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仮面 15
イガラシは自分の部屋のベットの上に仮面を置いた。
寝ころんで眺めた。
恐ろしくて、奇怪で、美しい。
こんなモノ初めて見た。
指でその造形を楽しむ。
指先に繊細に作られていることがわかる。
滑らかに削られ、ニスのようなモノで磨かれた冷ややかな触感が伝わる。
奇怪な文様が彫り込まれてはいても、怒りのような表情ではあっても、この仮面は男前だな、と変なことをイガラシは思って、その可笑しさに自分で笑った。
こんなもの、イガラシにはなんの役にも立たない。
でも、何故か手離したくない。
鮮やかな仮面の赤い髪に触れた。
一瞬、絹のような糸で編まれた縄で出来たその髪が、体温があるように感じて思わず手を離したが、もう一度触れると、冷ややかな絹の冷たさが伝わってきた。
ベッドに置いた仮面の上に、覆い被さるようにして、仮面をじっと見る。
まるで恋人の顔をベッドで覗き込むように。
ふとそう思い、
またおかしなことを考えたとイガラシは笑ってしまう。
こんな仮面が恋人では嫌だ。
胸の大きな女の子がいい。
恋人にするなら。
この部屋のこのベッドに連れ込んで、朝まで泣かせてやるのだ。
でも。
そんなことはしたことがない。
イガラシの父親も母親も長く帰ってきてない。
金だけは渡された通帳に振り込まれているのでもんだない。
だから連れ込みたい放題なのに、イガラシにはなかなか女の子とそうなるのが難しいのだ。
童貞だ。
陰キャの自分ではな。
イガラシはため息をつく。
大人しいイガラシは高校でも女の子にも話しかけられない。
友達は同じく陰キャの連中だけだし。
寝転がりすることがないから、ズボンを下ろしてオナニーをした。
胸の大きな女の子のことを考えて。
イガラシはオナニーの達人なので、動画や画像のオカズ無しでも十分イケる。
妄想だけで事足りる。
胸の大きな女の子を泣かせる妄想で2度抜いた。
でも、イガラシは気づいていなかった。
イガラシがその手の中にはなった時、仮面の穴でしかない目にオレンジの瞳が見えたことに。
誰もいない仮面の向こうから誰かが覗いているように。
その目はイガラシを見ていた。
ねっとりと。
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