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途中ですが、閑話。男と少年のハジメテ2

抱き起こされ、そっと胸の中に抱きしめられた。 そんなこと。 されたことがない。 のしかかられ、玩具のように扱われたことしか。 髪を撫でられ、頭のてっぺん、頬、目元、口許、とやさしくキスが落とされていく。 そっと触れるだけの。 甘やかで優しい、こんな感触は知らない。 こんなことされたことがない。 子供の身体を舐め回したい、口の中まで貪りたいだけの捕食者達はこんなことはしない。 恋人にするような甘やかしに、少年は震えた。 初めてキスされる少女のように。 ドキドキして。 怖かった。 優しさが。 そっと触れた唇と唇にビクンと身体を震わせた。 優しく何度も何度も重ねるように離れてはまた、触れて。 そんな優しい面映ゆいキスは初めてで。 目を閉じることを知らない少年は、男の長いまつ毛が凄く近くあることにときめいて、初めて行為の最中、虚ろに開けてるだけだった目を閉じる。 目を閉じないのは、何されるかわからないのが怖いからで。 今、目を閉じたのは。 信じたからだ。 この人は酷いことをしない、と。 目を閉じてするキスは。 男を身近に感じられて。 両腕がまだギプスで固められて居なかったなら、強くすがりついたかもしれない。 何度も何度もキスが重ねられる内に、少年は自分から男にもたれかかっていた。 寄り添うように。 男は抱きしめくれる。 そして、優しく入ってくる舌を少年はおずおずと受け入れたのだった。 ちゃんと舌を使え、そう言われるからじゃなくて。 優しい舌が欲しかったから。 優しく舌を吸われて、甘く噛まれて。 震える身体をしっかり抱きしめられて。 そんなの。 初めてだった。 キスだけで若い身体はそそり立つ。 無意識に硬い男の腹にそれを押し付けて腰を動かしてしまう。 男が抱き抱えた尻に硬いモノをズボン越しに押し付けてくるから、男も興奮しているのだとわかって。 何故かうれしかった。 でも、 優しい指にパジャマを脱がされた時、怯えた。 もう男は知っているはずだけど。 裸の身体をスーツで包んでくれたのは男だから。 少年は自分の身体にあるたくさんの火傷や傷の痕に男が萎えるのを恐れた。 終わってしまいたくなかったから。 バジャマの袖を抜かれる時、その肩から背中にある火傷に男か目をやったのがわかり、男がその醜さに嫌悪したのではないかと、震えた。 背中はもっと酷い。 何度も何度もタバコを押し付けられ焼かれ、犯され続けたから。 嫌になってしまう? やめてしまう? そういう男達もたまにいて、その時にはこの傷跡に感謝したけれど、今は悲しかった。 この人にもっと触れられたかったから。 男の優しい指が盛り上がったケロイド状の火傷痕を撫でる。 そっと優しいキスがそこに落ちた。 「痛かったか?」 その声にはいたわりしかなくて。 小さく頷くと、優しい舌が舐めてくれた。 もう遠い昔に感じられるその火傷がつけられた日にそうされているようで。 一人傷つき泣いていた時に手を差し伸べられているようで。 少年は少し泣いた。 ゆっくり背中を向かされた。 そして男はその背中に無数にある火傷の痕、1つ1つにキスをして舐めていく。 まるで癒そうとするかのように。 「ああっ・・・あふっ・・・」 少年はその舌に感じていた。 そこはもう感覚がないところなのに。 盛り上がったピンクのゴムのような火傷痕を男が舐める。 その舌の優しさに感じる。 いたわりが、優しさが、思いやりが、身体を溶かす。 物理的な刺激と、苦しみから逃げるためにしがみついてきた快楽とは根本的に違った。 「痛かったか・・・可哀想やな・・・」 優しい優しい声で。 少年は達していた。 背中を舐められるだけで。 恥ずかしかった。 もうどんなことをされるのにも慣れていて、恥ずかしがることなんてないと思ってたのに。 傷跡をなめられて。 ここまで感じてしまうのは自分の心に触れられるからで、そこに触れられることがたまらなく恥ずかしかった。 そこに触れられたなら、こんなにも感じてしまうことに。 ビクビク震える身体を撫でられる。 優しく抱きしめられる。 その優しさが怖かった。 これから始まることは自分の知ってるセックスとは違う。 これは自分を変えてしまう、それがわかった。 「優しくするからな・・・、ああ、お前・・・可哀想で可愛いやん・・・」 男に頬擦りされる。 「たくさん優しくしたるから・・・いっぱいイキ・・・」 優しい声と、包み込まれるような抱きしめかたも、少年の知らないモノだった。

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