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仮面 42

バチン バチン 部屋の照明が弾け飛んだ。 男は跳ね上がり、一脚足の怪異ごと少年に覆いかぶさり砕ける破片から少年を護った。 破片は服に刺さるものもあった。 少年と虫達は貪り合うのに夢中でそんなことを気にしてない。 男の頬を破片が掠め、血が流れたが男は表情1つ動かさない。 先程まて、あれほど楽しんでいた顔が変わっている。 男は真顔で。 その目はこわい程で。 ドアを見つめていた。 一本脚の怪異は動じることなく変わることなく少年を穿ち続けている。 メタリックな質感の身体が少年に覆いかぶさり、不気味に大きく開かれた頭部はまるで少年の頭を飲み込みそうに開かれている。 その頭部からボタボタと落ちる唾液が少年を汚す。 が、少年はそれも気にしてない。 それどころではないのだ。 一本脚が下腹部を打ち付けてくる度に、少年は高く鳴いて、イキつづける。 手の怪異達が貪る、身体への愛撫にも喜んでいるのがわかる。 震えるペニスは壊れたように射精し続け、尖る乳首、舐められ撫でられけいれんする身体。 少年は全身で喜んでいた。 男もだからそこは気にしなかった。 男もそれを視て楽しんでいたのだから。 エロくて可愛くて愛しいだけだ。 でも、問題はここからだ。 バン ドアが叩きつけられるように開いた。 そして、瞬間移動したかのように怒り狂った仮面の怪異が部屋の天井に張り付いていた。 赤い髪が光るから、暗闇でもその姿が見える。 ならはさららは ならはなよなは 仮面が喚いた。 赤い髪は天井全体に蜘蛛の巣のように広がり、金色の目が爛々と光り、避けたような口から鞭のようにしなる長い長い舌が飛び出していた。 仮面は怒っていた。 一本脚の怪異、手の怪異、それらが貪る少年を見て。 少年、「それ」は仮面のための苗床だった。 自分の菌糸を植え込むために、そのために作り替えている途中の苗床。 大切な大切な苗床を、他の怪異達が今、荒らしていた。 許せるものではなかった。 だが一本脚達は気にしない。 きしゃあ きしゃあ 一本脚が喚きながらまた少年の中に放った。 少年の精を貪るための行為だが、快楽を得ているのは間違いない。 喜悦に歪む虫の顔。 「熱い・・・いっぱい出た・・・ああっ、イイッ!!」 少年が出されながら腰を振る。 つま先が丸まり、そのつま先さえ、手の怪異に舐められて扱かれている。 全身を性器にかえられて、悦び鳴いている。 男は一瞬その少年の顔を見て頬を緩ませたが、すぐに天井へ目をやる。 ベッドのかたわらにある刀を抜いた。 ここからは予想がつかないからだ。 男は、少年を護るためだけにここにいる。 少年の痴態を視て楽しんでいたのは間違いないが、こっちが本命なのだ。 ベッドの下でイガラシはまだ自慰に狂っている。 穴を指でいじり、足りない虚しさに泣いて、でも止められない。 後ろだけでまたイった。 触れることのない前からほとばしらせている。 怪異達には少年程じゃなくてもご馳走なはずだ。 だが蟲姫のペンダントを身につけたイガラシには怪異達は近寄ろうともしない。 部屋の中央に立つ彼は彼でちゃんと加護があるので怪異達は近寄らない。 彼は自分の影に怪異を飼っているのだ。 その中の1人は蟲姫に劣らない強力な怪異だ。 男は少年やイガラシや彼のように、怪異達と深い接点を元々もたない。 怪異に見つかることから怪異と人間の接点は始まる。 言葉のやりとり、性交などから怪異と人間の間は分かちがたいものになってしまう。 が、本来ならば怪異達に見つかりにくい存在なのだ。 人間と怪異は交わることがないはずのものだから。 イガラシや少年のように偶然その道を開いてしまったか、彼のように自らその道を開かない限り。 だから男の存在は、怪異達には薄暗い。 特に知性のないここにいる怪異達には。 見えないも同然だ。 そして、本来なら男の目にも怪異達は見えない。 だが、男には「才能」がある。 タテアキや彼が認める才能が。 怪異達との必要な接点を持たなくても、「視る」ことのできる才能。 男には視える。 そして、斬れる。 それだからここにいる。 だが。 まだだ。 まだ。 少年と一本脚から、男は離れた。 とりあえずは見守るために。 「奥ぅつ!!!奥でぇ・・・ああ・・・ダメぇ!!!」 奥に押し入られて、少年が鳴いている。 ぶち抜いて、責め立てたなら、先にキスするように締め付けてくる少年の穴の奥、ソコ。 ソコを化け物に可愛がられてるのだ。 ぐちゃぐちゃと責め立てられて。 可愛いとしか男は思わない。 なんならじっくりそれを見ていたいか、残念ながら今はそういう訳にもいかない。 守るためにいるからだ。 だがあとで、どうだったか言わせながらそこを責めてやろう、とは決めていた。 仮面は苗床を汚されて怒っていた。 他の怪異が苗床に干渉したなら、苗床が変容してしまうかもしれないからだ。 他の怪異の精を掻き出して、もう一度自分の精で満たさないといけない。 そう思っているはずだ。 引い知性しかもたないからこそ、こういう怪異は本能的に動く。 仮面の怪異の舌が伸びた。 一本脚の昆虫めいた頭部にまきつく。 そして、仮面の怪異は一本脚の頭部を胴体から引き抜いた。 赤い体液が迸り、少年に飛び散る。 頭部はベッドの下に転がった。 人の頭を丸呑みに出来るくらいに開かれたまま。 でも。 頭を失った身体はそれでも、少年を穿つことをやめていない。 いや、さらに激しく少年を責め立てている。 いやらしく奥で出し入れするような動き出しから、一気に貫き、引き抜きまた深く貫く動きへと。 奥を突かれて少年が痙攣する。 突く度に穴の全てで鼓舞だらけの虫のペニスを絞り味わっているのだろう。 「セックスに頭部は必要ないタイプや。まあ、頭を無くしても数日は生きてられる」 ここで彼の解説が入った。 「どうでもええ知識やな」 男は刀に手をかけたまま言った。 この先が大事なのだ。 この先が。 少年がまた中に出されて、痙攣していた。 頭のない怪異に犯されて。 頭をちぎっても終わらないことに仮面はさらに怒りを募らせていく。

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