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夢魔 9

「・・・確かにそれは深刻な事態だな」 師匠は頷いた。 目の周りが赤く腫れているのは泣いていたからだろう。 失恋したなら師匠はしくしく3日は泣き暮らすと男から少年は聞いていたのは本当だったらしい。 とても、失恋して泣き暮らすようには見えないのが師匠なのだが。 30後半から50ぐらいまでどの年齢にも見える顔は荒削りで、美形と呼べる種類の顔ではないが、だが、男らしく魅力的ではある。 そして185はある男よりもさらに大きい。 190はある身体を、高いが堅気らしくはないスーツに身を包んでいるので、武闘派のヤクザの幹部に良く間違えられる。 失恋位で泣き暮らすような男には見えない。 厳つい。 が、人を魅了する笑顔と優しい話し方で、妙に人を虜にするのが師匠という人なのだが。 今は古びたスウェットの上下に髪はボサボサ。 泣いてたことの分かる顔。 誰もが困ったことを頼みにくる、頼りがいのある男の面影はない。 もちろん凄まじい守銭奴という側面も師匠にはある。 お金が大好きな人間でもある。 だか何より。 女に弱い。 「はるかちゃん・・・なんで・・・」 また思い出して泣いてる。 師匠の欠点はとにかく悪い女が大好きなところだ、と男が言ってたのを少年はきいてる。 いいように使われ捨てられてばかりいる、と。 今回もそうだってらしい。 「師匠、しっかりして下さい。オレの身内の問題やねんから!!!」 男が珍しく師匠に声を荒らげる。 これはめったにない。 男はこの師匠にこれで心酔していて、この男がこの世界で命令を聞くのはこの師匠だけなのだから。 身内と言われて少年は心臓が何故だかバクバクしてしまう。 親切だからだ、とわかっているのに。 「分かってる・・・分かってる・・・タテアキにもうメッセージは送ってる。ただアイツがいつ戻ってくるかが分からん 。アイツからは好きな時に連絡が入ってくるのに、こちらからは連絡がとれないんだよ」 師匠は頭を掻きながら言った。 できる限りのことをしてくれているのはわかった。 こんな奇怪なことには「専門家」が必要なのだ。 こんな専門家への繋がりがあるのも、師匠の人脈の凄いところなのだが、どうにも上手く繋がらないらしい。 「お前の弟の恋人にもメッセージは送ってみたんだが【俺の知ったことやない】って返信だったよ。おまえの弟の方から頼んでもらったらどうだ?」 師匠の言葉に少年はちょっとホッとする。 何が起こっているのか分からないけれど、あの陰険なアイツは嫌だ。 あの弟も怖い。 あの2人はなんかおかしい、怖い。 でも、そうも言ってられないだろう。 少年自分の身に何が起こっているのかさえよくわこらないのだ。 「タテアキ以外にすぐにどうにかする方法ないんですか?」 男が珍しく師匠に要求する。 男はずっと少年を抱きしめて離さない。 あの時あと、風呂で少年の身体から精液を掻き出したのも男だった。 はじめて少し乱暴に扱われた。 でも、終わったら抱きしめて。 優しいキスを何度も何度もされて。 それからまっすぐ、師匠の家まで車を飛ばしてきたのだ。 男はあったことについては、何も言わなかった。 でも、少年を離そうとしないから、少年は安心した。 嫌われては、いない。 良く分からないけど、何かに犯されても、男からは嫌われて、いない。 犯されるのにはなれてて、そのこと自体にはショックはない。 10歳になる前に諦めることを学んでる。 だけど。 男に見られたのはショックだった。 嫌われるかもしれないと思ったら苦しかった。 だから、離さないでくれているのに安心している。 嫌われてないのに安心している。 嫌わないで欲しい。 嫌われたなら、もう、耐えられない。 生きることも死ぬこともどうでも良くなっていたはずなのに、男に嫌われると思うだけで耐えられない。 「・・・こんなのタテアキかお前の弟の恋人にしか扱えねーよ。タテアキの方はもう一度当たってみるから、おまえは弟からたのんでもらえ。恋人から頼まれたなら、あの生意気なクソガキも考え直すだろ。とにかく、すこしでも早くなんとかしないとな。時間が問題になる」 師匠は真剣な顔で言った。 師匠の家は家賃が安いという理由だけで住んでいるほとんど住人が住んでないボロアパートの一室だ。 師匠はケチでお金が大好きなのだ。 だけど、師匠は身内には優しい。 思い切りこき使うけれど優しい。 「時間が問題って・・・?」 少年は怯えて聞く。 どういうこと? 「眠ったらソレが起きて、起きたらソレが止まったんたなら、眠ることが原因たろ。だが、人間は寝ないと死ぬんだよ」 師匠はハッキリ言った。 「かと言って寝ながら犯されるのってのも身体を休めないという意味ではヤバいだろ。はやくなんとかしないといけない、弟に頭を下げるのは嫌だろうが頼め。時間がねぇよ。オレもタテアキをなんとか見つけてみるよ」 師匠の言葉に男は顔を顰め、少年はふるえた。 また寝たら犯される。 嫌だ。 そう思った。 男以外に抱かれるのは嫌だ。 初めて思った。 どうでも良くなっていたはずなのに またサれると思ったら嫌でたまらなくなっていた。 男にたのまれてセックスした時も、どうでもよかったからセックスしたのに。 男と暮らし始めていつの間にか。 男以外が嫌になっていた。 「嫌・・・」 少年は泣いた。 「クソっ」 男はののしり、舌打ちした。 「まあ・・・やれることをやるしかないね、できるだけ早く」 師匠は淡々と言った。 その通りだった。

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