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夢魔 7
目覚めたら部屋にいた。
男と使っているベッドで寝てた。
学校のか帰りにスーパによっていたような・・・。
夢なのかと思ったら枕元に男がいた。
目があったら、ホッとしたように笑ったから、心配してくれていたんだとわかった。
「オレ、ごはん・・・」
少年は慌てる。
買ってきた食材は?
あれは夢?
まだ男のために料理はしてないのだ。
「ええから寝とき」
男は起き上がろうとした少年を優しく押さえつけた。
「どうして、あんなとこに倒れとったんや」
男は心配そうに聞く。
「倒れてたの?オレ?」
少年は頭をふる。
何だっけ?
何が?
思い出せない。
「隣り町で倒れとったんや。学校から帰る時間やのにいつまでたっても帰ってこんから、位置情報を調べ・・・まあ、ええ」
何か言いかけて男は慌てたように止めた。
位置情報って何だろう。
少年は首を傾げた。
携帯端末も男がくれるまで持っていなかったので、少年には色々知識がまだ足りない。
「医者呼ぶか」
男は心配そうだった。
心配かけたくない。
少年は首を振る。
「大丈夫。きっと最近テスト勉強頑張ってたから」
それは嘘ではない。
「それやのに昨日もオレとしてたらしんどいな。そういう事は言えよ。オレならどないでもできるんやから。無理してせんでもええんやぞ」
男が後悔している。
少年はブンブン首を振る。
他の人とするのを知ってるからだ。
他の人で済ませてくる。
少年のために。
それが嫌だった。
父親の時には他ですましてきて欲しかったのに。
「オ、オレもしたかったから・・・」
嘘じゃない。
本当だ。
倒れてしまったのは失敗だったけれど。
少年は倒れる前後の記憶がないけれど。
「今日はやめとこか」
男は優しく言った。
男は帰ってきたら絶対に少年を抱くのに。
ちょっと泣きそうになる。
他の人のところに行くのだろうか。
一晩限りの相手をみつけるなら男は困らないのだ。
それを止める権利は自分にない。
男は出ていく。
相手を探しに。
唇を噛んだ。
「お前がシンドイのにどこにもいかへんよ」
男は笑ったからホッとした。
どこへも行かないと思うだけで嬉しくてたまらなくなる。
小さくわらってしまった。
「可愛いわ。明日調子良かったらしてもええか?」
男が何故かため息をつきながら言った。
したがっているのは分かる。
欲しがられているのが。
それが嬉しくて仕方ない。
こんな自分でも欲しがってもらえるなんて。
「オレは今でも・・・」
言いかけるのをキスで止められる。
「優しくしたいんや。優しくさせてくれや。お前にだけは優しくしたい」
男の声の甘さに泣きそうになった。
なんて返したらいいのかわからなくて。
言葉に詰まりオドオドしてしまう。
それを見てはまた男が優しく笑った。
キスされた。
優しい触れるだけのキス。
何度も優しく繰り返される。
こんなキスがあるなんて知らなかった。
男に会うまでは。
「もっと舌を使え」
「やる気を出せ」
罵られながらしていたものとは根本的に違う。
汚い舌でいろんな男達にされるキスは実はセックスよりも嫌いだった。
でも、今はキスが好き。
何度か優しく触れられて離れていく。
「冷蔵庫の作り置き、温めよか、食べれるか?」
聞かれて、真っ赤になりながら頷く。
色んな男に犯されてきたくせに、こんなキス位で赤くなるのも自分ではオカシイと思うけど。
「明日はしよーな」
男が笑う。
屈託なく。
「当分休みや。師匠が振られて泣いてるから。しばらくあれはあかんやろ」
思いやりなく嬉しそうに男は言った。
少年も男の言葉に喜んでしまう。
少年も師匠はお世話になってるし気にかけてくれている人なので、好きなので、その不幸を喜ぶのはどうかとは思うのだけど。
男は師匠と仕事をしている
限りなくグレーな仕事だ。
要は何でも屋だ。
師匠に言わせると違うらしいが、男は何でも屋で良さそうだった。
自分でそう名乗ってる。
危険な分だけ羽振りもいいがいつ終わるかはわからない。
そして師匠は人使いが荒い。
何日も帰ってこなかったりするのはそのせいでもある。
だが、定期的に師匠がどこかの強かな女の人に惚れ込んで、大金をむしり取られて、振られてしばらく落ち込み仕事が休みになるので、まあ、休みがとれてないわけではない。
「テスト・・・今日で終わりだから・・・学校休みだから」
少年は小さな声で言った。
男を離したくなかった。
この部屋で自分の中に男を挿れて閉じ込めてしまいたかった。
こんな独占欲しらなかった。
他の人の所へ行かないでなんて言えないけど。
「しよな。沢山。いっぱいイかせてやるからな」
そっと背中をなぞられ言われて、身体が震えてしまった。
「だから今夜はメシ食って、沢山寝るんやで」
男は笑った。
その笑顔には、背中をなぞったいやらしさはどこにもなくて。
その笑顔は。
男は多分良いお兄ちゃんだったんだと理解できるものだった。
下品で平然と女をドアの前で犯すいやらしさと、優しく理性的に人を思いやれることが男の中で渾然と両立していた。
真っ赤になりながら頷く。
起き上がる。
ご飯をしっかり食べて、寝て。
沢山男に抱かれる。
そして、今日は男は出ていかない。
他で誰も抱かない。
それが嬉しかった。
笑った。
「可愛い・・・」
男が我慢出来ないかのように手を伸ばしてきた、その時だった。
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