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仮面 34
「俺はペンダントを何があっても外すな言うたはずや」
怒っているのは彼だった。
彼が男に連絡したのだ。
少年が飛ばした人型はちやんと少年の危険を彼に伝えてくれた。
そこから彼は出来ることをしたのだ。
仕事を終えて、携帯も通じない場所から明日にでも家向かうつもりだった男に迎えをやった。
男も驚いただろう。
のたうつようにうごめく巨大な蟲が現れたのだから。
蟲姫とは違ってまったく美しくはない、芋虫のような牛や馬ほどの大きさの蟲だった。
蟲に乗れと促された。
何故か蟲が言ってることがわかった。
嫌だけど乗った、そのヌルヌルしている背中に。
蟲など大嫌いなのに、乗った。
彼の使いだとわかったからだ。
タテアキなら鳥系の怪異が来るからだ。
彼は蟲系の怪異と親しいらしい。
そして使いが来るのは少年に関することだ。
一緒にいた師匠は「オレは嫌。絶対、嫌。気持ち悪い」と乗らなかった。
男だっていつもならそうする。
少年絡みじゃなければ。
そして。
思い出したくもない。
あのキモイ蟲に乗り、不快この上ない闇を抜けて。
数時間もたたないうちにマンションの駐車場にたどり着いていた。
蟲にはそれでも礼を言った。
この距離をこの時間で移動するのは物理的に不可能だったからだ。
男達は外国にいたのだ。
今回は。
ややこしい事件のためにそこにいた。
仕事に使っていた刀を抜いてマンションの階段を駆け上がった。
そして・・・。
少年が犯されているのを見たのだ。
まあ、色々と男も経緯をやっと理解したところだ。
でも、一番怒っているのは彼だった。
「どないも出来へんから諦めろ、言うたやろ俺は。でもちゃんとしたるから、それまでの辛抱やと」
彼の言うことは尤もで。
でも、少年は壊れていくイガラシを見ていられなかったのだ。
イガラシはまだなんとか無事で、毛布を被って震えてて、それを少年が抱きしめている。
男は面白そうにそれを見てる。
「3P・・・」
何か呟いているのを彼は睨みつけ黙らせた。
「だまっとけゲス」
男は黙った。
彼は蟲の怪異を呼び出したりする。
自分の影に怪異も飼っているし。
黙ってしたがっておく方がいい。
何より弟が煩いし。
今日はいないけど。
後輩の試合のセコンドなのだそうだ。
来たがったが、来させなかったと彼が言っていた。
「今回で取っておきの契約まで使ってもうたわ・・・」
彼は不機嫌だ。
怪異達とは対等に契約を結んでいるのだ。
今回男を呼び出す為に浸かったので1つ契約が消えてしまった。
どれだけの契約を持つかが、彼やタテアキのような術士の力になるので、無駄に使いたくないはずだ。
だが、彼は少年のために使ってくれたのだ。
「ごめんなさい・・・」
少年はしょんぼりあやまる。
でも。
後悔はしてなかった
イガラシを守りたかった。
守られなかった自分の過去の代わりに。
「誰かの代わりにお前が傷付く必要なんかないやろう」
彼は怒っていたが、それは少年を思ってのことだとわかる。
彼は貴重な契約を使ってでも男を呼び戻し、少年を助けてくれたのだ。
イガラシ相手なら「殺されはしないだろ」と犯されるのを放置したのに。
まあ、これは。
もう少年が人間から遠ざかりつつあるからで。
彼はとにかく人間以外には優しいからで。
でも。
間違いなく彼は少年を心配してくれたのだ。
しょげてる少年を見て彼は舌打ちをした。
「まあ、ええ」
彼にしてみれば格別の優しさだった。
イガラシが着けているペンダントを睨んだが、無理やりもぎ取ったりはしなかった。
男も彼も。
少年の意志を尊重しているのだ。
「しゃあない。今夜片をつける。だけど、急ぐ以上手荒なやり方になるで。お前がそのペンダントを着けない以上、無事にはすまない。ええんやな?」
彼はため息をついた。
少年は頷いた。
男も何も言わない。
「ええのん?」
男に彼は聞いた。
ちょっと驚いた風に。
「コイツがそうしたいならええ。誰に何をされようと、オレのもんやし」
男はアッサリ言った。
「ああ・・・そう???」
彼は納得いかないようではあった。
「ほな、準備始めるで!!今夜で片をつける」
彼は言ったのだった。
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