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第26話
「そうか、よかった。ひなから臭いって言われたら俺立ち直れない気がする。あ、でも臭かったら遠慮なく言ってくれ」
「ん、わかった」
「俺以外の誰かがこのベットの上にいるなんて、中々不思議な感覚だなぁ」
「他の人連れ込んだりしないの?」
「もーひななんでそういうこと言うかな。まぁ、俺自分のプライベート空間にあんまり他人に入ってほしくないタイプでさ。ある意味での潔癖って感じだな」
「あぁ、なるほど、気持ちはわかる気がする・・・僕は大丈夫?」
「当たり前。なんかこうたまんない気持ちになるね」
彼の目が一瞬ギラついた気がした。
「・・・ここ音って・・・」
「あーある程度の防音性はあるよ。流石にセキュリティ上叫んだら分かるぐらいの防音性だ」
「そ・・・そっか」
ここで大声出さないようにしよう。
「ヤクザの事務所って・・・なんか想像と違った」
「あーよく言われるよ。意外と普通のオフィスなんだよね。まぁ、外からみて明らかにヤクザです!って宣伝できないからな。なるべく周りに溶け込むような見た目にはなってる。あれだぞ?流石にロータスの方はちゃんとした高層ビルになってるよ」
「そうなんだ」
ヤクザの事務所なんてどんな怖いところかと思ったけど、本当に彼の言う通り普通のビルだし、中綺麗だし、ちょっと予想とかなり違った。
「ひーな、膝枕して」
「気持ちよく・・・ないかもよ?」
「ううん、絶対疲れ吹っ飛ぶからお願い」
「いいよ」
んーどう座ればいいかな、ベットに対して横に座ればいい??うーん、そうしようかな。
ぽんぽんと膝を叩いて、「おいで」と彼を呼んだ。
「至福のひとときだなぁ」
僕の太ももに頭を預けてふくらはぎをプニプニと触られる。
「くすぐったいって」
「触り心地がいいから我慢して」
本当に楽しそうにサワサワしてるので、僕も彼の髪型が崩れない程度に優しく頭を撫でた。
こんな優しい人なのに、ヤクザの若頭やってるんだもんなぁ。普段はめっちゃ威圧感とかあって怖いのかな?
「ひな?」
急に名前を呼ばれて思考が引き戻される。
「ん?」
「ひなはヤクザ怖い?」
「・・・うーん。正直今までの人生で馴染みがなさすぎて・・・みんな優しいし、多分普段の仕事とか見てるわけじゃないし、こう実感がないから・・・怖いのかもわからない・・・かな?」
「まぁ、そうだよなぁ」
「昨日ヤクザの映画見てたんだけど・・・なんか銃とか違法薬物とか色々出てきて・・・やっぱりそういうのはあるの?」
「ぶっ込んだ質問だねぇ。一概に言えないが、まぁ、薬物の売買をやってる組はあるね。うちの組は薬は御法度だから、手を出す奴が居たら即破門だな。まぁ、でも薬は最近ではヤクザよりかは半グレ集団がしゃしゃり出てるな」
「半グレ?」
「指定暴力団には属さない不良の集まりって感じだな」
「なるほど」
「武器に関しては詳しくは言えないけど、あるにはあるよ。どうしても自衛に必要だったりするからね」
「・・・だよね・・・」
「怖い思いをさせないとは言い切れない。それは本当にごめん。けどひなのことは全力で守るから少しでも安心してほしい」
すっと僕の頬に手を伸ばして優しく指で撫でてくれる。
「・・・ん、ありがとう」
バリバリガッシャーンッ!!
ビービービービービー
まったりとした雰囲気に突然大きな音と微かな揺れが建物に響いた。
「どこが動いた・・・ひな、絶対この部屋を出るな。スミから離れちゃダメだ、わかった?」
「う、うん。わかった。気をつけて」
「あぁ」
彼は僕の額に口付けて、部屋のドアを開き出て行った。入れ替わりにスミが部屋に入ってきた。
「陽太様、そんな顔しなくても大丈夫ですよ。ここには沢山の組員が居ますし、ここまでは来れないはずです」
「・・・そっか・・・」
それでも何が起きたかわからないまま、ただただ待つしかできない自分が嫌になる。
その時、
コンコンココン
独特なノック音が部屋に響いた。
「陽太様、少々お待ちください」
スミはドアを開けに行った瞬間、
「ッングッッ!!!!!」
反応出来ない速さで男が入ってきて、スミの太ももに刃物が刺さった。
「スミっ!!!!!!」
なんでなんでなんで???なんでスミが刺されてるの????
スミは一瞬遅れをとったが、そのまま男に殴りかかった。
「陽太様逃げて下さい!」
逃げろという指示に従って僕は急いで扉に向かって走った。さっきの男がこっちに向かってきてるのが見えるけど、スミが必死に男のズボンを掴んでそれ以上進まないようにしてくれている。
ごめん、スミ、すぐ助け呼ぶから。
部屋を出ると、黒いスーツの人が一人いたので
「スミが!スミが刺されて!助けて下さい!」
するとその男の人は、
「なっ!刺された?!何処ですか?!」
と急いでスミを助けようとしてくれた。
「あの部屋の中に!」
と僕が部屋の方を向き指を差した瞬間、後頭部に凄まじい衝撃が走り、訳も分からずそのまま意識が途絶えた。
僕はもしかしてものすごい馬鹿な選択をしてしまったのだろうか・・・?
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