入っているみたいで、フローラルな香りが漂っている。 「ひな、このボタン押してみて」 あ、さっき気になってたボタンだ。 「いいの?」 「うん、押して」 恐る恐る銀色のボタンを押すとゴーという音と同時にジャグジーになった。 「うわっ!すごい!」 初めてのジャグジーにテンションが上がってしまって思わず笑みが溢れた。

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