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夢魔 2

優しいキスをされる。 柔らかく唇で唇を食まれて、優しく舐められ、自分から唇を開くように促される。 思わず開いたなら、入ってきた舌は柔らかく少年の舌に絡みつく。 粗雑な印象のある男のどこに、こんな優しく繊細な感覚があったのかと思う優しい動きに、甘やかされ、思わずしがみついてしまう。 優しく背中を撫でられながら、その甘いキスに酔った。 醜い男達に口の中を舐め回されていた時は早く終わって欲しいとしか思わなかったのに、止めて欲しくない。 呼吸が苦しくないように、時折離してはまた重ねられる優しいキス。 優しさだけしかないキスなのに、淫らな身体は感じてしまう。 ビクン、 身体を震わせた。 キスだけで軽くイったのだ。 「キスがホンマ好きなやな、ホンマに可愛い」 男は嬉しそうに、勃起してダラダラと雫に濡れている少年のソコを撫でてきた。 少年は自分の淫らに泣きそうになる。 「エロいんが可愛いんやから、そんな恥ずかしがるなや」 男は頬にキスしてくれた。 男は服を脱ぎ捨てる。 高価なスーツだ。 明日クリーニングに出さないと。 少年は現実的なことを思った。 ワイシャツも脱ぎ捨て、お気に入りの「めっちゃ高い時計」も外す。 これを外してするのは少年相手の時だけらしい。 時計のデザインよりなにより値段が1番気に入っていることを男は隠そうとはしない。 「ええ時計とええ女は高いもんやと決まってるやろ」 男の価値観は明快なのだ。 ズボンも下着も脱ぎ捨てた男はとても美しかった。 その身体に贅肉は1ミリもない。 そして、ボディビルダー達のみせるためだけの筋肉とは違うことは、少年にもわかる。 男は大きい。 185センチや、といっていた。 160少ししかない少年とはかなり体格差はある。 幼い頃から大人に犯され続けたから大きな身体の男に覆いかぶさられるのが怖いはずのに、この男なら良かった。 だって絶対に酷いことなんかしない。 男の凶悪なまでに大きいソレにだって怯えない。 防御的な反応で、イったりはしても、快感より、早く終わって欲しい、抜いて欲しいと思い続けていた男達のモノとは違って、コレは少年を気持ち良くしてくれるものだと分かっている。 でも、ほんの少し前にドアの前で女の人とコレでしてたわけで。 胸が痛んでしまう。 「泣くなや・・・可愛いなぁ、オレが他のに入れるの辛いんか。可愛いなぁ、ホンマ。でもお前が一番ええんやで?オレが他所でしてくんのはお前の為や。オレがしたいだけしたらお前死んでまうやん」 男はニヤケながら言う。 下品さは隠しきれないが、とにかく整っていることはまちがいない男の顔がだらしなくゆるむのは、この時だけだと少年は知らない。 少年は頷く。 男に言われることにはなんでも頷く。 少年は他の女の人と男がするのを嫌だなんて思ってはいけない信じているから余計に。 「尻突き出せや。舐めたる。女にはここまでしてやらんのやぞ」 男にいわれて、少年は真っ赤になりながら、四つん這いになる。 色んな男達にいろんなことをされつくして、恥ずかしいとか分からなくなっていたけど、男に優しくそこを舐められるのは何故だか恥ずかしくてたまらないのだ。 「お前のココやったらいくらでも舐めれるからフシギやな。お前のやったらちんぽもでも咥えられるしな」 男は不思議そうに言う。 硬く勃起している少年の性器を弄りながら。 少年は喘ぐ。 男に触られたなら、おかしくなってしまう。 「ここも可愛い穴やな。そう思う時点でオレもどうかしてる」 男は笑った。 男は元々男性に興味がない。 たまたま、男性を抱いてみたらどうなるのか、という疑問を持って、試したかった時に少年がそこにいただけだ。 少年が男性とセックス出来ることを知っていた男が、「ヤラセてくれや」と頼んできたのだ。 断りきれなかった。 というより断ることを知らない。 