31 / 84
仮面 4
「タテアキ程度じゃ何も出来んやろーが、俺になら出来る」
彼は断言した。
少年が夢魔蟲という蟲に取り憑かれた件で、タテアキ以外に「専門家」である彼にも男が助けを求めていたのだ。
だが、別件で遅くなり、結局タテアキが蟲から少年を助け出した。
それが彼には大いに気に入らなかったらしい。
タテアキは大して彼を気にしている様子はなかったが、彼は気に入らない。
彼のタテアキにたいするコンプレックスは根深いらしい
「俺が時期当主や。あんな家を出ていったようなヤツごときに時期当主である俺が劣るわけがないやろーが」
と珍しく自分から言い出して、少年に封印をかけることを申し出てくれた
人間、特に男性の精を怪異は好む。
しかし人間そのものが怪異達とは異なる世界に属するため、人間は狭間に迷い込むか、狭間から彷徨い出た怪異に出会うかしない限り、襲われることはない。
実は狭間以外でも世界が重なったことに、怪異も人間も気付かないことも多くあり、「人間であること」が怪異へのガードともなっているのだ。
だが、少年のように何度も何度もその中に怪異の精を受けると違う。
影響を受け、人間というものから離れてしまうからこそ、見つかりやすくなってしまう。
こちらとあちらの世界は重なりあいながら存在し、狭間と言われる場所で繋がるのだが、狭間以外ででもあちらに存在してしまえることがあり、そうなったら、怪異達は喜んで少年をむしゃぶりつくすだろう。
まあ、そこまではいかなくても、こちらに迷い込んできた怪異達に少年は目立ち見つけやすい。
「だから、あわたをコーティングする。あんたに印を逆につけて、手を出せないようにする」
彼は言った。
「見つからないようにするのはもう難しい。もう、無理や。毎回毎回毎回、俺やタテアキを呼ぶとしても間に合わないこともあるかもしれん。だが、俺はタテアキとは違う。何かある前になんとかしてやる。なぜなら俺はタテアキと違って天才やし、次期当主やからな」
偉そうに彼は言った。
タテアキより優秀であることが彼にはとても大事なのだとよくわかる。
「お前天才やもんな!!」
恋人であるあの人も当然のようにそういう。
心の底からそう思っているのが良くわかる。
セックスの時以外はひたすら恋人を崇め、尽くし、従属することに悦びすら感じている人なのだ。
あのベッドでのサディストとは別人だ。
喉奥まで犯し、自分の足の指までしゃぶらせていた、凶暴な、でも、やたら嬉しげな姿と、今の恋人に何を言われされて喜んでいる姿がどうしても重ならない。
だがそうなので、人間って分からない。
少年はそう思う。
「お前はスゴいもん、天才やもん、カッコイイもん」
心の底からその人は言う。
彼はその言葉に嬉しそうだった。
口許が少し緩んでいたから間違いない。
とにかく、少年も怪異に狙われるのはごめんだったし、男だって少年が狙われるのは嫌だ。
男が少年の傍にいられないことも多々あるのだ。
だから、2人は彼の申し出を喜んで受けた。
それで、男と少年の家に、彼とその恋人が準備がととのうまで、少年のボディーガードを兼ねていることになったのだ。
男は仕事で出なければならなかったこともあって。
準備とは?
術とはどんなモノなのか。
その説明はまだ受けていない。
だが受けるしかなかった。
なかったのだ。
ともだちにシェアしよう!