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仮面 22

「ボケが・・・捨ててこい、さっさと!!元にあった場所に戻しとけ」 彼は電話の向こうでやっぱり怒った。 捨て猫を拾った時の父親と同じ言い草だったし、本気で言ってるのもわかったけれど、その理由が少年を案じているからだというのが分かったので、少し少年は嬉しい。 怒られてるけど。 元あった場所に戻せないけれど。 猫は泣きながら戻したけど、この子は戻さない。 戻さないと言えば舌打ちされた。 「ゲスはどうしてるんや!!」 聞かれる。 ゲスとは男のことだ。 彼と彼の恋人である男の弟は、「あのゲス」と男のことを呼ぶ。 少年にしてみれば、殴ったり乱暴に犯したりしないどころか、とても優しくしてくれる初めて会った立派な大人なのだが、あの二人はそれを言うと鼻で笑う。 「んなわけあるかい」と。 でもあまり言うと少年が悲しくなって泣いてしまうので、言わないでくれるようになったけど、呼び名だけは「ゲス」なのだ。 「お仕事でいません」 少年は言う。 「まあ、あのゲスが頼むんやったら俺よりタテアキやろからな。・・・言うてへんのか?ゲスには」 少し優しい声になる。 酷く怖い人だと思っていた彼は、どんどん少年には優しくなっている。 それはあまり良くないことなのだ。 彼は人間以外にはとてもとても優しいから。 拾ったこの子が「ヤバい」ことがわかる時点でもう人間からは遠ざかり始めているのだろう、少年は。 「言えなくて。・・・嫌われたくなくて」 本音を言ってしまう。 何故なら彼も恋人に嫌われるのを恐れているのを知ってるから。 あんなに愛されているのにそれを信じてないから、信じられないから。 それもわかるのだ。 少年も。 少年も、優しい男が嫌うわけかないと思っていても、だからこそ迷惑をかけらないし、万が一のことを考えたなら耐えられない。 男に嫌われてしまったなら。 少年にはもうこの世界に行き場なんかないのだ。 「そうか・・・」 彼の声には理解があった。 「だけどソレはお前がなんとか出来るもんやないぞ」 彼は言った。 「電話越しにも邪気が伝わってくるわ。手に負えんなったら逃げる、それをまず約束しろ。お前には蟲姫さまの加護がある。大概のもんは手を出せんはずや」 彼に言われる。 約束する。 そうしないと引き受けてくれないからだ。 「まず、その拾ったバカを叩き起して話を聞くぞ。爪の間に針を突っ込んででも話を全部聞き出せ。まずはヒアリングからや」 彼の指示は明確だった。 タブレットでビデオ通話にして、彼にも部屋の様子が見えるようにした。 ソファで死んだように寝ているその子を起こす。 さすがに針は刺さなかったけれど、頬をはたいた。 それでも意識を取り戻さない。 「爪に針刺せ。一瞬で起きるぞ」 彼は鬼畜だ。 本気で言ってる。 人間相手には優しさがない。 少年は悩んだ。 でも針を刺す代わりにその子の手を握り、耳元に話かけた。 「起きて。助けたいんだ。お願い、目をさまして」 少年は届くように願いながらハッキリと発音した。 こんな風に眠るのは現実から逃げたいからだ。 毎日犯されながら少年もずっとその合間に寝ていた。 寝ている間は現実から逃げられるから。 助けが得られるのなら。 現実に帰ってくるはずだ。 少年の言葉は届いた。 その子は目をさました。 「助けて」 その子は、イガラシは、泣きながら少年に言った。

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