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夢魔 6

らしゅあい らしゅあい 奇妙な声と言葉が聴こえた。 呼気だけのような。 深く響くような。 いや、頭に直接響くような。 しゃかしゃ しゃかしゃ 一人のような大勢のような。 ザワリ 全身にから鳥肌がたった。 道の先、その先の角からそれが聞こえてくる。 街灯はある道なのに、その先だけ闇が深い。 すぐ先が見えないほど暗くなるなんて、都会の街ではありえない。 『狭間』だ。 そう分かった。 知っていた。 ダメだ。 良くない。 慌てて背中を向けてそこから逃げようとした。 しゃくらなな しゃくらにに 声は大きくなっていた。 走ったのに。 いや、走ろうとしたのに。 感覚がない。 夢の中のよう。 逃げれているのかも分からない。 何かザワザワしたものが、カサカサした音を立てて追ってくる気配だけがする。 知ってる。 知ってる。 これはアレと同じだ。 前に自分を襲って犯して殺そうとしたモノと同じだ。 「狭間に気をつけろ」 暗くて陰険そうなソイツに言われたことを思い出した。 男の弟、自分を助けてくれたその人と一緒だった「専門家」と名乗る少年だった。 「あんたは深く関わった。だからこれから先またこういうことが起こるかもしれない」 そう嫌な予言をした。 どうすればいいのかは教えてくれなかったけれど。 「まあ、あんたは・・・どうせあのクソ兄貴が・・・」 ソイツは言いかけてやめた。 そして、じっとりと嫌な目で睨まれたのだった。 「クソが!!」 何故か罵られて。 地面に唾まで吐かれた。 「愛されてるのが羨ましいんよ、気にせんで?自分かて愛されてんのにねぇ。分からせてやらんとね」 弟がフォローした。 そして弟の「分からせて」のところで、何故かソイツは怯えきったのも、弟の目がぎらついてのも分からなかった。 後にソイツは弟の恋人だと聞いたけれど、あの一見優しいがどこかオカシイ弟と、陰険そうなアイツの組み合わせは何だか怖いとしか思わなかった。 その時のことはそれで忘れてたのに、今おもいだした。 くしなやぬの くしなるほは 響く声 カサカサカサカサ 無数の何かがアスファルトを引っ掻く音。 そう、無数の虫の脚のような。 見てはいけない 見てはいけない。 逃げる。 逃げた。 逃げたつもりだった。 何もかもがおかしな感覚になっていても。 でもとうとう暖かくてカサカサした蠢くモノに足をとられた。 転倒する。 カサカサ カサカサ 無数の何かが 少年を覆い尽くした。 姿よりもその蠢きがその存在そのものだった。 悲鳴を上げるその口。 喉。 鼻。 耳。 それらはそこから身体の中に侵入していく。 舌に喉に鼻を蠢きが支配していく。 悲鳴は塞がれた。 呼吸も。 少年は。 男に会いたかった。 もう一度だけ。 それだけ。 それしか。 考えなかった。 何か強く思ったけれど、その感情の意味も名前も知らなかった その感情の中で。 少年は意識を失ったのだった。

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