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第9話
あーよく寝た。
こんなに気持ちよく心ゆくまで寝たのは初めてだ。
窓から見える景色はもうすでに少し薄暗くなっていた。
もしかしてだいぶ寝てた?時計を見ると17時を指していた。
そろそろ帰ってくるかなぁ・・・それとももっと遅いのかなぁ・・・
僕はとりあえず寝すぎだから一回顔洗って歯磨いてリフレッシュしよう。
洗面所からリビングに向かうとスミが椅子に座って待機していたらしい。僕を見るなり急いで立ち上がった。
「おはようございます、陽太様。よく寝れましたか?」
「うん・・・寝過ぎたぐらいだよ」
「左様でございますか。あと10分ほどで若様がお帰りになるとの連絡がございまして、夕食を一緒に食べたいとのことです。陽太様は何か食べたいものなどございますか?」
「なんでも食べるよ」
「かしこまりました、では若様のリクエストでご用意させて頂きます」
そういってスミは一旦家から出た。
僕は特にすることがないのでソファーに座って
徐々に紺色に染まっていく夕焼けをただただ見つめていた。
どれくらい経ったのだろう・・・
「ひーな、ひな?聞こえてる?」
「っ!」
急に耳元で声が聞こえてびっくりした。
「ごめん、びっくりさせたね。ただいまひな、遅くなってごめんね」
「おかえりなさい」
よく見ると彼は少し疲れてそうな表情をしていて、仕事が大変だったんだなと思った。
「お疲れ様・・・大丈夫?」
すると彼の頬が緩んで、笑顔になった。
「心配してくれたの?ありがとうひな〜
でもちょっと疲れたからひなで癒されたいな、ご飯の前にちょっといい?」
癒されたい・・・か。僕のどこに癒される要素があるのだろう?癒し・・・癒し・・・何がいいかな。
僕は彼の袖を引っ張ってソファーに座らせた。
「・・・ひな・・・?」
なんだかキョトンとしてて可愛いかも。
僕は彼に頭を撫でられるのが気持ちいいから頭撫でてあげよう。
ナデナデナデナデ
あ、結構銀髪硬いのかなって思ってたけど、意外と柔らかい。
ナデナデナデナデ
ん?なんだか彼固まってる気がする。もしかしてあんま触んない方が良かったかな、なんか耳赤いし。触られるの嫌な人もいるよね。謝んないと。
「ご・・・ごめんなさい・・・勝手に」
あぁ、どうしよう・・・怒らせちゃったかも。
そうだよね、普通急に頭撫でられても嬉しくないよね。勝手に触っちゃったし・・・どうしよう・・・
「ひな?ひな?あぁ、ごめんひな、違うんだ。嫌だったとかじゃないよ?むしろ凄いご褒美。今のすっごい癒された、もうやばい。あまりの衝撃に一瞬思考がぶっ飛んだわ。あーまじでやばい・・・可愛すぎる・・・」
あぁ・・・良かったぁ。怒ってないみたい、僕はほっと一息ついた。
「ねぇ、ハグしてもいい?嫌だったら我慢する」
大丈夫だけど律儀だなぁ、ちゃんと嫌かどうか聞いてくれる。そんなの嫌じゃないから断れるわけないじゃん。
「・・・ん・・・」
両手を広げたけど一向に彼が動かない。
あれ?ハグするって言ってなかったっけ?
「ハグ・・・しないの?」
一瞬の沈黙が流れた。
すると彼が凄い勢いで立ち上がって僕の腰を抱きあげて胸にグリグリと頭をくっつけてきた。
「あぁぁぁぁー!もうダメだぁ・・・可愛いぃ・・・無自覚でこれかぁ・・・心臓保つかなぁ・・・可愛い・・・やばいわ・・・」
「っ!ちょっ!・・・僕重いってば」
僕重たいのに軽々と持ち上げられてるし、なんか胸ぐりぐりされてるし、全然話を聞いてない。挙げ句の果てにはなんだか匂いを嗅がれてるような気がした。
元々あった時から厳つい強面のイケメンとは思ってたけど、時間が経つにつれて彼のキャラがガラガラと崩壊していく音が聞こえる気がする。
「疲れてるのに・・・重いでしょ。もう下ろして」
「ん?ひなは軽いよ、軽すぎるぐらいだよ。もっといっぱい食べて体力つけて欲しいな」
ギュルルルルルゥ〜
はい、僕のお腹ですね。
お昼食べてなかったから思ってたよりお腹が空いてたみたいだ。流石にこのタイミングでお腹が鳴るのは少し恥ずかしい、思わず両手で顔を隠した。
「ぷはっ!そうだよな、昼食べてなかったみたいだし、そりゃお腹も空くよな。じゃぁご飯食べよう!」
彼はもう一度僕を抱えなおして、ダイニングに向かった。抱っこじゃなくて下ろしてくれればいいのに。
ダイニングテーブルの上にはすき焼きがセットしてあった。
うわぁ〜あの牛肉霜降ってる!幾らするんだろう、めっちゃ美味しそう!
思わずテンションが上がっている僕を微笑ましい顔で彼は見ていた。
「「いただきます」」
あぁ・・・こんな美味しいお肉食べたの初めてだぁ・・・
文字通りお肉が溶ける!しかもすき焼きのタレと生卵が絶妙に絡まってて、美味しい・・・
「美味しい・・・ほっぺた落ちそう」
「よかった、ひなが好きなら毎日でも食べれるよ?」
毎日すき焼き!そんな贅沢が許されるの?
「いやっ!・・・魅力的だけど・・・これは偶に食べるから美味しいんだよ。毎日食べてたら僕太っちゃう」
「はははっ、そうかそうか、じゃぁ、すき焼きは偶に一緒に食べような」
そんな話を少ししながら夕食を食べ終わり、気合を入れて洗い物しようとしたら、
「ひな?今日は一緒にやろう、そしたら終わるの早いから」
彼と僕、2人並びながら洗い物を始めた。
彼がお皿を洗って、僕が拭く係になった。
こうやって2人並んで一緒に作業するのって、なんだか新鮮。家族ともやったことなかった。
僕は嬉しいのかな?こうやって誰かと一緒になにかをするなんてこと今までになかったから。
「なんかこうやって一緒に皿洗ってると、新婚夫婦みたいだな〜初めての共同作業みたいな?」
「しっ、新婚夫婦・・・じゃないし」
「いやぁ、俺は楽しいよ?ひなと一緒に皿を洗うってだけで嬉しいよ〜」
彼もそう思ってくれるんだ・・・なんかむず痒くなってきた。
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