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仮面 23
「仮面・・・ちょっと待て・・・確か・・・」
彼はイガラシの話を聞いたとたん画面から姿を消した。
体力がまったくないので速く動けないはずなのに、物凄いスピードで動いたので彼の興味を引いたのは間違いない。
怪異に関してのみ、彼は興味と愛を注ぐ。
しばらくして戻ってきたかれは古い和装の本を手にしていた。
手書きの本だ。
開いたページに筆でスケッチされた絵がある。
そこに仮面があった。
奇怪な仮面が。
その舌がどこまでも伸び、やたらリアルに描かれた女性の陰部に潜り込んでいるのも。
「仮面茸や。良かったな、悪意はない怪異や」
彼が言った。
「全然良くない・・・」
何度も何度も犯されたイガラシが号泣する。
少年もイガラシに同意する。
「お前にはレイプかもしれんが、向こうにはそんなつもりはサラサラない。単に繁殖のための苗床を作ってるだけや。弱らせて、繁殖しやすくなる環境に胎内を整えてから、殺して胞子をぶち込む。だいたい数時間で菌に食い尽くされて死体も残らん。ある程度育った菌をまた仮面が回収する。それの繰り返しや。最終的に繁殖した菌が仮面の形をとるまでには100年近くかかるし、苗床にされる人間を殺すには数年以上かかることもある。育児する菌類という極めて珍しい存在やぞ、仮面茸は」
興奮気味に早口で話されても、イガラシに少年にもどこら辺が良い話なのかさっぱりわからない。
イガラシに至っては数年がかりで犯され殺され菌の繁殖地にされると知って泣いている。
「どのへんが良い話なんですか?」
少年は言う。
「少なくとも嫁や伴侶目的じゃないということや。怪異は人間とは違う。1度決めたら絶対に諦めない。菌類だから手に入るものを利用しているだけで、執着はない。苗床以上の価値はない、良かったやないか」
彼の言葉にイガラシはさらに泣く。
「全然良くない・・・」
腹の奥まで犯されて、苗床にされてるだけだといわれてもイガラシ的には納得いかない。
「感情がないだけ有難いと思え。ホンマに彼らに見込まれて、ちゃんと申し込みをされたのを受けてしまったら絶対にキャンセル出来へんからな。それに、苗床にしやすい身体に弄られているだけで、精気をうばわれたり、精を流し込まれているわけやない。人間からは遠ざからんで済んとるんやからな、良かったな」
どうやら彼にも言わせたら、感情のない菌類だからこそ、どうにかできる可能性があるし、怪異に犯されてもまだ人間でいられてるのでラッキーということらしい。
「どうすればいいんですか?オレの時みたいに、天敵を使うとか・・・」
蟲に取り憑かれた時、タテアキは天敵の「鳥」を連れてきた。
菌類にも通用するだろうか。
「おらんわけではないけど、そう簡単には連れてこれん。アレはタテアキが逆に鳥から頼まれていたから出来たことや」
彼が気に入らなそうに言う。
蟲に取り憑かれた少年をタテアキが救ったわけではなく、鳥のためにタテアキが蟲を探してきた結果、少年は助かったわけで。
その偶然がなければ少年は殺されていたわけだ。
精を奪われ注がれ、人間では無いものに変えられながら。
「まあ、もう少し待てや。何か対策を考える。少なくとも正体はわかった。俺のおかげでな」
彼は言った。
「待てってどれくらい?」
イガラシは震える。
もうすぐ夜が来る。
犯される夜が始まる。
「分からん、出来る限り急ぐ、喜べ、今は他に扱ってる案件もないしな。仮面茸やしな、仮面茸かぁ・・・」
何故だか彼は嬉しそうではある。
怪異の調査程彼が好きなものはない。
イガラシは泣く。
少なくとも今夜も犯される。
イガラシの心は壊れてしまう。
もうボロボロなのだ。
「俺がなんとかしてやる言うたならなんとかしてやる。でも、今すぐは無理や、諦めろ」
彼は冷酷だった。
人間に対しては大体そうなのだ。
「わかり次第連絡する、ソイツは家に帰しておけ。どこにいたって同じことなんやから。セックスやない、単に身体を弄られてるだけやと思え。向こうは快楽得てへんのやし」
彼なりに気を使ったのかもしれない。
だがイガラシには全く慰めにはならなかった。
彼からの通話は一方的に途絶えた。
調べてくれてるのだとはわかる。
だが見捨てられたようでもあって、イガラシと少年は心細くてたまらなかった。
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