29 / 84

仮面 2

「嫌や、こんなところで・・・」 押し殺した声がする。 「ええやん、お前が声さえ出さへんかったら大丈夫やんか・・・なぁ、させて」 強請る声は確かに「お願い」だったけれど、返事の前に微かに声が上がったので「承諾」を求めてはいなかったようだ。 「痛っ・・・」 細い悲鳴がしたが、そこからは耐えるような押し殺した声しかしなかった。 「痛かった?でも毎日しとるから、すぐ気持ちようなるやろ?それにおまえ、痛いの好きやん」 囁く声と、肉が肉を打ち付ける音。 激しく突き上げる音だ。 少年は知ってる。 酷く犯されることのエキスパートだったから。 しかし、少年は困ってしまった。 自分の寝ているベッドの下で、始まってしまったからだ。 これは・・・。 寝てるふりをするしかない。 「ほら、もう勃ててるやん・・・可愛いなぁ」 声は優しく愛おしそうなのに、聞こえてくる突き上げははげしくて。 酷くされなれた少年は音だけでそれがわかってしまう。 それでも相手が感じてしまってるのは確かだ。 声を押し殺し、あえいでいる。 でも。 少年はよくよく知ってる。 酷くされるのに慣れてしまうとそれに感じざるを得ないのだ。 酷さから逃げるために。 だからあえいで感じている彼がこういう行為を受け入れているかどうかは疑問なのだが。 嫌だといっているのに始まったわけだし。 でも。 「可愛いなぁ・・・足腰立たんなるまでヤって、こんなかオレの出しまくって、全身噛んでやりたいわぁ・・・」 やたらと酷いことを強いてる人の声はとても甘いのだ。 「ああっ・・・痛い・・・」 泣き声。 「噛まれんの好きやろが。中がキュンキュンしとるやん、それとも・・・嫌なんか?」 低い声は甘さと凶暴さが同居してる。 「嫌だ」と言わせない凶暴さがある。 この人がこんな人だとだれも思わないはずだ。 いつもニコニコして、無邪気で明るいこの人が、乱暴に恋人を責めるのをこのむサディストだとは誰も思わないはずだ。 少年もいま初めて知ったのだから。 「嫌やない・・・嫌やない・・・」 何故か必死で否定するのは、酷く抱かれている彼の方で。 「嫌やないから・・・ホンマやから・・・嫌いにならへんといてぇ・・・」 その声の悲痛さに少年は胸が傷んだ。 その声は自分の中にある声に似てた。 いつもこの部屋で共に暮らす男に持ってる不安だ。 自分に飽きたら、嫌われるのでは。 いつか男の気まぐれが終わるのじゃないか。 その不安と同じモノがその声にあって。 でも、少年には言えない言葉だ。 「ホンマ・・・ホンマ・・・おまえはアホやな!!まだそんなこと言うんかい!!!」 唸り声がした。 その人は怒っていた。 それも激怒していた。 「嫌いになるかい、愛しとるんや!!」 もう少年の存在を忘れて怒鳴っていた。 その怒鳴り声に驚いて少年は起き上がってしまったけれど、2人は気づかないようだった。 白い痩せた身体を組み敷いて、激しく酷いつきあげがまた始まっていた。 「あぁっ・・・!!ダメぇ・・・、ああっ!!!」 逃げる身体を引き寄せて、激しく突き上げる。 歯を立て喰らい、犯し続ける。 獣が獲物を食らうようなセックス。 少年は怯える。 少年はこういうセックスを男にはされたことはない。 激しくされたことはあるが、でも、絶対に少年を思いやるようなセックスしか男はしない。 「愛しとるって言ってるやろが!!!」 でも 悲鳴のようにさけぶのは犯しているはずの人で。 「イクっ!!イクっ!!」 彼が泣く。 でも喰われるようにイカされる彼にはその人のコトバは届かない。 もうベッドに起き上がってポカンと見ている少年に構わず、二人は身体を繋げあっていた。 少年は虐待と抑圧の中で育ち、人間関係の正しいあり方がわからない。 そんな少年にもなんとかわかる。 このカップルはお互いの認識に問題があるのだな、と。 それは男と少年の関係よりも難しそうだった。

ともだちにシェアしよう!