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途中ですが 閑話 少年と男のハジメテ

その病院は一見文化住宅と呼ばれる安アパートにみえる建物の中にあった。 ひとつの玄関からはいって、2階まである建物には数部屋があり、トイレや洗面所、そして風呂も共同な作りだ。 ただ、ボロボロの外観に反して、玄関から先はリフォームされ、無理やりな感じはあるが小綺麗な風にはなっている。 病院としての看板は出していない。 出せないのだ。 非合法の病院だから。 病院にはいけない理由がある人たちが主に利用している。 逃亡犯、ばれてはならない銃創、刺傷等の普通の病院なら通報されるようなケガ、法律違反の堕胎、違法な整形。 街中の小汚い文化アパートがまさかそんな病院だとは誰も思わない。 ひっそりとそれが必要な者達のためにその病院はある。 数少ない入院患者もいる。 その一人が少年だった。 化け物に襲われ、犯され、指まで喰われて。 両腕とろっ骨を折られてここにかつぎ込まれた。 入院するほどの傷じゃない、とここの無免許医者は言う。 直ぐに手術が必要な傷以外はここの医者にとっては軽症なのだ。 指の2本くらい、自分で傷口を焼いて血を止めろと平然というだろう。 でも、 ここにいる入院患者と同じで、隠れるために少年は入院している。 両手が折れてるから生活の世話も必要なのだ。 無愛想な看護師が日常生活を助けてくれる。 もうひと月になる。 少年は無感覚のまま、ぼんやり天井を見つめていた。 師匠と呼ばれる大男が何度か来てくれた。 師匠程ではないけれど、大きな若い男と一緒に。 その若い男は覚えていた。 少年を師匠に言われてこの病院に運んでくれた男だ。 服を破かれ剥ぎ取られ、犯されたままの姿だった少年を高いスーツがダメになるのを厭わず、スーツに包んでくれた。 また、高いシャツやネクタイをダメにして止血してくれた。 医者に運ぶ間も、病院で待ってる間も優しく髪を撫でてくれていたので覚えてる。 そんな風に髪を撫でられたことなんてなかったから ただ、そんな酷い目にあった少年を前にして 「男って抱いてみたらどんな感じなんやろ? 」 と不思議そうに言うひとでなしで、それにはちょっと呆れた。 が、そう思って口にするより先にレイプしてくるような人間の中にいた少年にはまあ、大したことではなかった。 師匠と来る時は男は大人しく隣りに立っているだけで、でも少年を見つめる目には好奇心があるのが丸わかりで、少年は苦笑したのだった。 恐ろしいくらい顔の調ったこの人なら自分じゃなくてもいくらでも相手がいるだろうに、と。 とにかく、これから先のことを「悪いようにはしない」師匠は約束してくれた。 師匠は何故か信じられた。 父親から逃がしてくれる、と。 でも。 少年は思ってる。 父親から逃げたところで。 何も変わらないんじゃないかと。 父親のような捕食者達は一度犠牲になったことのある人間を直ぐにみつける。 印が自分にはつけられている。 また違う誰がに食い物にされるのだ、きっと。 化け物に殺されていた方が良かったのではないか。 それについてばかり考えていた。 無力感でいっぱいて。 せっかく死ねたのにな、等と考えていて。 そんな時に、男が訪ねてきたのだ。 ベッドに直接腰掛けてられ、優しく髪を撫でられた。 当たり前のように。 その指の優しさを拒否出来なかった。 そんな風に優しく触られたことなどなかったから。 男らしい整った顔を近づけられ、囁かれた。 「なあ、お前男に抱かれるの慣れてるんやろ?抱かせてくれん?一度男としてみたいんや。優しくするから」 甘えるように酷いことを言われて。 笑ってしまった。 でも笑ったら、男も目を細めてわらって。 それに見蕩れてしまった。 この人はなんて優しく笑うんだろう。 「優しくする。絶対に酷いことはせんから」 懇願されて。 誰もさせてくれなんか聞いてくれなかったのに。 意志なんか無視して、好きなように使われてきたのに。 それに優しくなんかだれもしてくれなかったのに。 どうでも良かったから頷いた。 この人なら、自分なんかじゃなくてもっと綺麗な人と出来るのに、と思ったけれど。 色々助けてもらったのに、誰にもなににも返せないのだから、まあ、身体くらい、いいかと。 どうでも良かったのだ。 男が嬉しそうに笑った。 その笑顔に驚いて。 その瞬間から男に少年は囚われている。

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