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夢魔 25

ぐわっ 少年の目が見開かれた。 限界まで見開かれ、白目の部分に血管が浮きあげる。 顔は真っ赤にふくれあり、苦痛のためか歪みきっている。 タテアキに頭と顎を押さえつけられているので、口を開きたくても開けないのだとわかる。 「手伝って。押さえろ。まだ口を開かすな」 タテアキの言葉に男も繋がったまま小説の頭と顎を押さえる。 少年の身体が快楽とは違うとわかる痙攣を始める。 それが中にある性器を刺激してしまうらしく、男はたまに呻く。 「何が起こっている?」とは聞かない。 タテアキが教えてくれないことは知っているからだ。 「コイツ死んだりしないな?」 これは聞く。 タテアキが目指すのは事態の収拾で、人間の命は二の次だったりするからだ。 「ボクが『彼』を殺さすわけがない」 タテアキが断言したのが、逆に怖かった。 タテアキが懸命に守るのは、「そちら側」の「モノ」だけだからだ。 真っ白だった身体が赤黒く染まり、真っ赤な目を見開き痙攣する少年を貫いたまま、男はその顎と頭を開かないように押さえつけていた。 さっきまで男には直接は感じとれないが、同じ穴に入ってたはずの【見えない何か』のペニス。 その出してくる精液や「何か」が突き上げる穴への振動などで存在をこれみよがしに伝えてきた、『見えない何か』のペニス。 それが感じ取れなくなっていることがわかる。 今感じるのは生命の危機に痙攣する少年の身体だけ。 少年への心配はもちろんある。 でも、それは甘く男のペニスを、今はようやく男しか居ない穴で甘く絞りとってきていたので男は呻いてしまう。 「天敵を身体の中に放ったから、追い詰められて出てくるよ」 タテアキは言った。 珍しくタテアキが説明してくれたが、分からないことには変わりがなかった。 天敵とは少年に口に放り込んだ「鳥」と書いた紙のことなのだろうな、と推測はできたが。 だが。 確かに。 出てきた。 最初は鼻の穴から。 そして耳の穴から。 カサカサ カサカサ カサカサ それらは蠢きながら出てきた。 最初は灰色の埃が出てきているのだと思った。 それがふわふわした体毛と長い脚をもつ小さな蜘蛛のような蟲の固まりだとわかった瞬間男は、鳥肌がたった。 流るように大量に、少年の中から止まることなくそれは出てくる。 少年に挿入したまま、頭や顎を押さえている男の腕もや身体にカサカサとそれらが登ってくるのは避けようもなく。 「なんやねん、コレ!!」 男は情けなくも絶叫したが、少年へ押さえつけている腕の力を緩めることはなかった。 だが顔や頭まで這ってはきても、男の耳や鼻へとそれらは入る様子はない。 長い脚のカサカサしたそれらを振り払いたい衝動に男は耐える。 耐えるしかない 少年のためだ。 「やっぱり、君はこういうモノに憑かれにくい。いいね、やはり『才能』がある。今あらためて確信したよ」 タテアキは気付けばベッドから少し離れたところで感心したように男と少年を見ていた。 「はよ、助けろや!!」 蟲に集られながらとうとう男はキレた。 小柄な少年の中に入っていたとは思えない量の蟲は少年の鼻の穴、耳の穴、そして、物理的に出てこれるはずがないはずの、目の涙腺の穴からも流れ出していく。 カサカサ カサカサ カサカサ それは発狂するような音と、奇怪な集合体で。 灰色の綿毛を纏った蟲たちに少年も男も覆い尽くされていく。 だが少年の中にも男の中にもそれらはもう入ろうとしなかった。 男が悲鳴をあげた。 虫は本当は苦手なのだ。 毛虫など、絶対に無理なのに。 「見」 タテアキが手を打ち合わせ、唱えた。 響く手の音。 そして耳に残る声は部屋を満たす。 突然蟲達が止まった。 頭らしきものを全ての蟲がもたげてタテアキを「見た」。 今初めて気付いたかのように。 なはさらなかを ならはこなやわ 低音と高音を擦り合わせるような声で蟲達が鳴いた。 そう、鳴いたのだ。 蟲は互いに絡み合い、うねる固まりになる。 蛇のように。 鎌首をもたげる。 そして、少年と男から離れて、タテアキへと向かおうとした。 「手を離せ!!」 タテアキが男に命令した。 男は「オレに命令すんなや!!」と怒りながら、少年の頭と顎を押さえていた手をはなした。 タテアキへ、ヘビのような形に固まった蟲達が飛びかかる。 その穴という穴から中へ入ろうと。 その時、少年の開かれた口から何かが飛び出した。 いくら懸命にあけたとしても、少年の口は小さい。 男のを咥える時にも一所懸命なところを見てい、男が思わずにやけてしまう可愛い小さな口、 そこから飛び出したのは少年よりもはるかに大きな鳥だった。 物理的に不可能。 だが、少年は自分の体積以上の量の蟲を吐き出したので、気にするところではないのかもしれない。 白い羽毛の代わりに鱗を纏った鳥は巨大な赤い嘴を開いた。 嘴の中には鋭い歯がいくつも並んでいた。 「鳥」ではなかった。 ならさかほらは ならさからさは 蟲達の悲鳴が確かにした。 蟲達はタテアキに襲いかかる前に散った。 そこには恐怖があった。 だが埃のように散らばっていく蟲達を「鳥」は許さなかった。 開かれた嘴からのたうつ蔓のようなものかのびる。 舌だとわかった。 長い長い舌が逃げ惑う蟲達を掬いとっていく、カメレオンのように。 大量の蟲たちは、どんとん鳥の腹の中へと消えていく。 「鳥」は蟲を逃がさなかった。 綺麗に食い尽くされた。 鳥は満足そうに鳴いた。 金属が軋むような声で。 「満足かい?」 タテアキは「鳥」に話しかけた。 これは鳥ではないが、間違いなく。 「契約終了だ。いい取り引きだった」 タテアキは丁寧に鳥に一礼した。 鳥も鳴いた。 それが言葉なのかは男にはわからなかったが。 わかったのは。 少年に憑いていた何かは、消えたということだった。

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