そこから始まった関係なのだ。 男は抱いてから何故か少年が気に入って、連れて帰ってくれたのだ。 これは男が飽きるまでなんだ、と思っているけど。 最初にした「優しくする」という約束が破られたことはなくて。 今も優しくそこを舐めれ、少年は甘く鳴いてしまう。 昔は「色っぽい声を出せ、フリでも喜べ」と言われていても出来なかったのに。 舐めながら性器を扱かれて、身体をよじりながら感じる。 舌の熱さ、大きな手の熱。 男の息を感じて、唾液に濡れる。 中まで舐めることに躊躇わない男の欲望。 優しい。 舌は丁寧に襞を舐めた。 愛しくてたまらないかのように。 優しく指は茎を扱いてくる。 その指のどこにも、平然と人を殴る男の野蛮さはない。 濡らされ、唾液を注ぎ込まれるのは傷つけたくないからと分かるから。 溶かされてイった。 男は指で解しにくる。 「もういい、挿れて・・・」 強請ったけれど、男は絶対に無理にねじ込まない。 優しくしつこく解してくるのだ。 「オレは優しいやろ?」 嬉しそうにささやかれる。 何度も頷く。 だけど、辛い。 気持ちいいけど辛い。 早くそこに挿れて欲しい。 「お願い・・・お願い・・・」 挿れて欲しくて、欲しがってしまうのは男とするようになってからだった。 それまでは 早く終わって欲しくてそれを願ったことはあったけれど。 焼かれたり殴られたりは、射精するまでのプレイだったから。 「ホンマ可愛いなぁ・・・」 男は嬉しそうに言うと、少年を仰向けにし、肩に脚を担いだ。 男はベッドでする時は対面するのが好きだ。 顔みてキスできるから正常位がええ、と食事中に真顔で言われて、少年は真っ赤になったりしたものだ。 優しくキスして、ゆっくり入ってくる。 ゆっくり広げられ、その大きさにやはり圧迫される。 でも気持ちいい。 気持ちいい。 満ち足りていく。 男の背中に腕を回してすがりつく。 「しっかりつかまっとくんやぞ、ああ、やっぱり女のんより、お前のんがええ」 男は確かめるように腰を回して、それに少年は苦しくなる。 違いを確かめられて。 女の人じゃないことを確認されて。 締め付けてしまった。 男が呻く。 眉を顰めるその顔はとても色っぽい。 どんな女でも夢中にさせられるはずなのに。 「アイツはモテるけど、最初だけ。アイツのゲスさに女は全員逃げる。誰一人長続きしてない。これ、安心出来る話なのかなぁ」 男の『師匠』という人が困ったように少年には説明してくれた。 師匠は大きな男よりもっと大きな人で、この人も少年には優しかった。 男が嫌になったら言いなさい、どこか他で生きていける場所を見つけてあげるから、と言ってくれてる。 「アイツ、ゲスやぞ。殺したくなったら僕に言いや」 男の弟だという少年も、わざわざ訪ねてきてそう言ってくれた。 この弟が少年を助けてくれたことがきっかけで、男と出会ったのだけど、この兄弟関係はフシギで、仲は悪くはないけれど、弟は心底兄の素行を嫌っているのは確かだ。 「他と比べるからお前の良さを再認識できるんやろが、泣きなや」 男は無邪気に笑って、ゆっくり腰を動かしていく。 それは優しい動きで、溶かされていく。 優しいリズムが少年を捉え、ゆっくり甘いシロップに沈ませていく。 甘さが喉から漏れ出す。 その甘さを確かめるみたいにキスされ、それがさらに頭をぼんやりさせるほど甘い。 少年は喘いで何も考えられなくなってしまう。 気持ちいい。 優しい。 でも何か叫びたいほど伝えた気持ちがあるのにそれがわからない。 「好き」 という言葉を少年も男も知らないのだ。 男も甘い気持ちでそこをたのしむ。 締め付けやカタチ、だけでは説明できない何かがあるのに、それがわからないから気づけない。 「可愛い」 そう囁きながら少年をイカせる。 気持ちいい。 こんなに気持ちいいのは。 何故だか二人とも分かっていなかった。

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