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仮面 50

「解毒はした。でも・・・」 彼は口ごもる。 「正直わからん。お前がどうなってしまったのか俺にはわからん」 彼は少年に言った。 少年には記憶がない。 自分が怪異を喰らったなんて信じられない。 覚えてるのは男がイガラシを犯しているのを見て、悲しくて辛かったことだけだ。 何時間もかかって、彼が怪異から教えられた解毒の薬湯につかり、死ぬほど不味い何で出来ているのかも教えられない漢方を飲まされ、解毒した。 これは上手くいった。 その後で男が抱きしめてくれて、何度も優しく甘くささやいてくれた。 「お前が可愛いんや。お前が一番や。お前が悲しむようなことはせん、悪かったな。他なんかない、お前が一番や、言うてやらへんかったな、ごめん」 男の言葉は信じられないほど嬉しかった。 そんな自分が信じられなかった。 男の一番になりたがっていたなんて。 こんな自分が。 沢山の男達に使われてきて、火傷だらけの醜い身体しかない、美しくもかしこくもない自分が。 でも。 嬉しかった。 身のほど知らずなのに嬉しかった。 「お前が一番や・・・」 そうそう囁かれ、背中を撫でられ抱きしめられ、泣いてしまった、 「嬉しいか・・・ホンマ可愛いなぁ」 男は目を細めた。 その男をソファの上で身動きできないイガラシと、汚い部屋がガマンできないので、影から赤と黒の小動物のような怪異を出して、本気で掃除し始めている彼が、何とも言えない冷ややかな目でみつめた。 「ゲスが。信じられないくらいゲスや」 聞こえるように言いながら彼はビニール手袋で体液で汚れたシーツ等をゴミ袋に入れていく ベッドは複数の人間の体液でぐちゃぐちゃだった。 不思議なことに飛び散った怪異の肉片や、怪異の体液はいつのまにか消えていた。 通常、10数分で霧散する、と彼は説明した 特殊な保管をしないと、こちらではその肉も体液も消えてしまうのだと。 特殊な保管をされたらしい、持ち帰るための資料を彼は少年にはみせてくれたのだった。 金属の箱の中で、一本足の肉片はまだ蠢いていたし、手の怪異の指がビニールに包まれていた。 「なんで俺が・・・」 そして、ぶつぶつ言いながら掃除して、オマケに料理まで作ってくれて彼はかえっていった。 家事と料理にはポリシーがあることがわかった。 「何かあったら・・・連絡するんや」 そう少年に何度も言いって、振り返りながらマンションの部屋を出て行く。 もう人間とは言えない少年に、彼はこの上もなく優しかった。 彼は人間以外には本当に優しいのだ。 流石に動けなくて、ずっといる男の腕の中からマンションから出ていく彼に少年は礼を言う。 「色々ありがとう・・・」 心から、言った。 少年は。 やはり自分でな何もできない。 自分だけではイガラシを助けられなかった。 「このゲスと別れたくなったらいつでも言えや、何をしてでも別れさせてやる」 彼は本気で言っていたけど、それをたのむことはない、と少年は思った。 少年からは。 この人から離れられない。 イガラシもベンダントを少年に返して、家へと帰る。 イガラシはものすごくきまずそうだった。 平然としている男がおかしいのであり、当然だ。 命の恩人の恋人とセックスをしたのだ。 恩人の前で。 まっとうな普通の人間ならどんな態度をとればいいのかわからないのは当然だ。 「あの、とにかく、ありがとう」 イガラシはでも彼に頭を下げた。 少年は微笑んだ。 イガラシを助けたのではなかった。 少年が助けたのは、幼い頃の自分だった。 否応なく犯される自分。 小さな自分を救ったことが、少年の中で何かを変えている。 何なのかわからないけど。 「そのヤラシイ身体、男欲しなってしゃあないやろけど、もうオレは相手してやれんからなあ、コイツが悲しむからな。でもええ穴やぞ、お前。相手にはこまらんやろ、ホンマに悪なかったで」 男が平然と言うから、少年がまた泣く。 それを見て「そうか、可愛いなぁ可愛い、オレが好きか、そんなに」と男が喜ぶから、イガラシはドン引きした。 この男は。 どうしようもないゲスだ。 イガラシもそう思った。 こんな男には 関わってはいけない、とも。 でも、この淫らな身体は男にされたことを忘れないだろう。 良かったのだ。 とても。 今でも可愛い女の子が好きだ。 でも。 欲望を知った身体は、女のように犯されることを望むだろう。 それでも。 イガラシは自分で相手を探して、欲望を遂げるだろう。 そこには。 納得はしていた。 「君にも。オレみたいにいい人が現れるよ」 少年が泣き止んで、言った。 男がヤラシイ目でイガラシを見た。 「バレんようにやろうな」 と言った時のあの目で。 「またこっそりバレんようにヤろうや」と誘われていた。 少年を愛しげに抱きしめながら、目だけでそれを訴えてくる男。 それには正直ゾクリとした。 男の色香は媚薬のようで だが。 それを上回る倫理がイガラシにはある。 普通の人間だからある。 「いや、君の恋人みたいな人はぶっちゃけ願い下げ」 本気で言った。 少年は分からないと言った顔をしたが、イガラシに言わせると少年の方がわからない。 小さく舌打ちしている、このゲスのどこがいいのか。 でも、確かに。 男とのセックスは忘れがたかった。 適格に抉られ、責めつづけられるあの、酷い甘さ。 何度も何度もイかされる・・・。 だが、ゲスすぎる。 あまりにも。 もう少しマシなら、堕ちてしまったかもしれないけれど。 とにかくイガラシはこの身体を抱えて生きていく。 死ぬよりはずっといい。 そう思った。 イガラシは出ていった。 とりあえず、生き延びたことに感謝して。、 そして、少年と男の2人きりになった

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